神声人語―御言葉は異文化を超えて―(55)「義」と「義認」の訳をめぐって 浜島敏

2018年9月17日22時34分 コラムニスト : 浜島敏 印刷
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「義」(righteousness)

義は神の計画の外に存在しているものではありません。義とは、永遠に変わらない基準に合わせることを意味しているからです。

「義人」というのは、ただ「善良な」人というのではなく、神が人のために定められた道に従う人のことです。「善良」という性質は、一定したものではありません。何が良いか悪いかは主観に基づいて規定されることがほとんどだからです。

しかし、「義」というのは人間によらない神の基準なのです。シピーボ人は義なる人を「合致した行動をする人」と言っていますが、それは一時的に自分に都合の良いと見なしていることに合わせて行動するのではなく、自分が正しいと知っていることに合致した行動をとる人のことです。

この「ある基準に順応する」というのは多くの言語で、「まっすぐ」であることと表現されています。カバラカ人は義なる人を「まっすぐ・まっすぐ」と、同じ言葉を2度繰り返して積極的に強調しています。

サカポアストラ・アステック人は、義なる人を「まっすぐな心」を持った人と言います。それに対し、南部メキシコのチョル人は、その人自身が「まっすぐ」であると言います。

義は、しかし、単に行動を表すだけではありません。義には行う義(道徳的な義)と神から受ける義(帰負[きふ](1)され下賜[かし]された義)とがあります。後者は「義の賜物」(ローマ5:17)であって、神の恩寵によって義と宣言されたものです。神は私たちのありのままではなく、可能性を見てくださるのです。

※(1)帰負:神学用語であって、キリストの義を人間のものと見なす神の行為を表す。

バロー・エスキモーでは、この義を「罪を取り去られた」と表現します。これは人が完全なものになって、再び悪を行うことがない、ということではなく、無罪とされたという意味なのです。罪深い人類が持つことのできるのは、この種類の義だけです。これも恵みの賜物なのです。

「義認」(justification)

私たちは、「義認」とか「聖化」という重い言葉を使うことに二の足を踏んでしまいます。こんな言葉は私たちには理解できない。登ることのできない絶壁の上に乗っかるように建てられた神学の城のように思えます。

実はキリスト教信仰の現実的で最も重要な幾つかの体験がこのような言葉で表されているということは困ったものです。悲劇は、それらが手に負えないほど厄介であるために、これらについて話し合ったり、その意味をつかむことができず、その言葉で表さんとしている真理を脇に除けてしまっていることです。

義認とは神が人を正しくし、義に導く過程を言います。サカポアストラ・アステック人は、「心をまっすぐにすること」と言っています。コノブ人は「まっすぐな魂を持つ」ことだと言います。メキシコのベラクルス州のポポルカ人は、「まっすぐ歩くこと」だと言います。

これらの言葉はすべて義認の結果出てくる状態を言おうとしています。その過程自体はなかなか表現しにくいですが、メキシコのタラスコ人の間で使われている慣用句が理解しやすいでしょう。

あるタラスコ人の父親がいて、息子を大変かわいがっており、息子の傑出した品性にほれぼれしているとします。しかし、この子には悪い評判の立っている友達がいます。しかし、父親は、自分の息子を愛しているが故に、その友達を喜んで受け入れます。息子の名前に免じてその友達を受け入れるこのような態度を、タラスコ人は「彼はその息子の徳をもってその人を見る」という慣用句を使います。

キリストによって得られる贖(あがな)いの良きおとずれを説明するときには、タラスコの伝道者は、自分たちの内にはなんら称賛するようなものはないのに、罪人の友となり、私たちのためにキリストが死んでくださった、またキリストの友であるが故に、私たちは「私たちを御子の徳をもって見てくださる」神に受け入れられるのですと説明します。

