パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム組織「ハマス」が昨年10月7日、イスラエルに対して虐殺行為を含む大規模な攻撃を加えたことを発端に、ガザ地区で戦争が始まってから4カ月。戦争はいまだに終わりが見えない状況にある。この戦争をイスラエルはどのように見ているのか。
キリスト教オピニオンサイト「SALTY(ソルティー)」論説委員の明石清正牧師(カルバリーチャペル・ロゴス東京)が昨年12月、ギラッド・コーヘン駐日イスラエル大使に単独でインタビューをした。インタビューから既に1カ月半ほどたっているものの、明石牧師は「その内容はほとんど古びていません。それどころか、イスラエルが今の状況をどのように考えているのかを理解する上で重要な鍵となる言葉を、大使は次々と発しています」と話す。ソルティーに掲載されたインタビューを、一部省略・編集した上で掲載する。(第2回から続く)
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――ハマスを排除した後、ガザ地区をどのように統治するのか、イスラエル国内で主流の意見はどうなっていますか。誰が統治し、どのように統治するのでしょうか。政府の意見と世論について、教えてください。
今、困難な戦争の最中なので答えるのは難しいです。政府の立てた目標は、ハマスの軍事力と統治を排除し、人質を解放し、ガザ地区周辺のキブツ(イスラエルの生活共同体)の人々が帰還して、完全に暮らすことができるようにすることです。
そのため、戦後がどうなるか、その結果についてはいまだ分かりません。もちろん、米国などの同盟国と将来像を話し合っていますが、イスラエルの閣議では決定されていません。戦争を終えないと分からない部分があります。
ハマスのガザ地区統治は選択肢にない
現時点の私の考え、いや、イスラエル政府も同じ考えですが、ハマスがガザ地区を統治することはありません。ここに選択肢はありません。米国や日本でさえ、それを選択肢に考えていません。主要7カ国(G7)諸国も考えていません。ハマスが実効支配することは、もはやできません。
第二に、イスラエルがガザ地区の市民生活を支配することもありません。2005年に、私たちはガザ地区を去りました1。ガザ地区を軍事的に支配したくありません。繁栄して、シンガポールのようになってほしかったのです。しかし、彼らはテロの拠点に変えました。イスラエルに対する凶悪な攻撃を展開しています。何度となく、周期的に行っています。
ですから、ハマスにはガザ地区を統治してもらいたくないし、イスラエルがその市民生活を管轄したくありません。けれども、何らかの形でイスラエルが安全保障のための手段は取る必要があります。
パレスチナ自治政府の腐敗
誰が統治するか。それは、パレスチナ人自身でしょう。ただ、パレスチナ自治政府には問題があります。腐敗がひどいです。
子どもたちに憎悪を教えています。(ヨルダン川西岸地区の)ラマラやジェニン、ナブルスの学校に、日本の皆さんが行くことをお勧めします。そのカリキュラムは、平和を教えていません。ユダヤ人を憎むようなものになっています。4本のバナナと4個のりんごを足したら全部で8つです、と教えません。4人のシャヒード(殉教者)が、バスを爆破させてユダヤ人を殺したら、と教えます。
イスラエル人を殺すことは良いことだと教えるのです。そして、イスラエル人を殺した者の家族には報奨金があります。4人のイスラエル人を殺したら、1000ドルを支払うというように。8人殺したら、報奨金が倍加します。どうしてパレスチナ自治政府を信頼できるでしょうか。
彼らはサマーキャンプで、子どもたちに軍服と銃を身に付けさせるのです2。ガザ地区で、イスラエル軍は家々に写真が掲げられていて、子どもたちが銃を身に付けているのを発見しました。これは、彼らが次世代に憎しみを教えていることに他なりません。平和と繁栄を教えていないのです。
