【書評】『字幕翻訳虎の巻 聖書を知ると英語も映画も10倍楽しい』

2020年11月10日20時07分 執筆者 : 青木保憲 印刷
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小川政弘著『字幕翻訳虎の巻 聖書を知ると英語も映画も10倍楽しい』(いのちのことば社 / フォレストブックス、2020年11月)

「1粒で2度おいしい」はグリコの宣伝文句だ。しかし本書『字幕翻訳虎の巻 聖書を知ると英語も映画も10倍楽しい』は、「1粒で3度以上のおいしさを保証します!」とでも言うべき「お宝本」である。

著者は、元ワーナー・ブラザーズ映画製作室長の小川政弘氏。前著『字幕に愛を込めて』も映画ファンにはたまらない内容であったが、今回はそこに聖書知識をストレートに持ち込み、しかもそれを英語でどう表現するのか、また英語圏で一般的になったことわざと聖書はどのような連関があるのか、を興味深く展開している。

140ページほどの小品だが、その中身はタイトルにもあるように「10倍楽しい」ものに仕上がっている。

まず何といっても、第2部の「資料編」の情報量の多さは特筆ものである。これは、長年映画字幕に関わってこられた著者だからこそ開陳し得た内容といえるだろう。聖書の各巻名の日本語と英語の対比はよくあるものである。しかしこれは肩慣らしであって、その後が本当にすごい。聖書に登場する人物の日本語表記と英語表記の対比は、長年私たちが待ち望んでいたと言っていい。

例えば、Rachel は英語では「レイチェル」と読むが、日本語では「ラケル」となる。これが「ブレードランナー」シリーズで重要な単語となってくるのだから、この違いを知っているのと知らないのとでは、特に「ブレードランナー2049」の味わい方がまったく変わってしまう(詳しくは、筆者の「ブレードランナー2049」評を参照)。

ハリウッド作品の登場人物の名前がキリストの弟子たちと同じであるのは、やはり聖書に基づいた社会で売れるために、人々がよく見聞きしている名前(ジョン、ポールなど)を意識しているということだろう。そのあたりの趨勢(すうせい)が、この表記と読みの対照表を見比べるとよく分かる。

本書を「3度おいしい」と評した意味は、映画関係の書物として面白いということが前提となっている。「2度おいしい」のは、英語に興味を持っている人が本書を読むことで、聖書と(主に西洋の)映画との関係が、とても近いものであることに気付かされるということである。そして単にヒーローや主人公の「名前」と思っていたものが、実は「名は体を表す」ことになっていたと知るとき、その面白みは倍増するだろう。それは名前の由来として、物語の構成や枠組みをそこはかとなく指し示すことになるからである。例えば、「幸福なラザロ」という映画がある。ご存じのように、ラザロは病気により一度死んだものの、イエス様の呼び掛けに応じてよみがえった人物である。映画には「ラザロ」という名を頂いた少年が登場するため、聖書のラザロを知っているなら、この少年が死ぬ(または不幸のどん底に陥れられる)が、最後によみがえる(または幸福な生涯を送る)ということが予見できる。そういった映画の楽しみ方、そして聖書の適応のさせ方があるのだということを、本書は見事に提示してくれている。

そして「3度おいしい」のは、本書108ページから始まるキリスト教関連の英語表記とその日本訳の対照表である。これは、神学的にも重要な指標である。特に114ページから119ページにかけての各教派内の牧師、司祭らの表記とその読み方の一覧図は、いまだかつてどこにもなかったような「お宝」であろう。子細に見ていくなら、いろんな気付きが与えられること間違いなしである。

そして、筆者が手にした本書を思わず落としてしまいそうになった「最大のおいしさ」は、その後に付されている120ページからの「キリスト教映画リスト」である。ここには、映画のタイトルや監督、主演などの製作情報はもとより、物語がどの教派を扱っているのか、どんな聖書箇所が用いられているのか、聖書に関連するどの人物のことが語られているのかなどが一瞬にして分かるようになっている。

声を大にして言いたい。「こんな一覧表を待っていたんだ!」と。筆者が最も願っていた一覧表が本書には付されているのである。まさに、驚愕の一覧表である。本書はタイトルに偽りなしである。確かに「10倍楽しい」し、グリコを越えて「3度以上おいしい!」といえる素晴らしい資料集である。

映画字幕の製作秘話などは、前著で紹介されていたので、本書はむしろいろんなトリビアを取り上げ、そのような言い回しや考え方をするのはなぜか、そこに聖書がどの程度関わっているのか、また英語で物語られたものを日本人が日本語で理解するときに一体何が難しいのかについて、微に入り細に入り、小川氏の独特の口調と言い回しで解説してくれるのである。

筆者も多くの映画を鑑賞し、その背景にあるクリスチャニティー(キリスト教)の豊かさを実感している者の一人である。小川氏のように、その得意分野で聖書の世界と映画の世界観をつなげることができるなら、これ以上ない幸せとなるだろう。

本書は、英語に興味のある人、映画に興味のある人なら、誰でも楽しめる一冊となっている。そして両者をつなぐものとして、そこに聖書(キリスト教)がさりげなく存在していたことに気付かされたとき、私たちはきっと今までにない興奮を覚えるに違いない。

■ 小川政弘著『字幕翻訳虎の巻 聖書を知ると英語も映画も10倍楽しい』(いのちのことば社 / フォレストブックス、2020年11月)

青木保憲

青木保憲(あおき・やすのり)

1968年愛知県生まれ。愛知教育大学大学院を卒業後、小学校教員を経て牧師を志し、アンデレ宣教神学院へ進む。その後、京都大学教育学研究科卒(修士)、同志社大学大学院神学研究科卒(神学博士、2011年)。グレース宣教会牧師、同志社大学嘱託講師。東日本大震災の復興を願って来日するナッシュビルのクライストチャーチ・クワイアと交流を深める。映画と教会での説教をこよなく愛する。聖書と「スターウォーズ」が座右の銘。一男二女の父。著書に『アメリカ福音派の歴史』(2012年、明石書店)。

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