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小菊時計

小菊時計(6)帰還 星野ひかり

2022年10月13日22時20分 コラムニスト : 星野ひかり
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小菊時計 星野ひかり+

「わたしは、ねたむ神である」(出エジプト20:5)

主はそのように、ねたむほどに人を愛しておられるといいます。ねたむ、なんて少しかわいらしいですが、そのねたみはかわいらしいに程遠く、恐ろしいものでありました。私は主のねたみの熱さを知りました。主は私の心がご自身に向いていないことを、それはお怒りになりました。それは今でも同じことです。

夜勤明けのほうほうの体で家に帰ると、すぐに風呂場に向かいました。実家のお風呂は昨夜のお湯も捨てられて、きれいに掃除がしてありました。水色のタイル張りのお風呂場は、朝の光が差し込んで、真白く輝いておりました。

新鮮できれいなお湯を張ると、ラベンダーのアロマオイルを垂らします。お風呂場中がラベンダーの甘くほろ苦い香りで満たされます。私は裸になってお湯に身を沈め、そのままずぶずぶと頭まで入ってゆきました。バスタブの底に頭をつけて、水面を見つめました。透明な光がゆらゆらと揺れているのを眺めて、頭を振って長い髪を湯の中に踊らせました。

こんなぜいたくがあるかと思うほど、それは豊かな時間でした。水は神様の愛をふんだんに蓄えて温かく熱せられ、疲れ果てた私の肢体に染み入りました。神様の御手の業のように、冷えて固まった私の体をほぐし、癒やしてくれます。

「神様、ありがとうございます」。私は湯の中で涙を流したかもしれません。水面に小菊の花びらを敷き詰めた小菊時計が浮かび上がり、その針をゆっくりとさかのぼらせてゆくのが見えるようです。こんなふうに安心して、ゆったりとお湯につかれるような暮らしとは無縁だったあの日々が、小菊時計の中に浮かび上がってゆくのです。

*

彼女の家を追い出された私といえば、1回500円のネットカフェのシャワールームも自由には使えなくなっておりました。財布の中のお金を見ると、心もとない額しか残っておらず、不安になるのであまり見ないようにしながら仕事を探しておりました。

長くしていた、詐欺まがいの教材販売のコールセンターでのアルバイトは異様に給料が良かったのですが、彼女とのクスリに興じた日々の中で行く意味が分からなくなり、いつからかさぼり始め、ついには辞めていたのです。

財布の中にはたっぷりお金もありましたし、彼女との生活では全て彼女がお金を払ってくれていたので働く必要もありませんでした。しかし、今じりじりと私は袋小路に追い詰められ、週に2回のシャワールームにもおいそれと手が出なくなっていたのです。

携帯はとうに止まっており、ネットを使って仕事を探し始めました。私はまだ若く、化粧をして肌を露出した服を着れば、街を歩くだけでいろいろなお店のスカウトが次から次へと声をかけてきたものでした。それを思い出して夜の街にふらふらと出てみたところで、誰も声をかけてきません。なぜでしょう。

小さな手鏡を取り出してのぞき込むと・・・何なんでしょう、この顔いっぱいの ‘できもの’ は。私は見るからに不健康そうで、不潔ささえも感じられるほどに、顔にとどまらず手足も赤く膿んだできものに覆われていたのです。

心はじりじりと追い詰められてゆきました。「あと何泊、ネットカフェに泊まれるだろう」。意を決して財布を見ると、もうほとんどお金は残っていませんでした。

私は荷物をまとめると、ネットカフェの延長分の清算を済ませて、街頭に座り込みました。背中の大きく開いた服を着てうずくまる私に、威勢のいい声がかかりました。「お姉ちゃん、何してるの」。その人のほうに顔を向けると、驚いた顔をして逃げてゆきます。