ですから、次の統治体が、パレスチナ人なのか、エジプト人なのか、サウジアラビア人なのか、他の国際機関なのか分かりませんが、私たちが信頼でき、平和に共存することを望んでいなければいけません。イスラエル人と共存するべきだという理解の下、平和を求める教育が必要なのです。
ハマスのような、イスラエル人はいるべきではないという考えは容認できません。私の大使館の前で行われるデモで人々は、「パレスチナを川から海まで解放しろ」と言います。これは何を意味していますか。ユダヤ人は、そこに住むべきではないということです3。「イスラエル人はそこに住むべきではなく、パレスチナ人のみが住むべきだ。ユダヤ人は死ぬべきだ」ということです。
ところで、ハマスはパレスチナ自治政府の人間も抹殺します。以前、抹殺しようとしましたから。再び、やるでしょう。なぜなら、それは彼らの宗教上のイデオロギー(信念)であり、イスラム教原理主義の宗教運動だからです。彼らの最高の情熱は、イスラエルのユダヤ人を殺すことなのです。
彼らはナチスのようです。ユダヤ人を殺すのは、ユダヤ人だからという理由なのです。だから、私たちは許容できないのです。質問に対する「私の長い返答」(笑)は、ガザ地区の統治を誰がするかは分かりません、です。これから分かってくるでしょう。しかし、平和にコミットしている者でなければいけません。そうでなくとも、少なくともユダヤ人やイスラエル人を憎む教育を施さない統治体です。
――平和的な相手を見つけることは、本当に難しい課題です。
全くその通りです。しかし、ユダヤ人はほぼ4千年生きてきました。何度も虐殺を受けてきました。ローマやバビロンなど、人々は私たちを追放してきました。ナチスは抹殺しようとしました。けれども、私たちは生き残ったのです。そして国を建てました。降伏などしません。諦めません。私たちは、正しいことをしているのですから。そして強靭です。
8年前、テレビで第2次世界大戦にナチスがしたこと、その思想に関する映画を観ました。ユダヤ人をどう始末するか、最終計画についてのエピソードがありました。
今日、私たちは神に感謝します。私たちを守る軍隊があります。そして友邦がいます。最大の友は米国です。世界中に、日本も含めて友がいます。イスラエルには、自衛する権利があると認めてくれています。
「平和」を希求してきたイスラエル
確かに平和を教育する相手はなかなか見つかりませんが、私たちは抹殺されません。イスラエルは平和を望んでいます。1993年にはオスロ合意を結びました。2000年には、ビル・クリントン大統領(当時)の仲介で、エフド・バラク首相(同)が和平案を出しました。とても相手方に条件の良いもので、平和共存のために土地、水、相互の安全保障など、妥協したのです。難民、エルサレム帰属、入植地など、全てが交渉のテーブルにありました。
けれども、(パレスチナは)全て拒絶しました。なぜなら、平和を望んでいなかったのです。彼らは、地中海からヨルダン川までの、一つのパレスチナ国家を願っているのです。パレスチナの難民が、(イスラエルの)テルアビブやヤッフォ、ハイファ、アッコなどにも帰還することを求めます。
パレスチナ自治政府についてですが、マフムード・アッバス議長は、昨年10月7日の虐殺を一度も非難していません。東京に駐在する自治政府の大使でさえ、今まで一度も非難していません。「そんなことをしてはならない、子どもを殺してはならない、強姦してはならない」と非難しません。人々は、アッバス議長にガザ地区の統治を任せればよいと言いますが、彼に何でそんな報酬を与えるのでしょうか。
今、米国は、「刷新された」パレスチナ自治政府ということを言っています。「刷新された」というのが何を意味しているか分かりませんが、昨年10月7日以前にはもう戻れないのです。時は変わりました。
ヒズボラもこれまでのように、レバノンのイスラエル国境地域にとどまっていることはできません。イスラエル北部の国境地域の2万人もの人々が、避難しなければいけない状態なのですから。ヒズボラがやめなければ、私たちは石器時代に戻ってしまいます。そんな戦争はしたくありません。
