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リビングストンの生涯

アフリカ奥地に神の愛を―リビングストンの生涯(16)さようなら、お父さん

2021年12月29日13時14分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
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アフリカ奥地に神の愛を―リビングストンの生涯(1)悲しい伝説+
リビングストン(1813〜73、写真:Thomas Annan)

以前は人なつこい微笑を浮かべ、彼を慕ってあとについてきた黒人たちのあまりの変わりようにリビングストンはうろたえながら、何があったのかと尋ねた。すると一人が泣きながら叫んだ。「あんたがイギリスに帰っちまってからすぐに、あっちからもこっちからも白人たちがやってきて象牙を売ってくれと言う。われわれが売らなかったら、やつらはリビングストンの友達で許可をもらっていると言うじゃないか。そうして、みんなを鉄砲で脅し、象牙をみんな持っていっちまった」

「それだけじゃない。やつらは毎日やってきて家畜を残らず持っていっちまった。それに文句を言ったら、私らの家族に乱暴をして、奴隷に売るために引っ張っていっちまったんだよ」

リビングストンは恐ろしい衝撃を受けた。「あんなやつらと友達なら、あんたと口もききたくない。顔も見たくないから行っちまってくれよ。もうここに来ないでくれ」

一行は逃げるように先に進んだ。リビングストンの頬には涙が流れていた。自分が英国に帰りもてはやされている間に、こんな悲劇が起きていたのだ。一体自分がこれまでやってきたことは何だったのか。

あのなつかしいリンヤンティに着くと、ここも以前と様子が一変していた。あの人なつこい微笑を浮かべて自分を迎えてくれた住人が一人もおらず、にぎやかな声にあふれた広場――それが消えてしまっていた。目を凝らして見ると、小屋も残らずなくなり、ガラクタの山があちこちにでき、涼しそうな葉をつけた木々は残らず切り倒されていた。彼の姿を見て顔見知りの黒人たちが寄ってきたが、いずれも冷たい目で非難するようにじろりと見た。彼は不安におののく胸を抑えて、首長のセケレトウの屋敷を訪れた。

「首長はずっと床に就いている。もう助からない病気だそうだ。だから帰ってくれ」。従者は突き刺すように言った。それでもぜひ会いたいから取り次いでくれと頭を下げると、彼はしぶしぶ病室に案内してくれた。

「おい、立派な首長。どうしたね?」リビングストンは、ありったけの愛情を込めてなつかしい友に呼び掛けた。セケレトウは全身悪性の腫瘍に侵され、死にかけていた。それでも、リビングストンが来たことを知ると、かすかに目を開けてほほ笑みかけた。

「お父さん、来てくれたんですね。もう一度会えてよかった」。「しっかりするんだよ。私は医者だ。きっとあんたを元の体にしてみせる」。リビングストンは必死で言ったが、彼は首を振った。

「私は最後までお父さんを信じていた。お父さんがここに来てくれたのは、われわれが好きだったからですよね。でも、こんなことになってとても残念です。お父さんがイギリスに帰ってすぐにここはボーア人に荒らされ、そのあとポルトガル人や他の国の白人たちによってめちゃくちゃに踏みにじられました。やつらは、お父さん――情けないことにみんなお父さんの友達だとか家族だとか言ってここの人たちを殺したり奴隷に売るために引っ張っていってしまったんですよ」

「セケレトウ、ゆるしてくれ。私はイギリスになど帰るべきじゃなかった」。リビングストンは声を上げて泣いた。セケレトウは、次第に弱っていく中でありったけの力を込めて言った。

「お父さんがやったことは今まで誰もやったことがない素晴らしいことです。もしお父さんがセント・ポール・ルアンダやキリマネまで歩いて道を開かなかったら――それはポルトガル人やアラビア人に踏み込まれることになったけど――アフリカは開けなかったじゃありませんか。ヨーロッパの人たちと貿易する機会がなかったじゃありませんか。だからね、お父さん、これでよかったんですよ」

それから、最後の力を振り絞ってその指から金の指輪を引き抜いて彼に渡した。「…もしこのマコロロでお父さんが危ない目に遭ったとき、首長セケレトウのこの印を見せるんですよ。そうすれば、どんなにお父さんをよく思っていない人も、よくしてくれます」

そして、彼はもう見えなくなった目で、なおもリビングストンを見つめた。「あなたに会えて本当によかった。…さようなら、お父さん」。そして、がっくりと首が後ろに落ち、彼は息絶えた。

「セケレトウ、私たち白人をゆるしてください!」リビングストンは、冷たくなった彼の体に取りすがって号泣し続けた。

*

<あとがき>

マコロロの首長セケレトウは、リビングストンを実の父親のように慕い、彼が説くキリストの教えを子どものように受け入れたのでした。リビングストンはしばらくの間英国に帰っていましたが、いつもその心にはセケレトウをはじめとするアフリカの兄弟たちへの思いがありました。彼は務めを終えると、飛ぶように現地に戻ってきました。

しかし、彼を待っていたのは、あまりにも残酷な現実でした。彼らが欧州の商人たちと対等に貿易ができ、国を立ち上げることができるようにと、リンヤンティから大西洋まで水路を開いたのに、それが奴隷商人をアフリカ奥地へと呼び寄せる結果となり、国は踏みにじられ多くの原住民が殺されたり、奴隷に売られたりしたのでした。

リビングストンは、重傷を負い息絶える寸前のセケレトウのもとに駆けつけます。するとセケレトウは、リビングストンの偉大な業績をたたえ、彼を励ましつつ天に召されていったのでした。

アフリカ奥地に神の愛を―リビングストンの生涯(1)悲しい伝説
(画像:栗栖ひろみ著『信仰に生きた人たち 第3巻 リビングストン』[1982年、ニューライフ出版社〕)

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◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)、2003年『愛の看護人―聖カミロの生涯』(サンパウロ)など刊行。12年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝のWeb連載を始める。その他雑誌の連載もあり。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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