Skip to main content
2025年6月15日20時35分更新
クリスチャントゥデイ
メールマガジン サポーターのご案内
メールマガジン サポーターのご案内
Facebook Twitter
  • トップ
  • 教会
    • 教団・教会
    • 聖書
    • 神学
    • 教会学校・CS
  • 宣教
  • 教育
  • 国際
    • 全般
    • アジア・オセアニア
    • 北米
    • 欧州
    • 中南米
    • 中東
    • アフリカ
  • 社会
    • 全般
    • 政治
    • NGO・NPO
    • 地震・災害
    • 福祉・医療
  • 文化
    • 全般
    • 音楽
    • 映画
    • 美術・芸術
  • 書籍
  • インタビュー
  • イベント
  • 訃報
  • 論説・コラム
    • 論説
    • コラム
    • 執筆者一覧
  • 記事一覧
  1. ホーム
  2. 論説・コラム
  3. コラム
ケーテ・コルヴィッツの生涯

労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(19)連作版画『戦争』

2022年11月1日10時25分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
  • ツイート
印刷
労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(1)ふみにじられたもの+
ケーテ・コルヴィッツ(1867〜1945、写真:Philipp Kester)

1922年末。ケーテは連作版画『戦争』を完成させた。この作品に彼女は世界中の母親の悲しみを投入した。彼女は実に、母の心をもって戦争の悲惨さを訴えたのであった。

<いけにえ><志願兵><寡婦><母たち><ひとびと>という5枚続きの絵は、世界に大きな衝撃を与えた。戦争はまさに死と背中合わせだったので、彼女は続いて死をテーマにした『一人の女をとらえる死』『死との対話』を制作した。

1923年。ケーテは夫カールと共にアカデミーに出展した自分の作品を見に行った。会場を出ると、各地から集まった人たちがコルヴィッツ夫妻のもとに押し寄せてきて叫んだ。

「貧しい者の味方! 子どもたちの保護者!」そして2人に祝福の言葉をかけるのだった。「ありがとう、皆さん!」ケーテは夫に助けられて、会場入り口の少し高い石段の上に立って彼らに語った。

「ここにいるのは戦争によって息子を奪われた一人の母。そして皆さんと同じように明日のパンをどうやって得ようかと考えている貧しい労働者です。

労働者は長い間不当に搾取されてきました。さらに戦争によって家も家族も失わなくてはならなかったのです。でも、私たちには残されたものがあります。それは、人間としての誇りです。私たちは、いかに圧迫され、搾取され、全てを失っても立派に人間としての務めを果たすことができるのです。

私の愛する2番目の息子は戦死しました。戦地に行って初めてよこした手紙に、彼はこんなことを書いてきました。

『ほとんど希望のない毎日ですが、ちょうどお父さんとお母さんがあの労働者街の診療所でともしびを掲げたように、心に希望を与えてくれる瞬間があります。敵国フランスの陣営の中でフランス兵が負傷したドイツ兵をいたわり、兵舎の中で手当てをしてやったということを聞きました。またフランスの村落に侵入した際、ドイツ兵が戸口に<いたわってやれ――ここには老人が住んでいる><ここには妊婦がいる。それと子どものみだ>と書いた張り紙をしているのを目撃しました。心がすがすがしい思いになって、涙が出てたまりませんでした』

皆さん、ペーターは戦争で何の手柄をたてることもなく犬死にしました。でも、彼はかけがえのないものを残してくれたのです。それは、世界いずれの国にあっても、人間は人間であることを忘れてはならない――ということです。

そして、人間たるわれわれが命を懸けて伝えていかねばならないことは、最も小さな、弱い者に対してなされた愛の行為は無限の価値を持つということであります。これこそ人間の尊厳であり、人間の誇り、人が神の似姿として造られた証拠なのです」

詰めかけた群衆はどよめき、大きな拍手が鳴り響き、それはやまなかった。ケーテは思わず空を仰いだ。そこに愛する祖父ユリウス・ルップがいて、じっと自分を見つめているような気がした。

(おじいさん)彼女は心の中で語りかけた。(やっと今、あなたが生涯をかけて伝えようとしていたメッセージが分かりました)

その年の冬。ケーテはめっきり弱ってきた足を引きずるようにしながら、ベルリン郊外の「救護院」を訪ねた。入り口を入ると、むっとするような空気の中で、まるで芋を洗うように多くの人々が長いテーブルについてガツガツとスープをすすっていた。

