危機の時代から刷新の時代へ(3)天災か人災か 岩村義雄

2019年5月29日23時39分 執筆者 : 岩村義雄 印刷
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乙石(おといし)川上流から流れてきた大きな石や土砂が入り込んだ松末小学校の教室=2017年8月21日

1)人間の技術の限界

福岡県朝倉市は、地方自治体も自治会も防災意識が強い地域でした。日頃から災害に注意しており、ハザードマップも用意し筑後川の氾濫に備えていました。2012年7月11~14日に起こった九州北部豪雨では、熊本県阿蘇市阿蘇乙姫で72時間に816・5ミリの雨量があり、死者30人、負者27人が出るという災害も経験していました。ところが、17年7月5日の九州北部豪雨では、川ではなく土石流が、遠い山から多くの流木と共に襲ったのです。ハザードマップも完璧ではありませんでした。前の川の増水ばかり気にしていたところ、いきなり後ろの山から濁流がやってきたのです。

西日本豪雨に見舞われた昨年7月6日、岡山県倉敷市真備(まび)町では、高梁(たかはし)川に流れ込む小田川の堤防が決壊しました。高さ6メートルを超える水量が、真備町を襲いました。死者は真備町だけで51人です。その8割以上が1階部分で遺体となって発見されました。昨年8月12日の時点で、850人が避難所生活をしていました。家屋の2階にまで水が押し寄せた小田川の堤防決壊の原因は何でしょうか。

地元紙「山陽新聞」は、新成羽川(しんなりわがわ)ダムなどの放流による高梁川の増水が支流の小田川に影響したと疑われる、と報道しました。つまり、豪雨により増水したダムを放流したことによって、下流で洪水を引き起こした可能性があるのです。私たちも昨年8月8、13日に、高梁川に沿って新成羽川ダムを訪問しました。途中で訪れた備中広瀬駅(岡山県高梁市)周辺は、1週間前に訪問した美袋(みなぎ)駅(岡山県総社市)周辺より、高梁川の増水・洪水により痛々しい光景が広がっていました。電柱が2本あり、1本は上部2メートルでひん曲がっているのを、田村晋作さんは指摘されました。共に「どのようにしてあんな上が曲がったのでしょう」と首をかしげました。水圧の威力、高さに驚かされます。

「何の問題もなかった」と、ダム偏重の治水行政を振り返らなくていいのでしょうか。残念なことに、高梁川上流の新成羽川ダムと河本(こうもと)ダムの2つの放流が、小田川の堤防決壊につながったとする関係について、メディア、国、自治体は検証していません。

河本ダムは洪水調節機能を有する治水ダムですが、当日午後11時には異常洪水時防災操作(流入量をそのまま放流)に切り替えました。高梁市の防災責任者によると、「実は河本ダムに言ったんですよ。『これ以上流すと氾濫するから、もう放流はしないでくれ。頼むからやめてくれ』と。でも河本ダムからは『放流しなければダムが決壊する。そうなればもっと甚大な被害が出るから無理です』と言われました」とのことです。

緊急放流は、ダム決壊を招く越水防止の最終手段とされています。ですが、河川工学者である今本博健(ひろたけ)京都大学名誉教授は、「そもそもダムからの越水がどれほど危険なのかを国がきちんと検証できていない」とし、緊急放流について「越水による流量の方が緩やかになる可能性が高い」と疑問を投げ掛けておられます。国土交通省などダムを造る側は「ダムから水があふれ、越水するとダム全体が決壊するから、放流は必要だ」と主張しますが、今本教授はダムの天端(最上部)から水があふれたことでダムが決壊したという事例がないため、国の主張に冷ややかです。

一方、ダムがなければ大きな被害が出たと言う学者もいます。中北英一・京都大学防災研究所教授は、「ダムがなければもっと大量の水が下流に流れ、大きな被害が出ていたのは間違いない」と話されました。しかし、中北教授が語られたことは根拠のない臆測です。なぜなら、ダムがなかったなら、まっさきに避難を考えただろうという視座が欠落しているからです。岩手県田老町で世界最大の防潮堤によって慢心していた住民が、東日本大震災で津波に流されたとき、防潮堤がなかったらもっと大きな被害になっていただろうという、負け惜しみの論理と根っこは同じです。

