【映画レビュー】『パラダイス:神』―キリストとは? 夫婦とは? ブラックな戯画表現のヴェネチア映画祭受賞作

2014年2月24日10時47分 執筆者 : 高嶺はる 印刷
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自宅の祈り会で「我が国をカトリック国に戻します」と声を合わせる場面 (C) Vienna2012 | Ulrich Seidl Film Produktion | Tatfilm | Parisienne de Production | ARTE France Cinema

きれいごとではない。信仰と人間性とをシビアに問い詰めてくる。

「パラダイス」と冠された3部作「愛」「神」「希望」のうちの2作目だ。カンヌ、ヴェネチア、ベルリンの映画祭に3作連続で選出されて話題になった。「神」はヴェネチア審査員特別賞を受賞している。

ウィーン郊外の家で一人暮らしをするアンナ・マリア。十字架と救い主の聖画がある部屋で、彼女が祈る場面から物語は始まる。「性欲に憑かれた人たちをお救いください」。我が身を何度も鞭で打ち、神の前にゆるしを乞うのが日課だ。

病院のレントゲン技師であるアンナ・マリアの忙しい一日が描写され、翌日から2週間の夏休みを取ることが知らされる。その休暇の過ごし方は並ではない。マリア像を胸に抱いて「聖母さまのご訪問ですよ」と家々のドアを叩くのだ。貧しい移民家庭が多い。拒絶されながらも、時には一緒に祈れることもある。

聖母の名のもと、布教に励む毎日は、彼女にとってはパラダイスだが、平穏な生活は、ムスリム移民である夫の帰還によって破られる。事故で半身麻痺となっていた彼は2年ぶりに家に戻り、妻の変容ぶりに驚く。アンナ・マリアは、夫の事故で信仰を取り戻せたのだと言う。

彼女の姿は、敬虔なようで表面的。過剰で的外れだ。聖母の愛を熱く語りながら、自らが選んだ夫に対する愛情表現は乏しい。神への感謝を表明しながら、本当は満たされていないからなのだろう。愛の渇きを「信仰という道具」で満たそうとしているかのようだ。

象徴的なのが彼女の職業だ。彼女は仕事場で多くの患者にレントゲン撮影の「正しい姿勢」を指示する。「こちら側を向いて」「息を吸って」「動かないで」。彼女の訪問伝道の様子も、実際そのようなものなのだ。禁欲の大切さを説く彼女の体型に、節制の成果は見られない。揺れるぜい肉、たるんだ皮膚は、彼女が不要なものを捨て切れず、重要な本質を選び取れていないことを暗喩する。

やがて彼女は、理解し合えない夫に疲れ果て、彼を日常から排除しようとしていく。パラダイスは崩れ、異なる姿勢で十字架と向き合うことが迫られる。

いくつもの極論や問いかけを、戯画として提示している。劇薬にも似たメッセージで、一部の人には宗教アレルギーを引き起こしかねない。苦い薬を良薬とする覚悟で観ていただきたい。人間性の醜さのその先に、不思議な美しさも垣間見える。(ライター・高嶺はる)

■ 『パラダイス』(愛 / 神 / 希望 3部作)
日本公式サイト:http://www.paradise3.jp
オーストリア映画・R15+・113分
東京・渋谷ユーロスぺースで公開中、全国で順次上映

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