と、そこへ施設の職員が一人のひげづらの男を手押し車に乗せてやってきた。戦争で心身が傷つき、廃人のようになって戻ってきたのだという。男はよだれを垂らし、何かわけの分からないことをつぶやいていたが、ケーテの前に来かかったとき、突然彼女に目を据え、泣きじゃくりながら言った。

「お母さん・・・いませんよ・・・どこを捜しても・・・ピティがいないんです・・・」

ケーテは衝撃のあまり、よろよろと手押し車にすがりついた。それは、一度も家に帰ってくることなく戦争の間も消息の知れなかった養子のゲオルクの変わり果てた姿だったのである。

「ゲオルク」。ケーテは彼の耳にささやいた。「ピティはね、こんな地獄みたいな世界ではなく、天国で幸せに暮らしているわ」。男の目が据わった。それから、彼は小さな子どものように泣き叫んだ。「お母さん・・・やっぱりいないよ・・・ピティを捜して。・・・ピティはどこ?・・・」

職員はケーテに一礼すると、車を押して彼を建物の中へと運んで行った。ケーテはようやくもう一人の息子と再会し、そして永遠に失ったのだった。それから2週間後、ゲオルク・グレイトーアが「救護院」で死んだという通知がコルヴィッツ夫妻のもとに届いた。

*

<あとがき>

ケーテは連作版画『戦争』の中に、世界中の母親の悲しみを投入しました。そして、戦争はまさに死と背中合わせなので、死をテーマにした2つの作品をも完成させたのです。

そして、彼女は夫カールと共に自分の作品を展示したアカデミーへと向かいます。そこで彼女は集まった人々を前にして、長い間搾取された上、戦争によって全てを失わねばならなかった自分たち貧しい階層に残されたものは人間の誇りであり、いかに社会が変化しても失ってはならないと語るのでした。

そして彼女は、戦死したペーターが最後によこした手紙を紹介します。それには敵対し合う兵士の間にもやさしい思いやりや、弱い者に対するいたわりを見たことが記されていたのでした。彼女は今また亡き祖父が残してくれたメッセージ「弱い者に対する愛の行為は無限の価値を持つ」という言葉を思うのでした。

この後、ケーテには悲しい再会が待っていました。それは戦争によって心身に深い傷を受け、廃人となったゲオルクとの再会でした。

<<前回へ     次回へ>>

◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝のWeb連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
  • ツイート

関連記事

  • 労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(18)戦争の爪痕

  • 労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(17)引き裂かれた心

  • 労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(16)戦争の予感

  • 労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(15)連作版画『農民戦争』

  • 労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(14)働く妊婦

クリスチャントゥデイからのお願い

皆様のおかげで、クリスチャントゥデイは月間30~40万ページビュー(閲覧数)と、日本で最も多くの方に読まれるキリスト教オンラインメディアとして成長することができました。この日々の活動を支え、より充実した報道を実現するため、月額1000円からのサポーターを募集しています。お申し込みいただいた方には、もれなく全員に聖句をあしらったオリジナルエコバッグをプレゼントします。お支払いはクレジット決済で可能です。クレジットカード以外のお支払い方法、サポーターについての詳細はこちらをご覧ください。

