脳性麻痺と共に生きる(25)詩集「ノック」と初めての詩「女心」 有田憲一郎

2017年3月3日20時51分 コラムニスト : 有田憲一郎 印刷
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中学部1年の時、ホームルームの時間に「これから何をして、どんなクラスにしていこうか」と話し合いをしました。この1年間で何をしたいか、中学の3年間で何をしていきたいか、何を目標にしていくのかというクラス目標もみんなで決めていきます。

その他に一人一人の頑張り目標というものがあり、例えば「よだれをこぼさないようにする」「車いすを自分でこぐ」など、それぞれの目標も立てていきます。それぞれが立てた目標は教室に張り出し、毎日その目標が達成できたか、帰りの会で一人一人発表し、達成できたらシールやスタンプをもらえます。

年度末になると、それぞれに達成したシールの数に合わせ、一人一人に「よく頑張りました」と先生方がご褒美にプレゼントを準備してくれるのです。僕はプレゼントをもらうのがとても楽しみでした。

その頃の僕やクラスの仲間も、考える力が弱く、浮かんでくるアイデアも少なく、何をしていくかを決めるのに数カ月かかった記憶があります。僕たちの話し合いを見ていた先生方の目には、どのように映っていたのでしょうね。自主性を育てようと、なかなか決まらず活発な意見もない僕たちの話し合いの様子を、先生方は静かに見守ってくれていました。

何も決まらないまま夏休みを迎えることになった僕たちに「じゃあ、夏休み中に何がしたいか考えてきてください」と、先生からクラスの宿題が出されました。

僕はとにかく勉強嫌いな上に、夏休みは遊ぶものと考えていたので、宿題もせず毎日遊びほうけて、夏休みが終わる数日前にようやく重い腰を上げて宿題を始める子どもでした。先生から言われた「クラスの宿題」は存在すら忘れ、始業式で学校に行って「あっ!」と思い出したのです。

「夏休み前に先生が言ったこと、考えてきたかな? そろそろ決めないと、何にもできませんよ」。ホームルームの時間に先生が聞きました。同級生の考えてきた意見が黒板に書き出されていく中、何も考えずに忘れていた僕は、静かに下を向き、黙っていたことを覚えています。

夏休みが終わった2学期の半ばの頃でした。「そうだ。みんなで詩を書こう」と同級生の1人が提案し、それまで何をしようかと悩んでいたクラスが「それ、いいね」と全員が賛成し、毎月詩を書くことになりました。そんな中で僕は先生に、こんなことを聞いた記憶があります。「先生、詩ってな~に?」

当時の僕は詩というもの自体、あまり理解してなかったのです。僕は先生から「みんなで決めたことだからね。決めたんだから、有田君も頑張って書いてくるんだよ」、そう言われました。

家に帰った僕は「今度、みんなで詩を書くことになったよ」と父に話すと、「いいことじゃないか。詩のことをポエムって言うんだ」と教えてくれました。さらに父にも「ところで詩ってなに? どういうものなの?」と先生に聞いたことと同じことを聞きました。

父は「詩というのは、感じたことや思ったこと、自分の気持ちを書くんだ。ほら、よくお前が好きな演歌とか歌謡曲とか歌っているだろう。あの歌詞が詩というものなんだ。詩に曲をつけると歌になる」と教えてくれ、その時初めて歌が詩でできていることを知りました。

詩というものを知り、珍しく勉強机の前でタイプライター(!)に向かって「書いてみるか」と張り切っていたことを覚えています。しかし、いざ書くとなると何を書いていいのか分からず、ただ机の前で何時間もボーッとしている自分がいました。

しばらくして、部屋に父が様子を見に来て、僕の横に座りました。「何を書いたらいいか分からないんだ」と言うと、「難しく考えるな。思ったこと、感じたこと、浮かんだことをそのまま素直に書けばいい」と言って部屋を後にしました。

父のアドバイスを聞いて「そうか、演歌の歌詞みたいに書けばいいのか」。頭の中で好きな演歌曲や歌謡曲が流れ出し、今まで止まっていた手が動き、詩を書き始めました。書き終えた僕は父に読んでもらいたくて、大声で「できた!」と父を呼び、初めて書いた詩を読んでもらいました。

