通常、世界宣教のフィールドでは、未伝道者を地理的な制約の中で考えがちだが、世界の聴覚障がい者(ろう者)に福音が届いていない現状を鑑みるなら、未伝道者は遠くの国にいる誰かだけではない。世界には約7千万人のろう者が存在するが、そのうちごく一部しか福音に触れられないという厳しい現実がある。
そう語るのは、ろう者伝道に取り組むドアー・インターナショナルのロブ・マイヤーズ氏だ。「ろう者の多くが街角の説教者の声や空襲警報の音、鳥のさえずり、何よりも神の声を体で聞くことができないのです」とマイヤーズ氏は述べる。
こうした人々は、必ずしも地理的に隔絶されているわけではない。しかし彼らの「聞こえない」生活は、彼らを霊的に孤立させるだけではなく、「神から価値ある存在として見られている」というメッセージが届かないことにもつながっているのだ。
聖書の出エジプト記4章10〜12節を読むと、話すことがうまくできないモーセは、それを理由に神の使命に対して消極的であったことが分かる。しかし神は「人に口をつけたのはだれか。だれが口をきけなくし、耳をふさぎ、目を開け、また閉ざすのか」と、全ての主権がご自身にあることを力強く告げ、自らがモーセの口とともにあり、語るべきことを教えると約束された。
これは、身体的な障がいや不足が、神の使命を拒む理由にならないことを示しており、ろう者も神の王国の一員として召されており、神の栄光のために用いられるべき存在だと、マイヤーズ氏は強調する。
では、このギャップをどう埋めるのか。マイヤーズ氏は、教会や信徒に3つの実践的ステップを提案している。1)意識を広げること。つまり、ろう者が福音の大きな受け取り手であり、今なおアウトリーチから排除されてきた歴史を知ることである。2)ろう者コミュニティーと共に歩むこと。ろう者リーダーを支え、共に教会づくりや福音伝道を進めることだ。3)身近な他者へ伝える。SNSや自身の人間関係でこの問題を周知し、実際に「200人に1人はろう者」であるといわれるが、自分の周囲にもそのような人々がいるであろうという認識を持つことである。
さらに、キリストの生涯が示したように「障がいや病、さまざまな理由で社会的弱者となっている者、周縁化されている者」を求め、そこに愛をもって近づく姿勢は、教会のアウトリーチのモデルとなる。
ドアー・インターナショナルは、ろう者家庭に聖書を届ける活動や、ろう者の福音伝道リーダーを育てる研修を世界各地で実施しており、特にアジア・アフリカ・南米では、手話による福音伝道やろう者教会設立が進展している。こうした取り組みに関心を持つことが、国境を超えて協力関係を結ぶ活動の第一歩となるのだ。
ろう者という、ややもすると「障がい者」というくくりの中で見られがちな人々だが、神はそのような人々も必要とされ、使命を与えられる。ろう者リーダーたちは「聞こえない世界」に神の福音を届ける責任と使命を受けているのだ。彼らが沈黙の壁を越えて福音の声を響かせることができるよう、祈っていただきたい。
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