サポーターになる・サポートする

人気記事ランキング

24時間 週間 月間
  • コヘレトの言葉(伝道者の書)を読む(5)時の賛歌 臼田宣弘

  • 米南部バプテスト連盟、同性婚、ポルノ、中絶薬の禁止を求める決議案を可決

  • 「みにくいアヒルの子」など数々の童話生み出したアンデルセン自伝 『わが生涯の物語』

  • 日本人に寄り添う福音宣教の扉(224)音楽が支える聖霊による祈り 広田信也

  • ワールドミッションレポート(6月15日):ベラルーシのために祈ろう

  • ワールドミッションレポート(6月12日):ベルギーのために祈ろう

  • ワールドミッションレポート(6月14日):スイス 信仰で買ったトラクター、ローレン・カニングハムとYWAMに託された農場の奇跡

  • クリスチャンロックバンド「ニュースボーイズ」元ボーカルに性的暴行・薬物疑惑

  • 花嫁(27)絶えず喜んでいなさい 星野ひかり

  • 戦時下でも福音は止まらない ウクライナの伝道者が欧州伝道会議で講演

  • 「ハーベスト・ジャパン2025」開催決定! “世界的な癒やしの器” ギエルモ・マルドナード牧師が来日

  • 【ペンテコステメッセージ】約束の成就と聖霊の力―ペンテコステの恵みにあずかる 田頭真一

  • クリスチャンロックバンド「ニュースボーイズ」元ボーカルに性的暴行・薬物疑惑

  • 『天国は、ほんとうにある』のコルトン君、臨死体験から22年後の今

  • 1990年代生まれのプログラマー、カトリック教会の聖人に

  • 「みにくいアヒルの子」など数々の童話生み出したアンデルセン自伝 『わが生涯の物語』

  • 大統領選の結果受け韓国の主要キリスト教団体が相次いで声明、和解と相互尊重を訴え

  • ウォルター・ブルッゲマン氏死去、92歳 現代米国を代表する旧約聖書学者

  • 戦時下でも福音は止まらない ウクライナの伝道者が欧州伝道会議で講演

  • 米南部バプテスト連盟、同性婚、ポルノ、中絶薬の禁止を求める決議案を可決

  • 「ハーベスト・ジャパン2025」開催決定! “世界的な癒やしの器” ギエルモ・マルドナード牧師が来日

  • 『天国は、ほんとうにある』のコルトン君、臨死体験から22年後の今

  • 1990年代生まれのプログラマー、カトリック教会の聖人に

  • 大統領選の結果受け韓国の主要キリスト教団体が相次いで声明、和解と相互尊重を訴え

  • クリスチャンロックバンド「ニュースボーイズ」元ボーカルに性的暴行・薬物疑惑

  • 【ペンテコステメッセージ】約束の成就と聖霊の力―ペンテコステの恵みにあずかる 田頭真一

  • フランクリン・グラハム氏、ゼレンスキー大統領と面会 和平求め祈り

  • 淀橋教会、峯野龍弘主管牧師が引退し元老牧師に 新主管牧師は金聖燮副牧師

  • 「みにくいアヒルの子」など数々の童話生み出したアンデルセン自伝 『わが生涯の物語』

  • ウォルター・ブルッゲマン氏死去、92歳 現代米国を代表する旧約聖書学者

編集部のおすすめ

  • 四国の全教会の活性化と福音宣教の前進のために 「愛と希望の祭典・四国」プレ大会開催

  • イースターは「揺るぎない希望」 第62回首都圏イースターのつどい

  • 2026年に東京のスタジアムで伝道集会開催へ 「過去に見たことのないリバイバルを」

  • 「山田火砂子監督、さようなら」 教会でお別れの会、親交あった俳優らが思い出語る

  • 日本は性的人身取引が「野放し」 支援団体代表者らが院内集会で報告、法規制強化を要請

  • 教会
    • 教団・教会
    • 聖書
    • 神学
    • 教会学校・CS
  • 宣教
  • 教育
  • 国際
    • 全般
    • アジア・オセアニア
    • 北米
    • 欧州
    • 中南米
    • 中東
    • アフリカ
  • 社会
    • 全般
    • 政治
    • NGO・NPO
    • 地震・災害
    • 福祉・医療
  • 文化
    • 全般
    • 音楽
    • 映画
    • 美術・芸術
  • 書籍
  • インタビュー
  • イベント
  • 訃報
  • 論説・コラム
    • 論説
    • コラム
    • 執筆者一覧
Go to homepage

記事カテゴリ

  • 教会 (
    • 教団・教会
    • 聖書
    • 神学
    • 教会学校・CS
    )
  • 宣教
  • 教育
  • 国際 (
    • 全般
    • アジア・オセアニア
    • 北米
    • 欧州
    • 中南米
    • 中東
    • アフリカ
    )
  • 社会 (
    • 全般
    • 政治
    • NGO・NPO
    • 地震・災害
    • 福祉・医療
    )
  • 文化 (
    • 全般
    • 音楽
    • 映画
    • 美術・芸術
    )
  • 書籍
  • インタビュー
  • イベント
  • 訃報
  • 論説・コラム (
    • 論説
    • コラム
    • 執筆者一覧
    )

会社案内

  • 会社概要
  • 代表挨拶
  • 基本信条
  • 報道理念
  • 信仰告白
  • 編集部
  • お問い合わせ
  • サポーター募集
  • 広告案内
  • 採用情報
  • 利用規約
  • 特定商取引表記
  • English

SNS他

  • 公式ブログ
  • メールマガジン
  • Facebook
  • X(旧Twitter)
  • Instagram
  • YouTube
  • RSS
Copyright © 2002-2025 Christian Today Co., Ltd. All Rights Reserved.