神声人語―御言葉は異文化を超えて―(51)感謝のない人は「くちばしを拭いている人」 浜島敏

2018年7月23日18時58分 コラムニスト : 浜島敏 印刷
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「希望」(hope)

希望というのは、聖書全体を通して翻訳するのが最も難しい言葉の一つです。それは、私たちがあまり希望を持たないからではなく、しばしば希望をただ単なる「待つ」という意味に使ってしまっているからです。

事実、スペイン語の esperar という語は「待つ」と「希望する」の両方の意味を持っています。しかし、多くの場合、ただ単に「待つ」という無色の単語を、意味をより良く理解できるようにするため、多少修正して使っています。

例えば、南部メキシコの言語であるクイカテック語では、希望は「待ち・願う」と言っています。希望というのは、二つの行動、すなわち待つことと願うことを混ぜ合わせたものです。これこそが、希望を構成している期待感というものの本質なのです。

マヤ語では希望の対象を「ぶら下がる相手」と表現しています。「私たちの神に対する希望」というのは、「私たちは神にぶら下がっている」と表現します。私たちの希望の目標となるお方は、期待しながら待つのを支える力となるお方なのです。

「貪欲」(covetousness)

心が持つのは、高貴で純粋な志だけではありません。卑しくて汚い気持ちをも抱かせます。メキシコのツェルタル人は、貪欲な人のことを「心の小さな人」と言い表します。貪欲というものは、物に対する欲に目がくらんで、他人の権利を否定することに比例して、その人の人格が縮んでいくと言っているのです。マヤ人はそのような人に言い訳を与えず、貪欲とは「他人の持っている物を欲しがること」だと、ぶっきらぼうに言います。

貪欲は飽くことのない欲望で、理性を飲み込んでしまいます。この考えはシピーボ人によってはっきり表現されています。貪欲な人のことを「物が欲しくて気が狂った(理性を失った)人」と彼らは言っています。これはある種の精神病的エゴイズムであって、このために多くの人が物質的な持ち物を偶像にしてしまい、その前で魂を屈服させ、ひれ伏しているのです。

「ねたみ」(嫉妬)(envy)

ねたみは貪欲や自己中心から生まれます。ツェルタル人は貪欲な人を「心の小さな人」と考えましたが、ねたむ人のことを「欲張りの心」を持った人と考えます。「小さな心」と「欲張りの心」は一緒に働き、魂は欲に反比例して小さくなります。ねたみを持った人は決して満足しません。それは自分の飽くことのないエゴと歩調をそろえることができないからです。

南部メキシコのタバスコの低い湿地帯デルタに住んでいるチョンタル人は、ねたみをもう少し分かりにくい言い方で表現します。彼らは隣人に対しねたみを持った人のことを「彼は隣の人を見たくなかった」と言います。これがねたみの最終結果です。人々は、本当は自分の物であるはずの特権を持っている他人を見るのは我慢ならないのです。ねたみのある人は自分だけを見つめることに慣れてしまって、自分から目をそらせて、他人の喜びを見ることができないのです。

「感謝」(thankfulness)

感謝は、ねたみによく効く解毒剤です。感謝は人々の正しい関係を再構築するからです。言語によっては、感謝を表すための決まった表現がありません。「良かったね」と言いさえすればいいのです。多くの言語では感謝の気持ちを表すのに、とても形式的で、時に風変わりな表現をします。

オートボルタ(現ブルキナファソ)のモシ人は「私の頭は土の中にある」と言います。これは、感謝を表すのに他の人の前で頭を下げる習慣から来ています。実際に頭を下げて地面に押しつけることもあります。他の人の親切に対して、こんなに謙遜してかしこまっているというわけです。

反対に「感謝のない人」は「くちばしを拭いている人」と言います。この不思議な表現は、鶏が意地汚く最後の一粒まで餌を全部平らげた上で、忙しく二、三度くちばしを拭いて、まだおなかがすいていると言いたげな動作をするのを見てできた言葉です。鶏は感謝を表す様子などまったくなく、前にも増して忙しく次の餌を探し始めるのです。感謝のない人も「自分のくちばしを拭いながら」もっと良いものはないかと捜しているのです。

