2016年9月、ダフニ港へ到着し、いつものように大きなバスに乗り、首都カリエを目指した。
この時期は夏ともあって巡礼者の数も多く、カリエの街のあちらこちらで、バスを待つ巡礼者たちがワイワイと賑やかに話し、声がやむことがないくらいだ。
とりあえず、いつものようにカリエから徒歩10分のクトゥルムシウー修道院に向かい、今晩は泊まらせてもらうことに決めた。この修道院も徐々に整備がなされ、修道院の外には新たな宿坊が完成されていた。
初めてその部屋を借りたのだが、清潔でとても快適に過ごせた。ただ、修道院の外のためシマンドロ(板木)を聞き逃す可能性があり、注意しなくてはならないのが難点である。
翌朝、祈りを終え、我々は再びあのメギスティス・ラヴラ修道院を目指した。カリエでミニバンに乗り込み、10数人はいただろうか、いつものように向かった。エーゲ海を左に見ながら、クネクネ、ガタガタと道は進む。
すると、上り坂の途中、運転手が何やら、急に停まった。運転席の窓から身を乗り出し、後ろに目をやった。すると、「Oh, No!」と・・・。そう、後ろのタイヤがパンクしたのであった。
我々を含む乗客は全員降ろされ、運転手が作業をするから数分待ってくれとのことだった。当然乗客から、暑いだの、急いでくれなど文句を言う人が現れるものだと思った。しかしながら、そのような人は誰もいなく、みな静かに、いや賑やかにただ待つのであった。
私にとっても、バスをチャーターしない限り、このような道で停車して撮影をすることができないため、絶好のチャンスなのであった。雄大なアトス山を背に、パンク姿も何か絵になる。
慣れた手つきでパンクの修理を始め、ものの10分でスペアタイヤに交換し、何事も無かったかのようにバスは出発したのであった。
数分後、ラヴラ修道院へ到着。ここへ来ると、不思議な感覚に陥る。現実なのか、過去なのか、未来なのか、地球上なのか・・・と、以前もお話しさせていただいたが、今回もまたそうだ。
ここは、アトス半島の東端に位置し、一番古く、遠い修道院である。外のテラスには、のんびりと猫が過ごす。なんだか気持ちよさそうに伸びをして、カメラに目を向ける。
昼間は、馬も修道院の中を自由に歩き回り、花と戯れる。
いつものようにあの働き者のM司祭もいた。シマンドロを叩き、祈りの時を告げる。叩きながらも私に気付き、優しい目で頷(うなず)いてくれた。そして、いつものように祈りが始まる。
晩の祈りが始まる前、巡礼者たちは扉が開くまで、おしゃべりをして待つ。ガヤガヤとその声は決して鳴りやむことはない。
朝の祈りでは、修道士、巡礼者たちによっては外で祈る者、海の前に出て祈る者もおり、聖堂でなくても祈る場所はどこでも許されている。
誰もがみな個人に任され、ここで過ごしていることが分かる。ここの祈りの場とは、やはり、強制、苦行などという言葉は1つも見つからず、神と一対一、つまり、自分と神との関係のみで自らを考える場なのかもしれない。そんなことにいつも気付かされるのである。
ある修道士は聖堂の外で、聖堂内の至聖所に向かって十字を切る前、目をつむり続ける。彼は何を思っているのだろうか。
ここへ来るとのんびりと、自分のこと、人のこと・・・。いろいろなことを考える時間が増えていることに気付く。ラヴラは、私にとって自分の過去、未来を深く考えさせてくれる場所なのである。
次回予告(8月19日配信予定)
ヴァトペディ修道院を目指します。
写真展情報
9月7日(木)より、キヤノンギャラリー銀座にて、中西裕人写真展「記憶〜祈りのとき」を開催します。2015年7月に開催した「Stavros アトスの修道士」の続編となります。ぜひお越しください!
<会期>
キヤノンギャラリー銀座 9月7日~13日
10:30~18:30(最終日15:00まで)日、祝休館
キヤノンギャラリー名古屋 9月28日~10月4日
10:00~18:00(最終日15:00まで)日、祝休館
キヤノンギャラリー福岡 10月12日~24日
10:00~18:00 土、日、祝休館
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