英国のウェールズ聖公会の首座主教であるウェールズ大主教に、レズビアンであることを公言している女性主教が選出されたことを巡り、支持者からは歓迎の声が上がる一方、保守派からは強い批判の声が上がっている。
第15代ウェールズ大主教に選出されたのは、モンマス教区のチェリー・バン主教(66)。バン主教は2015年以来、ウェンディー・ダイアモンドさんとシビルパートナーシップ(法的に承認された同性カップル)の関係にある。バン主教は7月30日に行われた投票で、3分の2以上の賛成を得て選出された。
これに対し、保守派で構成される世界聖公会未来会議(GAFCON)の首座主教会議議長を務めるローラン・ムバンダ大主教(ルワンダ聖公会首座主教)は声明(英語)で、バン主教の選出は「背教行為」であり「指導層の失敗」だと非難。「キリストの尊い教会に、あからさまに不道徳を押し付ける聖公会の修正主義者たちの絶え間ない圧力に立ち向かわなければならない」と述べた。
「愛する聖公会共同体において、嘆かわしい出来事が起こったことを、重い心を抱きながらお伝えします。ウェールズ聖公会がチェリー・バン主教を大主教・首座主教に選出した決定は、聖公会の正統性にとどめを刺すもう一つの痛ましいくぎです」
「この選挙と彼女(バン主教)の不道徳な同性関係を祝うことにより、聖公会の共同体は再び世俗の圧力に屈し、神の良き御言葉を歪めました。聖書は『神の真理を偽りに替え』(ローマ1:25)た者たちについて明確に語っています」
ムバンダ大主教はそう述べ、「私たちは人間の性的在り方について、栄光あふれ、権威ある神の言葉を損なう深刻な誤りに立ち向かわなければなりません。声を上げ、立ち向かわなければならないのです」と訴えた。
グローバルサウス聖公会交友会(GSFA)の議長を務めるジャスティン・バディ・アラマ大主教(南スーダン聖公会首座主教)も、声明(英語)を発表し、今回の選出を批判した。
アラマ大主教は、2003年に米国聖公会が同性愛者であることを公言していたジーン・ロビンソン司祭(当時)を主教に叙任する手続きを進めていた際、そのまま手続きが進めば聖公会内に深い分裂を招くと警告する声があったことを指摘。それにもかかわらず、「結婚と人間の性倫理に関する歴史的・聖書的・聖公会的教えを分裂的に拒むことが、何の有効な抑制もなく続いています」と嘆いた。
その上で、「グローバルサウスの忠実な聖公会信者は、愛する共同組織の結束が最上位のレベルで裂けてしまったことを悲しむでしょう。しかし同時に、私たちは聖書を共同生活の中心に据え直し、互いを宣教のパートナー、そして唯一の、聖なる、公同の、使徒的教会の一員として喜んで認め合えるような契約関係を築いていこうという決意を、さらに強めることになるでしょう」と述べた。
この他、ナイジェリア聖公会首座主教のヘンリー・ヌドゥクバ大主教も、選出を批判する声明(英語)を発表。エジプトを中心に北アフリカの6カ国を管轄するアレクサンドリア聖公会首座主教のサミー・ファウジー・シェハタ大主教も、選出は「聖書の教えを公に拒絶するもの」だとする声明(英語)を発表している。
また、聖公会を中心に長老派やメソジスト派などが合同して設立されたパキスタン教会は、「深い懸念と悲しみ」を表明する公開書簡(英語)を、全聖公会中央協議会(ACC)のアンソニー・ポゴ総主事宛てに送るなどしている。
バン主教は1958年、英イングランド中部レスターシャー州生まれ。英国国教会が初めて女性司祭を叙任した94年に、その一人として司祭に叙任された。その後、英国国教会で長年牧会し、2020年にウェールズ聖公会のモンマス主教に就任。その際、長年隠してきた同性のパートナー、ウェンディー・ダイアモンドさんとシビルパートナーシップの関係にあることを初めて公にした。
バン主教の大主教叙任式は、モンマス教区の主教座聖堂であるニューポート大聖堂で年内に行われる予定。
バン主教の大主教選出は、アンディ・ジョン前大主教の辞任に伴うもの。ジョン前大主教を巡っては、自身が管轄するバンガー教区の首座大聖堂であるバンガー大聖堂内で、過度の飲酒や不適切な言動、屈辱的な冗談、また「性的な境界線が曖昧で、一部の人には乱交が容認されているような文化」が存在したことが、調査(英語)で明らかになり、6月末に即時辞任を表明。兼任していたバンガー主教についても、8月末での辞任を表明していた。