神声人語―御言葉は異文化を超えて―(44)2人のアイマラ語聖書翻訳 浜島敏

2018年4月16日06時04分 コラムニスト : 浜島敏 印刷
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翻訳者は普通1人で仕事を進めます。しかし、グレゴリオ・チョケとフスティノ・チスペの2人は一緒に働いて、聖書翻訳の上では最高の協力者となりました。

ペルーとボリビアの高地に住んでいる約百万人の先住民に話されているアイマラ語に福音書と使徒言行録が翻訳されたのは、その数年前のことでした。しかし、この初期の翻訳にはどうしても改訂が必要でした。また急速に増えているクリスチャンのためには、新約聖書の他の部分の翻訳も必要になっていました。

ボリビア人と宣教師で翻訳委員会が組織されました。しかし、その委員はほとんど首都ラパスに住んでおり、しかも忙しい人たちでした。委員たちがよく知っていたのは、だらだらと広がっている首都の先住民地区で話されている「訛(なま)った」アイマラ語であって、木も生えず、風にさらされた平原のあちこちにある無数の村に住んでいる先住民たちの言葉にはあまり関心がなさそうでした。グレゴリオとフスティノは、いい加減で不正確な翻訳をすることに反対したのですが、他の委員たちは2人の反対にはあまり耳を貸しませんでした。

グレゴリオとフスティノから聖書協会に戻ってきた校正ゲラには(他の委員は忙しくてそんなことにはかまっていられませんでした)、つづり、語順、そして語の使い方について600カ所もの訂正が入っていました。明らかに何かがおかしいのです。グレゴリオとフスティノの2人はがっかりしてしまいました。そんなにたくさんの変更はしたくないのですが、特にひどい間違いを直すだけでもこれだけが必要なのです。

もとの翻訳は、ほとんどスペイン語の逐語訳でした。しかし、スペイン語と違ってアイマラ語の文章では、文尾に動詞が来るのが正しいことはよく分かっていました。ぎこちない逐語訳のために、ガタハタ教会のシスコ老人のように聖書朗読の間は寝ていたのです。正直に彼は言います、「さあね、どのみち何を言ってるのか分からんからね」。

しかし、やっとすべてが変わるチャンスがやってきました。グレゴリオとフスティノの2人が責任を持って、それまでアイマラ人が話したり書いたりしてきた通りに語や節や文章を書くようにとの指示を受けました。書いてある内容はスペイン語の(2人はスペイン語も分かりました)内容と同じでなければなりませんが、言葉そのものはどこから見てもアイマラ人の母語と言えるようなものでなければなりません。

グレゴリオとフスティノは学校の先生であり、世界で最も高いところにある航海可能な湖であるチチカカ湖の湖畔にあるガタハタ教会の信徒リーダーでした。何年も前に、あるイタリア人の富豪がここを旅行していたとき、広大な高地に住んでいる先住民を見たのでした。彼らが経済的に奴隷状態になって悲惨な暮らしをしているのを見て心を動かされ、ボリビア政府に多額の資金を託しておりました。だれか責任ある団体が農地を買い、彼らを解放し、自由人として生活できるチャンスを与えてくれるようにとの願いからです。

ついにカナダ・バプテスト・ミッションがその役割を引き受け、ガタハタの風雨に浸食され荒れ果てた土地を買い上げました。間もなく、葦の生い茂った湖岸に沿って身を寄せ合って住んでいる村々に学校が建てられ、診療所が働きを始め、農業が改良され、人々は何世代にもわたる借金から解放され、良きおとずれが伝えられたのです。

グレゴリオ・チョケとフスティノ・チスペは宣教師の開いた学校を卒業し、近くの村々で教師の仕事に就きました。鋭い知性と、親切な心の持ち主で、分別ある指導力を持った2人は、学校においても教会においても群を抜いていました。2人は他の仕事をしなくていいので、新約聖書の改訂にすべてを尽くすように言われました。