カバラカ人は感謝の気持ちを表すのに、「両手で捕まえる」と言います。彼らは「ありがとう」と言いたいときに、この通りにします。お互いの両手を握って、できる限りの言葉を尽くして喜びと感謝の気持ちを表します。

マヤ人は感謝に対して神学的な見方をします。「神様があなたに報いてくださるように」と言うのです。事実、彼らは神様に感謝するときにも Dios bootik(神様の報いがありますように)と言いますが、何ら矛盾を感じません。このあいさつは固定した言い方になっているからです。

カレ語では神への感謝は「神の前の地面に座る」と表現します。感謝の気持ちを持ったカレ人は恩人の家まで行って、その人の家の前の地面に座るのです。言葉は一切必要ありません。彼が黙ってそこに座っているだけで、彼の感謝の気持ちを雄弁に語っているのです。

神に感謝する者は、そのように神の前に進んで座ります。そして神の臨在を喜び、感謝の気持ちを表し、創造主の恵みに頼る気持ちを表すのです。神の存在など当たり前のように考えがちな人は、神に対する感謝の気持ちを表すのに、このカレ語の表現に示されている態度から多くのことが学べると思います。

神は、その子どもたちとの交わりを求めておられるので、神との交わりを求め、感謝の気持ちを表すために「神の前の地面に座る」時間を喜んでささげる人たちに、莫大な祝福を用意しておられるのです。

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【書籍紹介】
ユージン・ナイダ著『神声人語―御言葉は異文化を超えて
訳者:繁尾久・郡司利男 改訂増補者:浜島敏

ユージン・ナイダ著『神声人語―御言葉は異文化を超えて』

世界の人里離れた地域で聖書翻訳を行っている宣教師たちと一緒に仕事をすることになって、何百という言語に聖書を翻訳するという素晴らしい側面を学ぶまたとない機会に恵まれました。世界の70カ国を越える国々を訪れ、150語以上の言語についてのさまざまな問題点を教えられました。その間、私たち夫婦はこれらの感動的な仕事の技術的な面や、人の興味をそそるような事柄について、詳細なメモを取りました。

宣教師たちは、未知の言語の文字を作り、文法書や辞書を書き、それらの言語という道具を使って神の言葉のメッセージを伝えるのです。私たちは、この本を準備するに当たって、これらの宣教師の戦略の扉を開くことで、私たちが受けたわくわくするような霊的な恵みを他の人たちにもお分かちしたいという願いを持ちました。本書に上げられているたくさんの資料を提供してくださった多くの宣教師の皆さんに心から感謝いたします。これらの方々は、一緒に仕事をしておられる同労者を除いてはほとんど知られることはないでしょう。また、それらの言語で神の言葉を備え、有効な伝道活動の基礎を作ったことにより、その土地に住む人々に素晴らしい宝を与えられたことになります。その人たちは、彼らの尊い仕事を決して忘れることはないでしょう。

本書は説教やレッスンのための教材として役立つ資料を豊富に備えていますが、その目的で牧師や日曜学校教師だけのために書かれたものではありません。クリスチャン生活のこれまで知らなかった領域を知りたいと思っておられる一般クリスチャンへの入門書ともなっています。読者の便宜に資するために3種類の索引をつけました。①聖句索引、本書に引用されている聖書箇所を聖書の順に並べました、②言語索引、これらのほとんど知られていない言語の地理上の説明も加えました、③総索引、題目と聖書の表現のリストを上げました。

ユージン・ナイダ

浜島敏

浜島敏(はまじま・びん)

1937年、愛知県に生まれる。明治学院大学、同大学院修了。1968年4月、四国学院大学赴任。2004年3月同大学定年退職。現在、四国学院大学名誉教授。専攻は英語学、聖書翻訳研究。1974、5年には、英国内外聖書協会、大英図書館など、1995、6年にはロンドン大学、ヘブライ大学などにおいて資料収集と研究。2006年、日本聖書協会より、聖書事業功労者受賞。2014年7~9月、ロンドン日本語教会短期奉仕。神学博士。なお、聖書収集家として(現在約800点所蔵)、過去数回にわたり聖書展示会を行う。国際ギデオン協会会員。日本景教研究会会員。聖書の歴史、聖書翻訳に関する著書・翻訳書、論文多数。

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