時代が作品を傑作に押し上げた! 今こそ観るべきパンデミック映画「コンテイジョン」

2020年4月20日21時06分 執筆者 : 青木保憲 印刷
+時代が作品を傑作に押し上げた! 今こそ観るべきパンデミック映画「コンテイジョン」
映画「コンテイジョン」(画像:予告編より)

SF映画の世界は、私たちの現実の常に先を行かなければならない。だから多くの製作者は知恵を絞り、あり得そうな状況設定から一気にエンターテインメントへ物語を昇華させることにしのぎを削る。古くは「2001年宇宙の旅」、最近では「インターステラー」など、「ありそうであり得ない」世界を描くSF映画は、ハリウッド大作であろうと欧州のアート系作品であろうと、人々の耳目を引き付けてきた。

そんなSF作品の中に「パンデミックもの」がある。細菌やウイルスが大量発生し、人類に多大な影響を及ぼす、というお決まりのジャンル映画である。しかし、このパターナライズされた作品群の中で、当時はほとんど注目されなかったが、今観るとあまりのリアリティーさにぞっとさせられる作品がある。それが2011年に公開された「コンテイジョン」である。

今だから言えることだが、これは「ありそうであり得ない」というSF映画の常識を覆し、「あり得なさそうであり得た」作品である。言い換えるなら、新型コロナウイルスのまん延が、この作品を傑作と呼ばないわけにはいかなくさせた、ともいえよう。

そもそも「パンデミック映画」の系譜とは?

細菌やウイルスが人類の脅威になる、というパターンは古くから映画の歴史にはあった。H・G・ウェルズのSF小説を原作とした「宇宙戦争」も、実は病原菌が大きなファクターとなっている。日本でも有名なのは、小松左京のSF小説を原作とした「復活の日」である。英題はその名も「Virus(ウイルス)」だった。ゲームの世界では、「バイオハザード」シリーズは細菌兵器の漏えいから始まる悲劇を前提としている。

何年か周期で、細菌、ウイルスが鍵となる作品が作られている。それが前面に出てくることもあれば、細菌兵器を奪い合うという古色蒼然(そうぜん)とした数々のスパイ映画も散見する。特にコロナ騒動が本格化して以来、ネットフリックスやアマゾンプライムなどの動画配信サービスで上位に食い込んでいるのは、「アウトブレイク」「12モンキーズ」「感染列島」、そして今回取り上げる「コンテイジョン」である。だが、これらの作品と「コンテイジョン」は決定的な違いがあるのだ。

スティーブン・ソダーバーグ監督と米疾病予防管理センター

「コンテイジョン」の監督は、知る人ぞ知る社会派傑作を多く世に送り出しているスティーブン・ソダーバーグ。個人的な意見だが、メキシコ麻薬カルテルとの抗争を描いた「トラフィック」と、キューバ革命の立役者チェ・ゲバラの半生を前後編で描いた「チェ」シリーズは、社会派の名作であるとともに、誰が見ても楽しめるエンターテインメント作品であると思う。

さて、「コンテイジョン」である。作品では他のパンデミック映画と同じく、人知れず感染が拡大していく様が描かれている。しかしその語り口調は、従来のSF映画のそれとは異なる。もともとリアリスティックな作風の監督に加え、米疾病予防管理センター(CDC)や感染症の専門家からの情報や助言を忠実に反映させた内容であるため、物語は淡々に進むのに、次第に高まっていくテンションはまるでホラー映画である。

なぜ今観るべきか?

前述した「アウトブレイク」「12モンキーズ」「感染列島」に共通するのは、パンデミックを抑え込むまでの物語がとてもドラマチックなことだ。主人公やサブキャラの中に自己犠牲的精神でワクチン開発に貢献する人物が登場し、彼らの犠牲によって世界は救われる、という展開になだれ込んでいく。

だが「コンテイジョン」はまったくそのようなドラマチックな展開がない。突出したヒーロー、ヒロインも出てこない。確かにワクチンは生成される。しかし本作の特異性は、このワクチンが生成された後に真の地獄がやってくるということだ。この辺りは、ネタバレになるので、ぜひご自分の目で確かめてもらいたいが、ラストのオチに至るまで、「こうなる可能性はある」と思わされるほど、怖い展開が待っている。

では、本稿で最も訴えたいポイントに入ろう。どうして本作を今観るべきなのか――。先ほど紹介したように、本作はCDCや感染症の専門家からの情報や助言をもらって作られている。そして重要なのは、これが今回のコロナ騒動以前、しかもこういったパンデミック映画を普通に公開できる時期に製作されたということである。恐らくその助言は「起こり得る可能性」という段階でなされている。つまり何の社会的制約を受けることなく、「実際にこんなことが起こったら」というリアリティーを冷徹に分析し、そのまま映像化することが可能であったということである。

考えてもらいたい。もし2020年にこのような映画を作るとしたらどうだろうか。まず映画会社はGOを出さないだろう。それは現実に酷似し過ぎているからである。さらに専門家の助言も、あまりにもリアリティーがあり過ぎるため、手心が加えられる可能性がある。なぜなら、どこまでいっても「映画=エンターテインメント」だからである。

皮肉なことだが、本作にはまるで2020年にコロナ騒動が起こることを予言したかのようなシーンが多数見受けられる。「ありそうであり得ない」ではなく、「あり得なさそうであり得た」と表現したのはこのことである。私たちはこういう作品を観ることで、パンデミックに対する認識を改めることができる。

キリスト者として、問われる「信仰」

本作には、礼拝や集会が禁止される場面も出てくる。世界が大混乱に陥る様子も、SNSによるデマやフェイクニュースがとんでもない事態を引き起こす様も描かれている。直接的にキリスト教と関わるシーンは少ないが、提示されたテーマは大いに私たちの信仰心を刺激するだろう。つまり「こうなったとき、あなたはどうするか?」である。他のパンデミック映画は、ワクチン生成のヒーローが登場し、世界は落ち着きを取り戻してハッピーエンドとなる。だが果たして、現実はそんな単純なものだろうか。人類が受けた傷や壊れた人間関係は、ワクチンのみで簡単に回復するものなのか。その辺りを本作は悲観的に、またはリアリスティックに描き出している。

コロナ、コロナで陰陰滅滅とする昨今だからこそ、逆療法的にこのようなパンデミック映画を鑑賞して、私たちの在り方を分かち合ってみてはいかがだろうか。

■ 映画「コンテイジョン」予告編

※ すでに劇場公開は終了しており、アマゾン・プライムビデオ(字幕版吹替版)やDVDネットフリックスなどで視聴可能です。

青木保憲

青木保憲(あおき・やすのり)

1968年愛知県生まれ。愛知教育大学大学院を卒業後、小学校教員を経て牧師を志し、アンデレ宣教神学院へ進む。その後、京都大学教育学研究科卒(修士)、同志社大学大学院神学研究科卒(神学博士、2011年)。グレース宣教会研修牧師。東日本大震災の復興を願って来日するナッシュビルのクライストチャーチ・クワイアと交流を深める。映画と教会での説教をこよなく愛する。聖書と「スターウォーズ」が座右の銘。一男二女の父。著書に『アメリカ福音派の歴史』(2012年、明石書店)。

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