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のりぼと神様

のりぼと神様(4)入院 星野ひかり

2018年4月27日11時53分 コラムニスト : 星野ひかり
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そこは、見たことのない寝室でした。病室のようで、ベッドとテーブルのほかは何もありません。消灯時間が過ぎているのか、静かで薄暗く、病室の向こうも明かりが消えておりました。

コツコツと人が歩いてくる音が近づき、のりぼの部屋の前で止まりました。鍵を開ける音がすると、眩しいライトがのりぼを照らしました。「のりなりくん、起きちゃったの?」。優しい男の人の声でした。

「ここはどこ?」。のりぼが聞くと、声の主は近づいて、のりぼのベッドに腰掛けました。白い服を着ており、暗がりの中でも優しくほほ笑んでいるのが分かります。「のりなりくん、はじめまして。ここは病院だよ。安心して。僕は看護師だよ」。「病院?」。どうしてだろうと思いました。

「どうして僕は病院にいるの?」。「おうちで具合が悪くなって、運ばれたんだよ。覚えていないんだね。絵を描くのに夢中になって、壁や床にも絵を描きながら倒れてしまったんだよ。お母さんが亡くなったことでショックだったんだね」。看護師さんはそう言って、笑顔を見せました。

「ここでしばらくゆっくりして、ちゃんとお薬を飲んでいれば治るからね」。そう言うと、のりぼの肩に、布団をかけてくれました。「まだ夜中だよ。ゆっくりお休み。明日はお父さんもお見舞いに来るよ」

その時、女の人の叫び声のようなものが遠くから聞こえてきました。のりぼは声のするほうを見て、とっさに「いけにえおばさん?!」と言いました。

看護師さんは驚いた顔をして「なに?なにか夢でも見たの?」と聞きました。のりぼは首を振って、布団の中にもぐり込みました。「先ほどまでの世界が夢であるわけはない。この世界よりもずっとずっとリアルだったもの!」と思いました。そして「また、あの世界に戻らなければいけない。そしてお母さんを探すんだ」と思いました。そして涙ぐみました。「お母さんを探す」という決意が、悲しく思えたのです。

目を開けたまま、朝を迎えました。病院は6時にいっせいに明かりがつきました。「朝の体操を始めますので、フロアにお集まりください」。アナウンスが流れると、それぞれの病室から人が出てくる音がします。

のりぼも、のそっと起きました。ベッドの前のテーブルには、歯磨き用のコップが置いてありました。テーブルの下が戸棚になっており、それを開けてみると、のりぼの服が入っています。お父さんが用意したのでしょう。のりぼはコップを手に取ると、病室を出て、廊下の水道で水をくんで飲みました。

パジャマ姿の患者さんたちが向かう方に、のりぼも倣って向かいました。ラジオ体操の音楽が次第にはっきりと聞こえてきます。広いフロアに出ると、もう皆体操の真っ最中でした。

のりぼも体操を始めました。久しぶりのラジオ体操第一です。真剣に腕や足を動かしました。だんだんとおなかがすいていることに気付いてきて、朝食が待ち遠しくなりました。

体操が終わって、フロアの椅子に腰かけて、同じように椅子に座っている人たちを眺めていると、ここが普通の病院ではなく、精神病院といわれる所だと分かりました。体が悪そうな人はおらず、心に何かしらの重荷を背負った人たちが多くいるように思いました。皆、心の傷をかばって、怯えながらも、とても優しそうです。

しばらくすると、ガラガラと荷台で朝食が運ばれてきました。看護師さんたちが、それぞれの名前を呼んで朝食を配ってくれます。朝食のトレイにはご飯とお味噌汁、お肉と野菜のみそ炒めと、春雨サラダが並んでいます。どれもとてもおいしそうです。のりぼは「いただきます」をしてさっそく食べ始めました。

その時、向かいの椅子で朝食を食べているおばさんに見覚えがあるような気がしました。水色とグレーの縞模様のパジャマを着た小太りのおばさんです。今までに会ったことがあったでしょうか・・・。しばらく考えても思い当たる人は出てきません。しかし、おばさんの傷だらけの腕を見て分かりました!「いけにえおばさん!」。のりぼは心の中で叫びました。そしてあたりを見回しました。

ルビーもここにいるのではと思ったからです。しかし、飴色の風そのもののようなルビーは、エアコンの乾いた風の吹き付けるこのフロアには、いるはずもありませんでした。のりぼは時折いけにえおばさんを見つめながら、ご飯をかき込みました。いけにえおばさんは、のりぼがチラチラと見ていることに気付いて、ほほ笑みました。包丁を振りかざしてシッシとやったあのおばさんとは思えないほど、優しい笑みでした。

「ぼうやは初めて見るね。いつからここに来たんだい?」。そう聞かれてビクッとし、「分かりません」と言いました。するとおばさんは「覚えていないのかい?大変だったね」と気遣ってくれました。

「おばさんはいつからいるんですか?」。「もうずっとだよ。ここが家みたいなものだよ」。そう言って笑いました。あの麗しい世界の、愛くるしい鳥やカエルたちを包丁で切っていたおばさんとは思えません。のりぼは、自分が思い違いをしているような気がしてきました。

朝食が終わると、皆それぞれにフロアでお話をしたり、自分の部屋へ戻っていきました。おばさんはフロアの突き当りの、ガラス戸の前に置かれたベンチに腰掛けました。ガラス戸から太陽が差し込んで、とても暖かそうです。のりぼもそのベンチに向かって歩き、腰掛けました。