詩を読んだ父は、がくぜんとしたのでしょう。ガクッと腰を崩し、笑顔をこぼし笑い始めたのです。初めて書いた詩は短いものでした。そして内容が演歌っぽく、タイトルも“女心”と、それは中学生が書く内容ではありませんでした。

伝えられない この思い
あなたのことが好きなのよ
私のそばにいてほしいの たのむから
どうしたらいい このきもち
好きで 好きで 好きなのよ
女心が分かるでしょう

全員が書いてきた詩は学年新聞にすることになりました。担任の先生が「心の扉を開く」という意味を込めて詩集「ノック」という名前を付けてくださり、A3用紙2、3枚分にまとめ、青刷りで印刷して毎月、家族や先生方や先輩、後輩たちにも見てもらうのを目標に発行しました。

詩集「ノック」は創刊号から学校関係の多くの方に読んでもらいました。自分たちで書いて編集して多くの人に読んでもらい、さまざまな批評を受けることも勉強の1つで、先生方は「ノック」の発行を通じて僕たちに厳しさを経験させようという狙いもあったのだと思います。

ホームルームの時間に編集作業や印刷を先生方に手伝ってもらいながら、毎月、自分たちで発行をして配って歩きます。「楽しみにしてたよ。今回もいいね」とうれしい声や「なに? この詩。特に有田はひどいね」と、ズバズバと厳しい辛口の声も聞かされました。

今思えば、いろんなことを言ってくれることはとてもありがたくて「愛を持って言ってくれていたんだ」と感じますが、その当時は何も分からず、批判されるごとに感情的になったり、落ち込んだりして泣いていました。

月1回のペースで発行することに決めていたので、詩を書いて持ってくる締め切り日がありました。同級生はきちんと締め切り日までに書いてきていました。「今回のはいいかも」などと周りで楽しく話している中、勉強も嫌いで文章を書くことも大嫌いだった僕は、締め切り日になっても書かずにいたのです。

詩を書いていくたびにいろいろ言われ、書くことも面倒くさく、やる気も起きず、まともに書いていかない月が続きました。同級生や先生から「なんで書いてこない!」と怒られ、叱られていました。

僕が悪くて怒られていると自分で分かっていながら、「怒られればいいや」と少し開き直っていた自分もいたと思います。しかし叱られるたび、詩を書くことが嫌になり、苦痛を感じていた自分もいました。締め切り前日の夜に必死で書いていた日のことが、今では懐かしく感じます。

こうして中学の3年間、「ノック」の発行は続けられました。みんなで書いてきた詩は何十作にもなり、中学2年生の時に1冊にまとめ、3年生の時には卒業制作として編集から印刷、製本まで自分たちの手作りで詩集にしました。

中学部を卒業し、「ノック」の発行はなくなりました。高等部に進学し、「もう詩を書いて持っていかなくてもいいんだ。怒られることもないんだ」と締め切りや強制的なことから解放されたと思った瞬間、あれほどにも苦痛で嫌だったのに不思議と詩が書きたくなり、気が付くと机の前で詩を書いている自分がいました。

書いた詩は学校に持っていき、1年間書き溜め、作文と一緒に毎年学年文集を作製し、形に残しています。

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有田憲一郎

有田憲一郎(ありた・けんいちろう)

1971年東京生まれ。72年脳性麻痺(まひ)と診断される。89年東京都立大泉養護学校高等部卒業。画家はらみちを氏との出会いで絵心を学び、カメラに魅力を感じ独学で写真も始める。タイプアートコンテスト東京都知事賞受賞(83年)、東京都障害者総合美術展写真の部入選(93年)。個展、写真展を仙台や東京などで開催し、2004年にはバングラデシュで障碍(しょうがい)を持つ仲間と共に展示会も開催した。05年に芸術・創作活動の場として「Zinno Art Design」設立。これまでにバングラデシュを4回訪問している。そこでテゼに出会い、最近のテゼ・アジア大会(インド07年・フィリピン10年・韓国13年)には毎回参加している。日本基督教団東北教区センター「エマオ」内の仙台青年学生センターでクラス「共に生きる~オアシス有田~」を担当(10〜14年)。著書に『有田憲一郎バングラデシュ夢紀行』(10年、自主出版)。月刊誌『スピリチュアリティー』(11年9・10月号、一麦出版社)で連載を執筆。15年から東京在住。フェイスブックブログ「アリタワールド」でもメッセージを発信している。

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