世界自転車旅行記(9)トルコ 木下滋雄

2015年5月2日19時33分 コラムニスト : 木下滋雄 印刷
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世界自転車旅行記(9)トルコ 木下滋雄

パウロの伝道の舞台であるトルコは、かねてより自転車雑誌の編集長からいい所だと聞いてもいたので、行ってみたい国だった。しかしこの国は、僕が世界へあこがれていたころ、その雑誌に手記を連載されていたKさんがトラックにはねられて亡くなった所だ。マナーは悪く、保障も十分でないという交通事情の悪さは、そのころから聞かされていて、それは少し不安だ。

イスタンブールには2002年5月のある朝早く到着。旧市街は多くの世界遺産があり、建築士としては非常に楽しめる街だが、あまり長くいると走る時間がなくなる。1日だけゆっくり見て回った。

それに自転車で走るのは街より田舎がいい。都市周辺部は交通が激しいので、これを避けるためにフェリーでマルマラ海を越え、バンディルマという町から走り出した。初めての小さな店で買ったパンを食べていると、どこの国かと質問された後、店員さんがお菓子やらミネラルウォーターやらをくれた。トルコは親日的だと聞いていたが、本当にそのようだ。

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トルコの方たちはとても親切で親日的。お茶飲んでいきなさいとよく言われた。

木馬で有名なトロイ遺跡を見、エーゲ海沿岸を南下して、気付くと5日も連続で北東から強く吹いている。向かい風というのは自転車には一番嫌で、不満は直ぐに噴出するのに、追い風という自分に都合のいいものには気付きにくい。そんな自分勝手さを風から教えられるのだが、このまま東へ向かうとどうなってしまうのだろう・・・。幸いにしてこの風は東へ向かうころにはやんだけれども。

幹線道路から海はほとんど見えないが、寄り道して海の見えるところへ行くと景色は良く、綺麗な港町があってとても気持ちがいい。黙示録にあるベルガモ遺跡にも寄ってみる。この町は山の上にあり、水を確保する技術とその設備の規模には驚く。

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丘の上にあるべルガモの遺跡

トルコ第2の都市イズミールへ向かったのは朝だった。時間帯のせいもあって交通量は多く、路肩には大きな排水枡が並び、歩道は段差が大きく走れたものではない。立体交差では車が途切れたときに急いで渡るという、とてもサイクリングを楽しむには程遠い。Kさんのことも頭をかすめる。幸い街から南側は脇道もあり走りやすかった。

その日の午後はエフェソ人への手紙の町であるトルコでも屈指の遺跡を見物。2階建ての図書館の入口や劇場などが、よい状態で残されている。水洗便所もある。日本では弥生式土器を作っていたころこんな文明があったとは驚きだが、さすがに観光客がすごい数でうんざり。自分だってその一員だけど、多くの観光客はこういう観光地しか行かず、あとはバスでの移動。旅行者にほとんど会うことがない田舎の人や、そんな場所の自然に触れることのできる自転車はいいなとつくづく思う。

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パウロが説教したといわれるエフェソ遺跡の円形劇場

その日の夕方宿を探していると、カーペット屋さんから声をかけられ、日本が好きだからぜひ泊まっていけという。日本人でラッキーだと思ったのが間違いだったか・・・。食事もご馳走してもらったが、その夜「日本人は好きだからうんと安くしとくよ。いくらなら買う?」。こちらは買う気がないから、半額以下の値を言ったのに結局「じゃその値段でいいよ」と言われ、カーペットを売りつけられてしまった。本当に親切で安くしてくれたのか、実はふっかけられていたのか釈然としない。

その後、水に溶けた石灰岩が段々畑のように固まったパムッカレへ。ただ当時は整備のため水が溜っていなくて拍子抜け。その後トルコで最高にきれいなコースだという、地中海沿岸を見たくなった。ただしこのアナトリア高原の登り下りを全行程走る時間はないので、バスを使うことにする。バスは安く国内全土にくまなく走り便利だ。会社によっては、自転車をただで乗せてくれるところもあるようだ。地中海へ出てから再出発。

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地中海を見ながら走るトルコ南部

地図によるとアップダウンがありそうなのは分かったが、予想以上で数百メートル上がっては、再び海岸の町まで下がることも。のんびり楽しんでとはいかないが、海が見えるとその景色は美しい。お勧めのコースだけのことはある。遺跡も多く、パウロが立ち寄ったミラやサンタクロースのモデルになった聖ニコラスの教会もある。

アンタルヤ近郊でもパウロが伝道したペルゲの遺跡を見て、バスで再びアナトリア高原へ戻る。この辺りは湖水地方と呼ばれ、いい景色の中を東へ向かう。途中ピシディアのアンティオケアやコンヤといったやはりパウロが伝道した場所に寄ってみる。ピシディアのアンティオケアにはパウロが説教をした教会の跡があるが、イスラム教の国だからかまるっきりほったらかしという感じだった。その後畑が続き荒涼とした土地を越えて、カパドキア到着。クリスチャンが隠れて住んでいたという何層にも掘られた地下都市が印象的だ。そしてニョキニョキとキノコ型の岩が林立するカパドキアを走って周る。

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パウロが説教したピシディアのアンティオキアの教会跡
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カパドキア、デリンクユ村の地下都市内の礼拝堂跡
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カパドキアのキノコのような岩

最後の日の夕方、街で、日本語で話し掛けられた。そういう人間はこちらを金づると見ていることが多いので警戒するのだが、彼らは日本語専攻の学生だった。話をするうち家に泊めてもらうことになり、語り合うことができた。トルコの人たちは本当に日本に親しみを持っている人が多いが、僕らはどのくらいこの国のことを知っているだろう。また彼らは熱心なムスリムだった。イスラム教とキリスト教はもちろん同じ神を信じている。だから僕らは、本当はずいぶん近い仲間であるはずで、米国の同時多発テロ後のアフガン空爆などがあって間もないころ、宗教間で争いがあるのはとても悲しいことだと思った。僕は「宗教」であるキリスト教ではなく、イエス・キリストという方を知ってほしい。彼らにその話をできたのは幸いだと思った。

そして、こんな風に個人個人の交流を通してお互いを理解しあえる機会が、多くの人に与えられたらいいと思わされた。

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木下滋雄

木下滋雄(きのした・しげお)

1964年横浜生まれ。フォト・サイクリスト。高校時代に自転車旅行と写真を開始し、30歳で五大陸走破を達成。これまでに23回の海外遠征で50カ国延べ5万9千キロを走破している。現在はパラグライダーも楽しむ。ぺトラ建築設計一級建築士事務所主宰。

木下滋雄の1986年以降の自転車ツーリングの記録から

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