来る日も来る日も机の両側に向かいあって座り、グレゴリオが原稿を読むとフスティノがスペイン語をチェックするといった具合です。その後で、語句の言い回しについて話し合うのです。語順はこれでいいだろうか。この代名詞で話し手と聞き手がはっきりしているだろうか。もししていなかったら、意味をはっきりさせるために代名詞の代りに名詞を使わなければならない。湖の反対側のペルーの人にもこの言葉は分かるだろうか、それともこの形はボリビア側のアイマラ人にしか使われないのか。

こういった問いを一つ一つ取り上げて、それを解決していかなければなりませんでした。その地域の説教者であるモデスト・アリアガ牧師に何回も尋ねたり、技術的な細かいことや意味のちょっとした違いについては宣教師たちの助けを求めたりしました。

何カ月もの骨の折れる綿密な仕事が終わり、訳稿を送りましたが、これはアイマラ人の言葉で書かれているというのはもちろんのこと、句読点からつづりの細部に至るまで、米国聖書協会が受け取った原稿としては最高のものでした。原稿と一緒に一通の手紙が入っており、それには自分たちの言葉への新約聖書改訂という仕事をすることができた特権を神に感謝すると書かれてありました。

これは愛の奉仕であり、また感謝の気持ちからなされたことで、フスティノが「良きおとずれが私たちのところにやって来ました。まるでイエス・キリストが私たちの村に住んでいるみたいです」と分かりやすく述べていることで証明されています。

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【書籍紹介】
ユージン・ナイダ著『神声人語―御言葉は異文化を超えて
訳者:繁尾久・郡司利男 改訂増補者:浜島敏

ユージン・ナイダ著『神声人語―御言葉は異文化を超えて』

世界の人里離れた地域で聖書翻訳を行っている宣教師たちと一緒に仕事をすることになって、何百という言語に聖書を翻訳するという素晴らしい側面を学ぶまたとない機会に恵まれました。世界の70カ国を越える国々を訪れ、150語以上の言語についてのさまざまな問題点を教えられました。その間、私たち夫婦はこれらの感動的な仕事の技術的な面や、人の興味をそそるような事柄について、詳細なメモを取りました。

宣教師たちは、未知の言語の文字を作り、文法書や辞書を書き、それらの言語という道具を使って神の言葉のメッセージを伝えるのです。私たちは、この本を準備するに当たって、これらの宣教師の戦略の扉を開くことで、私たちが受けたわくわくするような霊的な恵みを他の人たちにもお分かちしたいという願いを持ちました。本書に上げられているたくさんの資料を提供してくださった多くの宣教師の皆さんに心から感謝いたします。これらの方々は、一緒に仕事をしておられる同労者を除いてはほとんど知られることはないでしょう。また、それらの言語で神の言葉を備え、有効な伝道活動の基礎を作ったことにより、その土地に住む人々に素晴らしい宝を与えられたことになります。その人たちは、彼らの尊い仕事を決して忘れることはないでしょう。

本書は説教やレッスンのための教材として役立つ資料を豊富に備えていますが、その目的で牧師や日曜学校教師だけのために書かれたものではありません。クリスチャン生活のこれまで知らなかった領域を知りたいと思っておられる一般クリスチャンへの入門書ともなっています。読者の便宜に資するために3種類の索引をつけました。①聖句索引、本書に引用されている聖書箇所を聖書の順に並べました、②言語索引、これらのほとんど知られていない言語の地理上の説明も加えました、③総索引、題目と聖書の表現のリストを上げました。

ユージン・ナイダ

浜島敏

浜島敏(はまじま・びん)

1937年、愛知県に生まれる。明治学院大学、同大学院修了。1968年4月、四国学院大学赴任。2004年3月同大学定年退職。現在、四国学院大学名誉教授。専攻は英語学、聖書翻訳研究。1974、5年には、英国内外聖書協会、大英図書館など、1995、6年にはロンドン大学、ヘブライ大学などにおいて資料収集と研究。2006年、日本聖書協会より、聖書事業功労者受賞。2014年7~9月、ロンドン日本語教会短期奉仕。神学博士。なお、聖書収集家として(現在約800点所蔵)、過去数回にわたり聖書展示会を行う。国際ギデオン協会会員。日本景教研究会会員。聖書の歴史、聖書翻訳に関する著書・翻訳書、論文多数。

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