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ケーテ・コルヴィッツの生涯

労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(22)暴虐に対抗して

2022年12月16日09時42分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
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労働者の母―ケーテ・コルヴィッツの生涯(1)ふみにじられたもの+
ケーテ・コルヴィッツ(1867〜1945、写真:Philipp Kester)

1934年。ケーテは戦場で失われた多くの命に対して、またナチスの暴虐の犠牲となった多くの人々に哀悼の気持ちを込めて、連作版画『死』を制作した。これは、<子どもをとらえる死><死のおとずれ><死の手をとる女>という3部の構成になっている。この作品が完成し、アカデミーに出展して間もなく、ナチスの党本部から呼び出しを受けた。

面会したのは、ナチス親衛隊長ハンフシュティングルだった。彼はナチスの広報紙「黒色兵団」を広げて見せた。それは毒々しい深紅の地に黒いカギ十字の旗を背にして立つ、ヒットラーの姿が表紙になっていた。ページをめくると、ケーテ・コルヴィッツなる版画家が出展した石版画はその内容において政府の方針に反するもので、好ましくないとの論説が載せられていた。そして、ハンフシュティングルは言った。

「コルヴィッツさん、わが党首アドルフ・ヒットラーはもともと絵画に興味がおありで、外国の画廊から多くの絵を買い入れておられます。そして、ドイツでも世界にひけをとらない水準の高さを誇れるように芸術家を保護する法案を出されました」

そして、咳払いすると、続けた。「それで、党首はあなたにも他のドイツ人の芸術家たちと同様に党の恩恵を受けさせることを決められました。それには一つの条件があるのです」

彼とケーテの視線はしばらく絡み合っていた。「コルヴィッツさん、条件というのは、あなたがナチスの政党に入党なさることです。ナチス党員となることによって、あなたは永久的にヒットラー党首の庇護(ひご)が受けられるんですよ」

「お断りします」。ケーテは、きっぱりと答えた。「逮捕するならしてください。私は恐れません。私は党首ヒットラーの統率力を高く評価しますし、ナチス政権に対して何ら抵抗する意志もありません。でも、党員になることはお断りします。なぜなら、ナチス政権がはこの国だけでなく海外の貧しい国、弱い民族に対して何をやっているか知ったからです。私はこの国を強くすることならどんなことでもしますが、貧しい者、弱い立場の者に対して暴虐を行っていることは許せません。絶対に許せません」

ハンフシュティングルは、信じられないというように目を大きく見開いた。「なぜ? あなたがそのとんでもない回答を口にする由来は一体何なのです?」

「それは――私が彼らの母だからです。彼らを守らなくてはならないからです」

ハンフシュティングルは、病人を見るような目でケーテを見た。「今日のところは帰ってよろしい。でも、あなたが言われたことは党首に対する反逆です。追って党から沙汰があると思うので、自宅でお待ちください」

それから1週間後。党本部から通知が届いた。それは、逮捕状よりなお大きな打撃を与えるものだった。手紙には入党を拒んだため、今後彼女に対し、一切の制作活動を禁止するとの命令がしたためられてあった。今やケーテは翼を切られた鳥同然となった。

ケーテ・コルヴィッツが政府から謹慎処分を受けたことが新聞その他の報道機関で報じられると、美術展に展示されている彼女のあらゆる作品は全て取り除かれた。そして、アカデミーの会員たちは同情したが、その後彼女との交流を全て断ってしまった。

そんなある日。ギュストロフに住むバルラッハという彫刻家が彼女を慰めるために、自宅の地下室に展示している作品を見せてくれた。それは『マクデブルクの戦争記念碑』という素晴らしい作品だった。彼はユダヤ人であるためにナチス政権により圧迫され、一時的に強制収容所に送られた。その後解放されたが、すでに身も心も病んでボロボロになっていた彼は1936年10月24日、ロストックの病院でその生涯を閉じた。彼の遺体はギュストロフの教会に運ばれ、あのシュヴァルツコップ牧師の手で葬儀が行われた。

ナチス勢力の海外への拡大によって、連合軍との戦いは激しさを増してきた。本営からの命令で、またしても若者たちは次々と戦場に駆り出されていった。悲劇はコルヴィッツ家にもやってきた。ハンスとオッティリエの大切な一粒種であるペーターも戦場に行くことになったのである。

「では行ってきます。おばあさん」。涙を見せまいとして顔を背けながら、ケーテにあいさつをしに来たこの孫は出征し、二度と戻ってくることはなかった。彼の乗った魚雷艇が空爆により撃沈されたのである。

*

<あとがき>

ケーテはある日、ナチスの党本部から呼び出しを受けます。党首のヒットラーはドイツ国内の芸術家を多数庇護しているので、ケーテがナチスに入党すれば、一生涯その活動は政府によって守られるという申し入れでした。

芸術家にとってその国の為政者からの後ろ盾があることは心強いものですが、ケーテはきっぱりとこの申し出を断ります。その理由として、彼女はナチスが国外、国内で行っている弱者に対する暴虐行為を指摘して言います、「私はこの国を強くすることならどんなことでもしますが、貧しい者、弱い立場の者に対して暴虐を行っていることは許せません」と。

入党を拒んだケーテは、以後一切の制作活動を禁止せよとの謹慎処分を受けることになりました。ナチスの旗印の「カギ十字」は十字架をもとにデザインされており「反キリスト」を意味するものだと言った人がおりました。これは最も小さい者を大切にするキリストの教えに対抗するものであり、彼らの宣戦布告なのであります。

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◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝のWeb連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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