こんなことになりたくありませんから、外交的圧力をかけるべきです。イランに対してです。イランが、これら代理勢力を送っています。彼らは、イエメンのフーシ派やシリアの武装勢力、ハマス、そしてヒズボラを支援しています。
日本にも、イランの外相が来ました。イスラエルがジェノサイドを犯していると言っていました。本当ですか。イランは、イスラエルはがんであり、中東から除去すべき腫瘍だと公言しているのです。ユダヤ人はそこに住む権利はないと言います。彼らは、国内にも問題があり、イスラエルを攻撃する機会を狙っているのです。イランが背後にいるのです。フーシ派は、イランの指導によって日本の船舶を拿捕(だほ)しました。
実現しているアラブ諸国との和平合意
暗い面ばかりを話しましたが、明るい面、いや、より良い面があります。アラブのスンニ派、穏健的な国々は、私たちと似た思考を持っています。ハマスの問題を解決しないといけないと思っています。イスラエルだけでなく、自分たちにとっても脅威だからです。
将来には、サウジアラビアと交渉を再開することでしょう。イスラエルは平和を望んでいます。前からその姿勢を示してきました。和平会議に参加しました。オスロに行き、シリア人と話しました。シリアと交渉したのです。そして、エジプトと平和条約を結んでいます。シナイ半島を返還しました。
ヨルダンやアラブ首長国連邦(UAE)とも平和条約があります。バーレーンとも、モロッコとも国交を結んでいます。私たちはサウジアラビアにも拡大したいのです。この「アブラハム合意」を、周辺諸国全てに広げたいのです。東南アジアも、インドネシアとも結びたいです。私たちは、一方の手で自分たちを守るために戦争していますが、もう一方の手は、オリーブの葉を持って平和を求めて差し伸べているのです。
差し伸べるその平和の手の相手に、パレスチナ人も含まれています。何度も和平の手を差し伸べてきました。アッバス議長であるか、他の誰であるか分かりませんが、パレスチナ人と和平を結びたいのです。
イスラエルが平和を望んでいないと非難することはできません。もし望んでいなかったら、どうしてアラブ諸国と和平合意ができたのでしょうか。なぜ、平和条約が破棄されていないでしょうか。エジプトやヨルダンに、イスラエル大使館がなぜ今もあるのでしょうか。私たちの大使館はUAEにも、バーレーンにもあります。
なぜ平和が維持できているのか。彼らも、イランのイスラム原理主義とその代理勢力を知っているからです。ヒズボラやハマスです。彼らはISのような存在です。同じ部類です。イスラム聖戦もそうです。
イスラエルによるガザ地区に対する援助
では、イスラエルが最終的に願っていることはなにか。これは、私たちの預言者が預言したことです。「平和に暮らす」ことです。近隣の人たちと平和に過ごしたいのです。パレスチナ人とも。
そして、ガザ地区の人々とさえです。なぜか。私たちは、彼らに多くの支援金を与えました。戸を開きました。2万人に労働許可証を出しました。漁師たちの漁業の範囲を広げました。がん治療の必要な患者を、イスラエルの病院に連れてきました。
繁栄してほしかったのです。金を与え、機会を与え、肥料を与えました。農地を開拓してほしかったのです。学校や産業などの建築のためのセメントもあげました。彼らはそれを、テロのためのトンネルに使ったのです。これが悲劇であり、パレスチナ人にとっての悲劇です。平和のために使わなければ、彼ら自身も苦しみますし、私たちも苦しみます。
イスラエルの学校では、平和を学びます。音楽や芸術、サーフィンなど。これがサマーキャンプで学ぶものです。ガザ地区はどうですか。軍服を着せて、銃を持たせて、イスラエル人を殺せと言っているのです。世界は、このようなパレスチナのしていること、イランのしていることをやめるよう、戦争が起こらないように圧力をかけるべきです。(続く)