義認とは、本心から悔い改めている者を、憐れみにふさわしい対象として、本来義ではないのに、義なる者として受け入れる過程を意味しています。

「義認」の教義をあざ笑い、そんなものは神学者の良心の妄想によるでっち上げだと言う人がいます。まったく反対です。それは、神の子どもたちの命のうちに啓示される恩寵の神秘なのです。これこそ福音の中心をなすもので、義認がなければ、救いは恵みではなく、行いによることになってしまいます。

神は、いかなる人にも恩義はありません。選ぶのは神の方であって、ブルンジのキルンディ語で「人を無罪と宣言する」とか、ケチュア語のウアヌコ方言で「私たちを罪が無いかのように受け入れる」と言われている通りです。

このような教理があると、人は霊的傲慢に陥り「他人より清い」という鼻持ちならないほど聖人ぶった片意地な偏屈に陥ってしまうのではないかと感じる人もいます。反対に、神の聖さをはっきり知り、罪深いものであるにもかかわらず、神が恵みの故にご自身との交わりを許してくださると知ったとき初めて、私たちは自分が本当はその恵みに値しないものであることに気付くのです。

自分の救いを勝ち取った者は、そのことについて誇ります。しかし、救いを代価なしで与えられた者は、イエス・キリストの上からの召しにふさわしく生きようと永遠に努めるのです。

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【書籍紹介】
ユージン・ナイダ著『神声人語―御言葉は異文化を超えて
訳者:繁尾久・郡司利男 改訂増補者:浜島敏

ユージン・ナイダ著『神声人語―御言葉は異文化を超えて』

世界の人里離れた地域で聖書翻訳を行っている宣教師たちと一緒に仕事をすることになって、何百という言語に聖書を翻訳するという素晴らしい側面を学ぶまたとない機会に恵まれました。世界の70カ国を越える国々を訪れ、150語以上の言語についてのさまざまな問題点を教えられました。その間、私たち夫婦はこれらの感動的な仕事の技術的な面や、人の興味をそそるような事柄について、詳細なメモを取りました。

宣教師たちは、未知の言語の文字を作り、文法書や辞書を書き、それらの言語という道具を使って神の言葉のメッセージを伝えるのです。私たちは、この本を準備するに当たって、これらの宣教師の戦略の扉を開くことで、私たちが受けたわくわくするような霊的な恵みを他の人たちにもお分かちしたいという願いを持ちました。本書に上げられているたくさんの資料を提供してくださった多くの宣教師の皆さんに心から感謝いたします。これらの方々は、一緒に仕事をしておられる同労者を除いてはほとんど知られることはないでしょう。また、それらの言語で神の言葉を備え、有効な伝道活動の基礎を作ったことにより、その土地に住む人々に素晴らしい宝を与えられたことになります。その人たちは、彼らの尊い仕事を決して忘れることはないでしょう。

本書は説教やレッスンのための教材として役立つ資料を豊富に備えていますが、その目的で牧師や日曜学校教師だけのために書かれたものではありません。クリスチャン生活のこれまで知らなかった領域を知りたいと思っておられる一般クリスチャンへの入門書ともなっています。読者の便宜に資するために3種類の索引をつけました。①聖句索引、本書に引用されている聖書箇所を聖書の順に並べました、②言語索引、これらのほとんど知られていない言語の地理上の説明も加えました、③総索引、題目と聖書の表現のリストを上げました。

ユージン・ナイダ

浜島敏

浜島敏(はまじま・びん)

1937年、愛知県に生まれる。明治学院大学、同大学院修了。1968年4月、四国学院大学赴任。2004年3月同大学定年退職。現在、四国学院大学名誉教授。専攻は英語学、聖書翻訳研究。1974、5年には、英国内外聖書協会、大英図書館など、1995、6年にはロンドン大学、ヘブライ大学などにおいて資料収集と研究。2006年、日本聖書協会より、聖書事業功労者受賞。2014年7~9月、ロンドン日本語教会短期奉仕。神学博士。なお、聖書収集家として(現在約800点所蔵)、過去数回にわたり聖書展示会を行う。国際ギデオン協会会員。日本景教研究会会員。聖書の歴史、聖書翻訳に関する著書・翻訳書、論文多数。

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