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わが人生と味の道

わが人生と味の道(27)息子の留学 荘明義

2016年3月24日23時05分 コラムニスト : 荘明義
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関連タグ:荘明義

息子の留学

再び、話は子どものことに戻ります。息子の義光はある時、学校で同級の女の子――商売をしている家の子と聞きましたが――と仲良くなりました。彼女はいつも自分一人で勉強し、食事をし、家ではいつも一人ぼっちなので、息子はその子がかわいそうで一緒に勉強をしたり、一緒にお昼を食べたりしてあげていました。

そのうちに親密になってくると、彼は勉強もおろそかになり、遊びが中心になってしまったので、成績が落ちてしまいました。それを心配した妻は、私に相談をしてきました。

「あなた、あの子に言いきかせてやってくださいな」。そこで私は、以前のように叱ったり怒鳴ったりすることは二度とすまいと心に決めていたので、息子を呼んで話し合うことにしました。私は彼にこう言いました。

「ガールフレンドができて、君の成績は以前は前から何番目と数えられたけど、今は後ろから何番目――というようになってしまった。このままではとても心配なので、これから三つの方法を言うからどれか選択しなさい。一つは、彼女を諦めて一生懸命に勉強すること。もう一つは、学校をやめてお父さんのようにコックの修業をすること。最後は、この場を離れて海外に行き、勉強を一からやり直すこと。このどれかを選びなさい」

そうして、私は彼とゆっくり話し合って時間を与え、決断を待ちました。やがて息子は、自分で考えて結論を出しました。ここで彼女を諦めることは難しい。かと言って、苦労してコックになることも自分としてはあまり望んでいない。残る道として、自分は留学をし、もう一度勉強をやり直してみたい。――ということでした。

この結論に対し、私は息子の意志を尊重し、すぐに弟と連絡をとって、彼をカナダに送ることにしたのです。

カナダに行った息子は、最初は勉強が得意でなかったのですが、次第に環境に慣れ、やがて一生懸命に勉強するようになりました。弟は気を使って、「英語の教会ではついていくのが大変でしょう」と、日本語で礼拝している教会に息子を案内しました。

その日本語の教会には日本から行った同じくらいの年頃の女の子がいました。息子は寂しさもあったのでしょうし、また話し相手も必要だったのでしょう。彼女と仲良くなりました。その時、弟は彼に言いました。

「君はカナダにガールフレンドを探しに来たのかい? それとも、勉強をしに来たのかい? 成績が落ち着くまでは、私があなたのお父さんだからね。彼女のことはきっぱりと諦めて勉強に専念しなさい」。この弟の言葉を受け入れた息子は、バリバリ勉強を始め、やる気が出てきたようでした。

カナダに息子を送って3カ月後に、私は息子を訪ねました。今まであまりコミュニケーションがなかったので、どのような言葉を掛けたらいいのか分かりませんでしたが、何と息子は私の手を引っ張るようにして、同級生に、先生に、そしていろいろな人に私を紹介してくれたのです。私はカナダに10日間滞在したのですが、その間、息子とのコミュニケーションは今まで考えられないほど改善されていきました。

そして私がカナダを離れる前の夜、息子はイエス様の子どもとして主を受け入れ、信仰告白をしたのでした。その時、私は息子と抱き合って泣きました。今まですぐそばにいたのに、一つ屋根の下で生活していたのに、私は子どもの心が分からなかった。コミュニケーションができなかった。

それなのに、こんなに遠いカナダに来て、今このように交わりをし、神を受け入れて立派に成長した息子を見ることができたのでした。子どもが自分のところに帰ってきたという思いでいっぱいでした。本当に私は、もう何も必要ではないと思いました。

息子はカナダに行って大きく成長しました。日本にいたときには互いに何を考えているのか分からなかったのですが、遠く離れ、3カ月後に一緒に生活する中で、互いの心が通じ合い、心から会話ができるようになったのです。

カナダに行くという目的は、学校の成績が良くなく、ずいぶんと気をもんだガールフレンドの件もあり、またそれより前に警察の世話にもなったという親としてはずいぶん苦しい中にあったのですが、振り返ってみたとき、すでに神は一つのことを通して信仰をもってご自身の前に立ち帰ることを準備なさっていたのでした。

息子が私と抱き合い、涙のうちに神を受け入れ、信仰の道に入っていった――その中に神の素晴らしい備えを感謝します。

息子はまたカナダで勉強し、10日後に私は日本に戻ることになりました。戻ってからは、手紙や電話でコミュニケーションはずいぶん増え、そして互いに理解し合え、何でも話し合えるという素晴らしい親子に変えられたのでした。

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◇

荘明義

荘明義

(そう・あきよし)

1944年中国・貴州省生まれ。4歳のときに来日、14歳で中華料理の世界に入り、四川料理の大家である故・陳建民氏に師事、その3番弟子。田村町四川飯店で修行、16歳で六本木四川飯店副料理長、17歳で横浜・重慶飯店の料理長となる。33歳で大龍門の総料理長となり、中華冷凍食品の開発に従事、35歳の時に(有)荘味道開発研究所設立、39歳で中華冷凍食品メーカー(株)大龍専務取締役、その後68歳で商品開発と味作りのコンサルタント、他に料理学校の講師、テレビや雑誌などのメディアに登場して中華料理の普及に努めてきた。神奈川・横浜華僑基督教会長老。著書に『わが人生と味の道』(イーグレープ)。

■ 横浜華僑キリスト教会ホームページ
■ 【荘明義著書】(Amazon)
■ 【荘明義著書】(イーグレープ)

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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