映画「ステップ」から見る「神の子」としての私たち

2020年10月7日16時39分 執筆者 : 青木保憲 印刷
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映画「ステップ」のDVDジャケット。劇場での上映はほとんどが終了しているが、本編118分と映像特典が付いたDVD(税抜4800円)とブルーレイ(同5800円)は、来年1月8日に発売が予定されている。発売・販売元はいずれもハピネット。この他、今年11月18日からはデジタルセル配信が、12月2日からはレンタル・デジタル配信が始まる。©2020 映画「ステップ」製作委員会

2020年夏は、コロナ禍でハリウッド超大作が一本も公開されないという異常事態となった。日本では「緊急事態宣言」が解除された後、細々と映画館も再開した。そして本来春に公開されるはずだった作品が、軒並み夏休み映画として公開された。その中の一本に、重松清の同名小説を原作とした「ステップ」がある。キリスト教的要素は直接的には皆無だが、その背景にある「人としての喜怒哀楽」に目を向けるとき、聖書の次の言葉が身に染みてくるのが分かる。

「その結果、私たちが子としての身分を受けるようになるためです。そして、あなたがたは子であるゆえに、神は『アバ、父。』と呼ぶ、御子の御霊を、私たちの心に遣わしてくださいました」(ガラテヤ4:5~6)

映画は、結婚3年目30歳という若さで伴侶を失った主人公・健一(山田孝之)が、残された娘と共に悪戦苦闘する10年を描いている。いわゆる「子育てパパ」の奮闘記である。仕事に復帰しても、夕方6時になると退社して娘を迎えに行かなければならない。朝は早めに家を出て、保育園に向かい、それから仕事へ。そんな日々を健一は「一人で頑張る」と気合を入れる。今まで妻に頼りきりであったさまざまな細かい事柄を自分でやらなければならなくなり、それらに一喜一憂する健一。戸惑いと感動が入り混じって押し寄せてくる表情は「いかにも」と感じられる。そして健一が何よりも気に掛けるのは、娘・美紀の成長である。

劇中、美紀の成長に合わせて3つの時期にフォーカスが当てられている。1つ目は幼児期、2つ目は小学校低学年、そして最後は小学校卒業の時期。それぞれの物語に、感動があり、時にはドキリとさせられるエピソードが盛り込まれている。特に、その時期の子育てを経験した者にとっては、グサグサと刺さる言葉があった。

映画「ステップ」から見る「神の子」としての私たち
©2020 映画「ステップ」製作委員会

やがて健一は、仕事の同僚である奈々恵(広末涼子)と引かれ合うようになる。彼女との距離が縮まるにつれ、娘の美紀が果たして彼女を気に入ってくれるかという疑念が頭をもたげてくる。つまり、もはや「父-娘」は一体ではなく、別々の存在として意識しなければならない時期がやってきたということだ。

一方、亡くなった妻の両親は、そんな彼らをどこまでも温かく見守っていく。いずれは別の「良き伴侶」を得て、健一に一人の男性としての幸せをつかんでもらいたいと願う義理の両親は、再婚に悩む彼にこんな言葉を投げ掛ける。

「英語で継父のことをステップ・ファーザーって言うだろ? ステップというのは、いろんな段階を踏んで『父になる』ってことなんだよ」

映画「ステップ」から見る「神の子」としての私たち
©2020 映画「ステップ」製作委員会

英語の stepfather、stepmother は、日本語では「義理の父」「義理の母」と訳されることが一般的である。どうもこの訳だと「義理の」という部分が重た過ぎる。つまり、「妻(夫)との関係があるので、妻(夫)の父、母を自分の両親と区別して『義父、義母』と呼ぶ」というような、何となく無機質で血の通わない関係性を強調するイメージがつきまとう。

だが本作で提示される「ステップ」とは、まさに「ステップ・バイ・ステップ(一歩ずつゆっくりと)」に代表されるような意味合いで、肯定的な側面が強調されている。物語の中では、妻に先立たれた健一にとって、妻の両親は「ステップ・ペアレンツ」であり、娘・美紀にとって、健一が新しく結婚することになる奈々恵は「ステップ・マザー」である。しかし、それらは単なる関係性のことではなく、互いに一歩ずつ努力し歩み寄ることで、本当の「父・母」「息子・娘」になれるという可能性を提示しているのである。

そういった視点で前出したガラテヤ人への手紙を見てみよう。天地の創造主なる神を「アバ、父」(つまり「お父ちゃん!パパ!」)と呼べるのは、一般的に実子である。クリスチャンになると、それくらい親しい名称で神を呼べる特権が与えられる、とも解釈できるだろう。しかし、その前の部分では「子としての身分を受ける」となっている。

映画「ステップ」から見る「神の子」としての私たち
©2020 映画「ステップ」製作委員会

私たちもまた、「ステップ」の過程を通して、神を「天の父」とすることができるし、文字通り「神の子」となることができる、ということだろう。

昨今は、家族関係が大いに揺るがされている。夫婦別性、同性婚、里親制度など――。米国では、子どもに親権者を選ぶ権利を与えようという動きすらある。これら一連の流れを否定的に捉えることもできる。その背景には、「血のつながりこそ最良」という前提があるからだろう。しかし見方を変えるなら、「血のつながりがあるから最悪」というケースも散見される。つまり、従来「血縁」が示してきた「アプリオリに愛する」という前提が瓦解しつつある現代において、血縁があろうとなかろうと、やはり私たちは「ステップ」を踏むことによって、その「身分(立場)」にふさわしい存在に変化していくことを期待されているのだ。

そういった意味で、ガラテヤ人への手紙における「アバ、父」という言葉は、私たちと神との関りを、肯定的な「ステップ」と捉えることで生み出される「真の親子関係」を象徴するものとなるのである。

映画「ステップ」から見る「神の子」としての私たち
©2020 映画「ステップ」製作委員会

私たちは神に対して「天の父」と呼ぶステップを踏むことで、真に「親子関係」のメタファーで神を身近に感じられるようになるのではなかろうか。クリスチャンとしてこの映画を鑑賞するとき、私たちは神の子と「なる」ステップを踏む存在であることを実感することができる。

本作は、人間関係の機微を見事に描いた傑作ともいえるし、またキリスト教的観点から見るなら、私たちと神との関係を、新たな視点から描き出す一助となる作品でもある。すでにほとんどの劇場で上映は終了しているが、デジタルセル配信は今年11月18日から始まり、DVDとブルーレイは来年1月8日に発売が予定されている。ぜひご覧いただきたい。

■ 映画「ステップ」予告編

映画「ステップ」公式サイト

青木保憲

青木保憲(あおき・やすのり)

1968年愛知県生まれ。愛知教育大学大学院を卒業後、小学校教員を経て牧師を志し、アンデレ宣教神学院へ進む。その後、京都大学教育学研究科卒(修士)、同志社大学大学院神学研究科卒(神学博士、2011年)。グレース宣教会牧師、同志社大学嘱託講師。東日本大震災の復興を願って来日するナッシュビルのクライストチャーチ・クワイアと交流を深める。映画と教会での説教をこよなく愛する。聖書と「スターウォーズ」が座右の銘。一男二女の父。著書に『アメリカ福音派の歴史』(2012年、明石書店)。

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