夕陽に染まり始めた都会の空に、カァカァと大きな声で鳴きながらカラスたちが群れを成しておりました。その景色は、涙でにじんできれいでした。カラスさえ食べるものがあり、帰る場所があるというのに、私はどこに向かっていいのかもう分からないのです。

ぐう、とお腹が鳴りました。パン一つ買うお金さえもう残ってはおらず、私の歯の根は震えました。道行く人たちは皆立派な身なりをしているように見えました・・・煌々(こうこう)と明かりを灯して立たずむマンション群・・・ビルの谷間に風が吹き抜け、寒い季節の訪れを知らせています。目が開かれるように私は知りました。‘この世界ではお金がないと死ぬんだ’

私はふらふらと公衆電話を探して歩き始めました。棒のように痩せた足には、もうこの街の公衆電話を歩いて探すだけの力も残っておりませんでした。‘もうダメだ’

その時、小さな公園の隅にある鮮やかな黄緑色の公衆電話が見えたのです。私は救世主を見つけたように公衆電話に駆け寄って、残ったわずかな小銭を入れて、ずいぶん物忘れが激しくなった頭でもなんとか覚えていた実家の番号を、間違えないように押しました。

電話に出たのは母でした。私と分かったとたんに泣きじゃくり「どこにいるの!?」と叫んでいます。私はクスリで回らない頭で、目に映るものを教えました。もうどの街にいるのかも分からなくなっていたのです。目に映るビルの看板の名前を順々に教えている間に、お金が尽きて公衆電話は切れました。

私はへなへなとその場に座り込みました。「分かるわけがない。都会は広いんだ。お母さんはここにたどり着くことはできず、私は死ぬんだろう」そう思いました。うずくまって泣きました。混濁してゆく意識の中で、なぜか日曜学校で教わった ‘放蕩(ほうとう)息子’ の話が鮮明に思い出されました。私の唇は力なくつぶやきました。「父よ、私は天に対しても、あなたに向かっても、罪を犯しました。もうあなたのむすめと呼ばれる資格はありません・・・」そして泣きました。

小さな公園のベンチは一人ずつ座るように区切られており、疲れた体を寝そべらせることもできません。私は銀色の柵にもたれかかり、彼女からもらったクスリをかみ砕き、そのままもうろうとしていきました。何も考えたくなかったのです。

その後のことは、まるで夢の世界の出来事のようでありました。夜闇を切り裂くように母親が私の前に現れ、肌寒い服を着た私の体を暖かなガウンで包み、熱い缶のコーンスープを飲ませ、抱きかかえて車に乗せたのです。母の体のぬくもりが伝わって、‘たとえ地球の裏側にいてもあなたを見つける’ そんな強い決意が母の体からあふれていました。

*

ラベンダーのほのかに香る朝日の差し込む浴室で、そんな情景を見つめていました。水面は光を映してゆらゆらと照り輝いておりました。お湯が冷める前にお風呂から出ると、炊き立てのご飯のいいにおいが香ってきます。焼き魚と納豆とお味噌汁、お母さんの作ってくれた朝ごはんを頬張って、私は自分の部屋でふかふかの布団に包まれて眠るでしょう。

決して世間的に裕福なほうではありませんし、古びた家でありましたが、必要なものは全てここにあり、私は今までのどんな時よりも富んでいるように思いました。その富は、この世の目では決して見ることも計ることもできないものでしょう。

「さあ、早く、最上の着物を出してきてこの子に着せ、指輪を手にはめ、はきものを足にはかせなさい。また、肥えた子牛を引いてきてほふりなさい。食べて楽しもうではないか。このむすこが死んでいたのに生き返り、いなくなっていたのに見つかったのだから」(ルカ15章)

(つづく)

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◇

星野ひかり(ほしの・ひかり)

千葉県在住。2013年、友人の導きで信仰を持つ。2018年4月1日イースターにバプテスマを受け、バプテスト教会に通っている。

■ 星野ひかりフェイスブックページ

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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