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ケーテ・コルヴィッツの生涯

労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(20)人の望みの喜びよ

2022年11月16日10時25分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
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労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(1)ふみにじられたもの+
ケーテ・コルヴィッツ(1867〜1945、写真:Philipp Kester)

1924年。戦後の困窮した生活と闘いながら、ケーテは制作に励んでいた。この時期に制作したものに『パン』がある。これは以前市場近くで見かけたあの親子の姿を絵にしたものだった。

スカートにしがみついてパンを求める子どもの小さな手をもぎ放すようにして仕事に出かけて行く女性の姿は、胸を締め付けるような悲しさに満ちている。

もう一つは『むだ骨折り』。子どもを背負い、もう一人の手を引きながら、この女性は工場に仕事をもらいに行って断られたのだろうか。あるいは堕胎するために医師のもとを訪ねて断られたのか。いずれにしても、この女性の一歩一歩には慟哭(どうこく)が秘められている。

この他に『兄弟の交わり』『戦争に対するデモンストレーション』などの作品が生まれた。

1925年。ケーテは勤労する人々の姿を永久に版画にして刻みつけておこうと考え、新たに連作版画『プロレタリアート(勤労する人々)』を完成させた。<失業><飢え><死んだ子ども>などで構成されている。

雑誌の挿絵も続けており、『貧乏』『失意』『ロッテ』の3点を「シンプリチスムス誌」の編集部に送った。

その後、彼女は夫カールと共に今まで一度も訪ねたことのない刑務所の慰問に出かけた。「窓からのぞいてください。扉は開けられませんから」

刑務官はそう言って2人を突き当たりの小部屋に導いた。窓からのぞくと、そこに10人くらいの男たちが、ある者は膝を抱えて何かブツブツ言っており、別の者はぼんやりと壁を見つめていた。

「ここに収容されているのは政治犯、強盗、殺人を犯した者などさまざまで、ある者は終身ここで暮らすか、あるいは死刑の判決を受けるかどちらかの運命に定められます」

ケーテは彼らの石のような姿を見ているうちに憐憫(れんびん)の思いで胸が締め付けられるようになった。「ああ、気の毒な人たちだな」。彼女のそばでカールがこうつぶやくのが聞こえた。

その時である。まるで奇跡のようなことが起きた。どこからともなく美しい音楽が流れてきて、それが次第に大きくなっていった。バッハの「主よ、人の望みの喜びよ」というその曲が監房に流れ込むや、囚人たちの様子に変化が起きた。彼らは身を起こすと、目を輝かせて、耳をそばだてた。

「音楽だ!」と一人が叫ぶと、仲間たちも口々に「音楽だ!音楽だ!」と叫んで立ち上がった。どうやら刑務所のラジオから流れ出してきたようだった。

「ここのロストフ所長は大の音楽好きで、いつもラジオで音楽を聴いているんですが、彼はある時こう言ったんです。『ここにいる囚人たちは、終身懲役になるか、死刑になるかいずれも日の目を見ることのない人たちだ。せめていっときでも魂をのびのびと解放させてやろうじゃないか』と。そうしてラジオが音楽を流すとき、全檻房の囚人たちが聴けるようにボリュームを最大にしてやっているんですよ」

冷酷で、一片の情けも感じられないような刑務所の看守の心の中にも、驚くほど優しい思いやりがあるのだとケーテは感動した。そして、またしても祖父の言葉を思い出した。

(神様はご自身に型どって人間を造られた。だから、人間がどんなに悪くなっても、どこかにその似姿が残っているものだよ)

帰るとき、ケーテは抱えてきたユリの花束を刑務官に渡した。「これを刑務所のどこかに置いてください」。そして、カールに腕を取られて刑務所を後にしたのだった。この時の印象をもとにして、間もなくケーテは『音楽をきく囚人たち』という版画を制作したのだった。

翌年1927年7月8日。60歳になったケーテ・コルヴィッツの業績をたたえて、ベルリン市内のホテルで盛大な祝賀会が開かれた。アカデミーの会員や芸術家たちが出席し、ミュンヘンのヘルテリヒ美術学校のかつての同期生たちも出席してケーテを励ました。

この席上でアカデミー会長のあいさつに続き、会員たちの祝いの言葉が述べられた。その次に商工会議所から花束が授与されると、拍手が湧き起こった。会長のヨハネス・メンデルが「ケーテ・コルヴィッツの業績をたたえて!」と言って乾杯の音頭をとると、グラスがかち合う音に混じって歓声が上がった。

しかし、この華やかな祝賀会が終わっても、ケーテは依然として版画制作に打ち込み、その後『眠る幼児を抱く婦人労働者』『マリアとエリザベス』などの作品が生まれた。

*

<あとがき>

音楽は神様が人間に与えてくださった最も素晴らしい贈り物の一つだと最近よく思うことがあります。難しい理屈を並べても解決しなかったことが、音楽によって心を和らげられた人間によってやすやすと解決できたというようなことが、実際にあるからです。

ある時、ケーテは夫カールと共に刑務所の慰問に出かけますが、ここでそうした奇跡を目にすることになりました。バッハの「主よ、人の望みの喜びよ」という曲が刑務所内に流れた途端に、強盗や殺人などを犯して服役している囚人たちは目を輝かせて歓声を上げ、子どものように素直になったのです。

そしてそれは、いつ無期懲役や死刑になるか分からない囚人たちのために、素晴らしい音楽によってひとときでも魂を解放してやろうという刑務所長の配慮だったことが分かりました。

この時の感動が、後にケーテの手によって『音楽をきく囚人たち』という版画となってよみがえりました。

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◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝のWeb連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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