ガラス戸の向こうには、曼殊沙華とつわぶきの花が咲いており、金木犀もオレンジの花をつけていました。木の枝に鳥が止まっているのを、おばさんは眩しそうに見つめていました。のりぼもそれをぼんやりと見つめました。

花壇から外れて一輪だけ寂しく隅で咲く、か弱そうなユリを見つけると、それを自分のように思いました。こんな所に入院してしまったことが、皆と違う恥ずかしいものになったように思ったのです。

「花は好きですか?」。のりぼは、ふとおばさんに聞きました。おばさんは「好きだよ」と笑いました。「と・・・鳥は好きですか?」。勇気を出して聞きました。おばさんは「鳥も好きだよ。小さな生き物はみんな好き。守ってあげたくなっちゃうんだ」と言いました。のりぼはやっぱり勘違いをしていた、と申し訳なくなりました。

「そうですか。僕は近所の野良猫が好きなんだ。おばさんは猫は好き?」。恥ずかしそうに聞きました。「好きだよ。野良猫に餌をあげるのが迷惑だって、怒られてね。だからきれいに片付けもして、餌やりをしているんだよ。病院に入ると餌をやれないから、おなかをすかせていないか心配なんだ」。おばさんはそう言って優しそうに笑いました。

おばさんは、どんなに優しくほほ笑んでも、どこかつらそうに見えました。心の深くに痛みを負っていることがのりぼにも分かるようでした。陽はあたたかく2人を照らします。痛んだ心のすべてを知り、無償の優しさで慰め続ける、そんな愛があるとしたら、神様のような心だろうとのりぼは思いました。太陽だけではなく、花も、木も、小鳥も、小枝の先を震わす風も、神様そのもののように思われました。

「こんにちは」。なじみのある声に目を上げると、教会の戸根先生が立っていました。「のりなりくんが目が覚めたと聞いて、面会に来たよ。お父さんももうすぐ来るからね」。先生はそう言って、おばさんにも会釈をし、「のりなりくんの教会の、牧師の戸根です」とあいさつをしました。

おばさんもほほ笑んで「私も昔は教会に行っていたんですよ。でも信じられなくなっちゃってね、行かなくなっちゃったんです」と言いました。戸根先生は驚いた顔を見せ、「なぜ信じられなくなってしまったのでしょうか。差し支えなければ聞かせていただけますか?」と言いました。おばさんはばつが悪そうに笑って「私のようなものを赦(ゆる)す神様はいないって、思ったんです」と言うと、席を立ち「部屋に戻るね。おばさん少し疲れたから」と、その場を離れて行きました。

のりぼは先生に「赦されない罪ってなんだろうね」と言いました。先生は「赦されないのではなくてね、どんな罪でも赦してくださることを信じられないんじゃないかな」と言いました。「神様は僕のことも怒っているの?」。「なんでそう思うのかな」。「罰ばかり与えるのは、なにか怒っているからでしょう」。のりぼはそう言ってうつむき、「お母さんまで殺して、神様は僕を愛していますって言ったって、信じられないよ」と小さな声で言いました。先生は「主よ」と祈り始めました。

「主よどうか、のりなりくんが苦しみの中におりますが、苦しみの中にいっそう主の愛が溢れていることを知ることができますように、お助けください」と。のりぼは他人事のようにその祈りを聞いておりました。

先生はのりぼの手を握って「お母さんが亡くなって、そう思うのは当たり前だよ。先生も同じ気持ちだ。なんで神様はこんなことをしたんだ!って。・・・でも神様を疑ったり、嫌いにはならないでほしいんだ。のりなりくんの痛みを一番分かっているのは神様なんだからね」と前のめりになって言いました。のりぼはそっぽを向き、少し泣きました。先生の優しさがうれしかったのです。

目の前がかげり、顔を上げるとお父さんが立っていました。すこしやつれて疲れた表情で「のりぼう。目が覚めたのか」と言いました。「お父さん、どうして僕はこんな所にいるの?僕はどこもおかしくないよ」と言いました。お父さんは困った顔を見せ「今はお母さんのことで疲れているんだって。もう少ししたらおうちに帰れるからな」と言いました。

それから少しだけ3人で話すと、のりぼは部屋に戻りました。先生とお父さんはお医者さんとお話があるようで、一緒に病棟から出て行きました。

部屋に戻ると、お父さんが持ってきてくれたCDプレーヤーに、先生のくれたCDを入れて聞きました。讃美歌のオルゴオルのCDでした。のりぼは目を閉じて讃美歌に耳を澄ませました。

「きよらに星すむこよい」「まぶねの中に」・・・お母さんが大好きだった讃美歌です。神様がいないことなんて、これっぽっちも考えず、イエス様を信じていたお母さんの音楽です。つつ、と涙が流れます。

「どうして神様がいて、イエス様がいるなら、お母さんを殺したんだ」。のりぼは歯を食いしばりました。そうしているうちに、いつの間にやら眠ってしまったようです。(つづく)

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◇

星野ひかり(ほしの・ひかり)

千葉県在住。2013年、友人の導きで信仰を持つ。2018年4月1日イースターにバプテスマを受け、バプテスト教会に通っている。

■ 星野ひかりフェイスブックページ

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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