「小さな者から大きな者に至るまで皆、暴利を貪(むさぼ)り、預言者から祭司に至るまで皆、虚偽をなす。彼らは、わが民の傷を安易に癒やして『平和、平和』と言うが、平和などはない」(エレミヤ6:13~14)

産(事業者)、官(県・県警・県教委)、学(学識者・医療関係者)のトライアングルの幸福が、偶像的な自己拡大に酔いしれている限り、民に平安はありません。

2)他の災害地のダム被害

真備町の水害だけが、ダム最優先の治水行政のもろさを露呈したのでしょうか。1999年6月の集中豪雨では、広島市内の新興住宅地などで土砂崩れが起きました。32人が死亡・行方不明となりました。2014年8月には、広島市北部の安佐南、安佐北両区で住宅地を土石流などが襲い、関連死も含め77人が犠牲になりました。国と県はこれを機に、「砂防ダム」などの整備を進め、57カ所で緊急事業を完了させました。しかし、ダムの安全神話は崩れました。

西日本豪雨では広島県坂町で、ダムが原因となり住民の命が奪われました。毎日新聞は次のように報道していました。「ダムの下流の小屋浦地区には住民約1800人が住み、土砂でほぼ全域が覆われた。同地区では12日現在で8人が死亡し、安否不明者も出ている」

広島市ではこれまで、砂防ダムが完成していない地域については、通常より早期に避難情報を出していました。他の都会でも土砂崩れ、崩落、水害が起こることを予期しなければなりません。砂防ダムが発達した六甲山系でも、慢心することは危険でした。六甲山系には砂防法(1897年)により、たくさんの砂防ダムがあり、阪神間の住民は安心していました。しかし、阪神大水害(1938年)では、461・8ミリの大雨が降り、兵庫県内で695人が死亡しました。神戸市をはじめ各地で河川の氾濫が起こり、六甲山地では約770カ所で土砂崩れが起きました。再び悲劇が起こることも覚悟しなければなりません。

「ダム、防潮堤、土木によってもたらされる住民の安心感」と、信頼できる公正をもたらす神の意思とは対立します。市民社会、家族団らん、地域のつながりを犠牲にしたにもかかわらず、引き続き土木工法が「安全」と繰り返されています。混沌の秩序を維持しようとする秩序志向は、思いやり、ケア、喜びからはかけ離れたものです。聖書は、欠陥のない共同体が、自然に自動的にそのうちに到来するとは述べません。「悪しき者はかき回された海のようで、静めることはできず、その水は泥とぬかるんだ土とを吐き出す」(イザヤ57:20)と、「悪しき者」が無辜(むこ)の民を顧みないと記されています。

虐げられた者、人権を軽んじられた被災者、生きることすらおぼつかない人々の世話をし、分かち合い、希望を人格的に味わうことができる幸福をもたらすビジョンを民は求めています。

「洗え。身を清くせよ。あなたがたの悪い行いを私の目の前から取り除け。悪を行うことをやめよ。善を行うことを学べ。公正を追い求め、虐げられた者を救い、孤児のために裁き、寡婦(かふ)を弁護せよ」(イザヤ1:16~17)と、被災者を救う働きが神の意思です。(続く)

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岩村義雄

岩村義雄(いわむら・よしお)

2001年以降、被災者に寄り添う「ボランティア道」や「田・山・湾の復活」を展開。海外ではネパール、バヌアツ、ベトナムなど5カ国で孤児の施設に取り組み、日本の里親からひとり毎月3千円の教育費を大人になるまで直接届けている。国内ではタコ(他己)の精神で、熊本・大分地震や九州北部豪雨の松末(ますえ)、西日本豪雨などの被災地に翌日には現地入り、炊き出しや傾聴ボランティア、ドロ出しなどを実施。鬼怒川や丹波の水害被災地も訪問し、東北には3・11直後から85回以上訪問。神戸国際支縁機構会長、「みんなで『死』を考える会」会長、「阪神宗教者の会」代表世話人、神戸国際キリスト教会牧師、「カヨ子基金」代表、神戸新聞会館講師。

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