鉄鋼王アンドリュー・カーネギーの生涯(3)勤勉な配達少年

2020年3月11日10時33分 コラムニスト : 栗栖ひろみ 印刷

通信局に入ってしばらくした頃、デーヴィッド・マッカーゴとボブ・ピットケーレンという2人の少年が入社した。3人は「仲良し3人組」となり、互いに励まし合い、助け合って仕事をするようになった。

彼らは順番で事務所の掃除をしたり、他人が嫌がるような雑用も一切手を抜かずにていねいに行ったので、事務所の誰からもかわいがられた。3人は近所の住人とも顔なじみとなり、リンゴや菓子を持たせてくれる人もいたのだった。

その頃、「10セント電報」というのがあって、一定の距離を越えた地域に届けると10セントもらっていいことになっていた。これは全従業員に目をつけられていて、時にはけんかも起こりかねなかった。アンディは考えた末、特別電報の料金を「合同資金」として溜め、週末に現金を平等に分ける案を出した。これは、彼が考え出した最初の金融組織の試みであった。

通信局の仕事は、一晩おきに11時まで夜勤があったので、少年たちにはほとんど自由時間がなかった。ある晩、アンディは夜勤を終えて家に帰ろうとしていたとき、通信局の玄関脇のベンチに本が置いてあるのを見た。手に取ってみると、チャールス・ラムの『シェークスピア物語』だった。思わずそれに読みふけっていると、後ろから肩を叩く人がいる。

「きみは本が好きなようだね。こんなに遅くまで働いているの?」「はい。ここの勤めには夜勤があるんです」。それは通信局の近くに住むジェームス・アンダーソン大佐で、起き忘れた本を取りに戻って来たのだった。彼はその本をアンディにくれた上でこう言った。

「よかったら私の家に来ないか? 読みたい本があったら貸してあげるよ」。この大佐は勤労少年のために自分の図書を開放していて、そこに400冊以上もの本が納められていた。早速次の休日にアンダーソン大佐の家を訪ね、本を借り、次の土曜日に別の本と交換しに行った。「若い頃苦労した人はね、将来必ず立派な人物になるんだよ」。大佐はこう言って励ますのだった。

通信局に勤めて1年ほどたった頃。事務所の主任ジョン・グラス大佐がたびたび外出するので、アンディは留守番を頼まれるようになった。彼はアンディが誠実でよく働くので信頼していたのである。アンディはそれに応えようと一生懸命働くのだった。

その月の給料日のこと。従業員は一列に並んでそれぞれ上司から給料袋を手渡されるのだったが、アンディの番が来て進み出たところ、「きみはちょっと待ちなさい」と列から外され、後ろの少年に給料袋が手渡された。(どうして自分だけ外されたんだろう? 何か失敗があったかな?)あれこれ考えたが思い当たらなかった。

全員に給料を配り終えると、グラス大佐は一人残っているアンディを手招きしてカウンターの所につれていった。「実はね、きみはほかの少年よりも働きがあるので月13ドル50セント払うことにした。さあ、落とさずに持ってお帰り」。こう言うと、大佐はびっくりしている少年の手にぶ厚い給料袋を渡した。

アンディは礼を言うのも忘れて一散に家に駆け戻った。これからは父と母に必要なものを買ってあげられるのだ。彼はひとまず自分の部屋に行き、昇給した2ドル25セントを別にし、いつものように給料11ドル25セントの袋を母に渡した。

実は、この日はカーネギー家がすべての借金を返し終えためでたい日で、祝いのテーブルを囲むことになっていた。皆がテーブルに着いた頃合いを見計らって、アンディは別にしておいた2ドル25セントをそっとテーブルに置いた。その時の両親の誇りに満ちたうれしそうな顔を彼は一生忘れなかった。「アンディ、わしはおまえを頼りにしているよ」と、父は震える声でそう言い、彼の手をしっかり握りしめた。

こんなことがあってから、アンディはますます誠意を込めて仕事に身を入れた。ある日、彼は大変な冒険をした。電信室の技師が誰もいないとき、ピッツバーグ局から至急の通信が送られてきた。テープを回して通信文を受け取ると、フィラデルフィア局からでピッツバーグ局に「死亡通知を送りたい」と言ってきたのだった。

そこでアンディはゆっくりと打ってもらって無事通信を受け、これを配送したのだった。この行為はブルックス局長から大変褒められ、間もなくアンディは通信技術を学ばせてもらえることになった。彼は驚くほどの早さで技術を習得し、間もなく月収25ドルの通信技師に昇格したのだった。

<あとがき>

人が社会人になったときに問われるのは、「誠実さ」でありましょう。幾つかの企業では、面接試験を行うときの目安として、その人物が有能であるかどうかということを問う前に、いかに誠実に与えられた職務を全うできるか――を重点に置いているということを聞きました。

電信局に入社したアンディ(アンドリュー)は、「仲良し3人組」の少年たちと互いに励まし合い、助け合いながら働き始めます。彼らのモットーは、「人に喜ばれるような良い仕事をすること」でした。彼らは配達の仕事だけでなく、雑務をも進んで行い、どんな仕事に対しても一切手抜きをせずに誠実に務め励んだのでした。

アンディはもちろんのこと、3人組の他の少年たちも将来責任ある仕事に就き、成功の人生を送りました。実に「与えよ。そうすれば、自分にも与えられるであろう」(ルカ6・36)という聖書の教えは、両親を通して幼い頃からアンディの心に根を下ろし、血肉となっていたのでしょう。

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栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)、2003年『愛の看護人―聖カミロの生涯』(サンパウロ)など刊行。12年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝のWeb連載を始める。その他雑誌の連載もあり。

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