教会と旧約学はいかに手を結ぶか ブルッゲマン著『旧約聖書神学用語辞典』監訳者が講演

2015年4月13日19時44分 記者 : 新庄れい麻 印刷
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第25回キリスト教文化講演会の様子=9日、教文館ウェンライトホール(東京都中央区)で

第25回キリスト教文化講演会が9日、教文館ウェンライトホール(東京都中央区)で開催された。教文館キリスト教書部と日本キリスト教団出版局の主催。3月に北米を代表する旧約学者W・ブルッゲマンの集大成『旧約聖書神学用語辞典 響き合う信仰』(日本キリスト教団出版局)が刊行されたことを受け、監訳者の一人で、ブルッゲマンの下で学んだ左近豊(さこん・とむ)牧師(日本基督教団美竹教会、東京神学大学非常勤講師)が、「教会と旧約学はいかに手を結ぶか」と題して講演した。

左近牧師によれば、聖書学は、近代以前は教会の教理・教義の正当性を裏付けるものにとどまっていたが、18世紀以降には教義学と袂(たもと)を分かって歴史学と手を結んで発展し、長きにわたって「聖書の背後にある世界」を探求してきた。しかし、さらに時代が進んで1970年代になると、歴史学的な聖書学が行き詰まり、聖書の「教会の正典」としての価値が再認識されるようになったという。その流れの中に位置するブルッゲマンは、「聖書の内部にある世界」を探求し、歴史学だけではなく、修辞学や現代思想との対話をも踏まえて、「旧約聖書の神が今のあなたに何を語り掛けているのか」と問い掛け続けてきた学者であるといえる。

82歳になる現在もその筆は衰えることなく、年に数冊のペースで既に60冊を超える書籍を出版しているというブルッゲマンの研究の成果、メッセージの全てが、今回刊行された一冊の辞典にまとめられていると言っても過言ではない、と左近牧師は語る。とりわけこの辞典の素晴らしさは、「あらためて聖書(特に旧約)を手に取って読みたいと思わせてくれるところにある」という。

特に哀歌を専門とする左近牧師にとって、旧約聖書に表れる「嘆き」は現代の日本にとっても大きな意味を持つという。この辞典の「嘆き」の項目を開くと、「嘆きは、祈りの一様式であり、神に対する正当な訴えである。詩編に見られる個人の嘆きだけでなく、エルサレムの共同体の祈りとしてもささげられる。嘆きの祈りは、神への確信と賛美で終わることが特徴的」だと説明されている。特に、旧約聖書の大半は古都エルサレムの破壊に起因する危機への応答として記されている(講演に寄せられたブルッゲマンからのあいさつ文より)が、バビロニアの攻撃により、神の約束の地が崩壊し、神の臨在の象徴であった神殿が破壊され、国の主だった人々が捕囚として連れ去られてしまったイスラエルの嘆きは、時代・環境は大きく異なっても、東日本大震災による崩壊後を生きる現在の日本の経験と、深いところで響き合うと、左近牧師は考えている。

民族としてのアイデンティティーが破壊され、滅亡の危機にひんしたイスラエルは、旧約聖書に証しされている神との格闘と祈りの信実をもって生き延びた。それを学ぶことができる点に、旧約聖書の価値が見出される。聖書には、生き方の指南や「明確な答え」が書かれているわけではない。目の前にある現実の出来事に真摯(しんし)に向き合いながら、神にどう信実をもって祈り、応答するかを読む者に示唆してくれるのだ。

教会と旧約学はいかに手を結ぶか ブルッゲマン著『旧約聖書神学用語辞典』監訳者が講演
講演する左近牧師

悲嘆と嘆きを神に訴え、時には「なぜ私を見捨てるのか」という激しいほどの問い掛けを含めるほどに神と格闘する旧約聖書の詩人たちに学びつつ、現代の日本人の言葉にならない思い、問い、不条理を言葉に絞り出し、祈りを紡ぎだしていくことへとブルッゲマンは招いている。

ブルッゲマンはこのように、旧約聖書との対話を人々に勧めるが、この辞典は、読み手を聖書そのものへといざない、新しい驚きと発見を促してくれる書でもある。聖書の持つ独特の語り口を知り、身に着けることで、クリスチャンが今の世にあって、どう行動し、どう関わっていけばよいか、真の「地の塩」「世の光」「キリストの香り」としてどう生きるかを考えさせてくれる、と左近牧師は言う。

またこの辞典は、旧約神学の最重要105項目を選んで解説している。「一神教」「復讐(ふくしゅう)」といった、現代を揺り動かす重要な問題、「神義論」「ヘレム(皆殺し)」など、クリスチャンでもちゅうちょしてしまうような問題にも真正面から切り込んでいる。

左近牧師は、「この辞典を読むことで、これまで思いもしなかった仕方で聖書を読む可能性へと誘われる。そして説教者、信仰者──すなわち、旧約が証しする神がいかにキリストに受肉し、その情熱が十字架のパトスへと結実し、生ける人格的な関わりをもって臨まれる神が、聖霊によって復活の主に現われておられるかを伝える一人ひとり──の内なる炎を燃え立たせる」と本書の魅力を語る。また、本書を通して日本の信仰者が、「聖書に根差した信仰に生かされ、聖書が生み出してきた共同体に、すなわち『聖書の前方に広がる世界』へと招き入れられる」ように願いを述べた。

そして最後に、「教会と聖書学が反発し合うのではなく、同化を迫るのでもなく、むしろ緊張感ある対話と格闘によって互いが神の前に、神の御言葉に打たれ、変えられ、改革され続けることを望みたい。それによって互いが、キリストの香り、地の塩、世の光として証しを立ててゆくものとされるでしょう」と講演を締めくくった。

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