世界自転車旅行記(21)キューバ・その2 木下滋雄

2016年7月18日15時12分 コラムニスト : 木下滋雄 印刷
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世界自転車旅行記(21)キューバ・その2 木下滋雄

今回はキューバの続き。前回、親切な人が多いと書いたが、こんなことも。夕方宿を探して人に尋ねると、必ずその場所まで案内してくれる。男性は上半身裸でいるのに、「ちょっと待ってて」と言ってちゃんとシャツを着て出てくるのが面白い。途上国ではそんな時にお金をねだられるが、そういうことはこの国では皆無だった。

前回、この国では、月収は日本円で3千円ちょっととはいえ、医療費も教育費も全て無料だと書いたが、もう1つ重要なのが住宅。社会主義なので全てが国営住宅で、入居が保証されている。よってホームレスはいないそうだ。福祉については物質的にははるかに豊かな日本の方がずっと貧しいのではないか、とも思う。

贅沢はできないが、最低限の生活は保障されているといえる。そして、贅沢はできないから、物を大事に使う。

ある朝、妻の乗る自転車の前のタイヤがおかしい。見れば、タイヤのサイドが裂け始めている。この旅の間くらい使えると思ったが、見込み違い。スペアタイヤを持っていればよかったと後悔するが、同じ失敗は何度目だろう。その度にタイヤに応急処置をして走ってきた。

この国に走っている自転車を見れば、小径の同じタイヤが買えるとは思えないので、今度も何としてもこのタイヤで走らねばならない。そう思っていると、ちょうどタイヤ修理店があり、尋ねてみると直せると言う。

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裂けたタイヤを直してもらった

普通のパンク修理の仕方と同じで、穴にゴムシートを貼り付けた。この店は繁盛し、他にも多くの人が並んで修理を待っていたが、日本では捨てられるような大きい穴が開いたタイヤでも直している。

こうして古い物でも大事に使うのだが、一番目立つ古い物は何と言っても町にたくさん走っている1950年代ごろの車だろう。

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タイヤは、貼り付けたゴムがはがれてきてその夜にはだめになったが、宿の主人が翌日修理屋さんに連れて行ってくれた。そこでの修理はもっとしっかりしていて、あとで新たな穴の修理を追加したものの、最後まで持ちこたえてくれた。

5月1日の朝、大音量の太鼓の音で目が覚めた。メーデーだということで、メーンストリートに出ると、道路の幅いっぱいにパレードが迫ってきた。

さすがに社会主義の国、労働者の国だと思った。パレードにのみ込まれると町から出られなくなりそうだったので、早々に離れた。写真を撮っていると呼び止められ、俺の家族も一緒に撮ってくれと言われた。写真を撮られるのが嫌な国の人たちもいるが、ここはそれがとても好きな人たちのようだ。

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メーデーのパレードに遭遇

北回帰線より南にあるので、ゴールデンウイークのこの時期は、昼は文字通り太陽が真上に来る。ここの人たちにはシエスタの時間だ。この時間は走っても体力を消耗する割に進まないので、木陰で昼寝したりするが、ほとんど木陰になる木もない。

そんな時に助かるのはバス停の存在だ。大抵のバス停はブロック造りで屋根があり、壁際がベンチ状になっているので、人がいない場合はよい寝床になる。島の真ん中に来た頃は雨期に入る頃のためか雲が多くなり、強烈な日差しが時々遮られるのがうれしい。

ルートの途中には何カ所か世界遺産に登録された町がある。その中でもきれいだったのはトリニダーという町で、色とりどりに塗られた家々と馬車や古い車が通る石畳の道は、物語の中の風景のようだ。

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休憩をかねてこの町には2泊した。宿の主人はイタリア人の方の家で、夜はサルサ(キューバのフォークダンス)を踊りに行こうと誘われた。1日目はずっと走ってきた後だったので遠慮したが、2日目は行くことにした。

通りの向かいにサルサの先生がいるから、行く前にレッスンを受けるように言われて1時間ほどやってみた。ダンスのレッスンを受けるなんてなかなか面白い経験だ。実は旅立ちの前にも、何度かサルサのレッスンに行ってみたのだが、そこで習ったのとは基本ステップがちょっと違った。

宿の部屋でご主人手料理の夕食を食べた後、一緒にバーへ向かう。歩いて行く途中、ご主人は会う人会う人皆と話をしていく。みんな知り合いのようだ。

サルサバーは超満員。地元の年配の方が多いようだ。若い人にはサルサではなくもっと違うダンスが流行しているそうだ。レッスンを受けてみたものの、実際バーで踊ってみるとうまくはできない。まあ雰囲気が楽しいからいいか。

ここから残りの行程は300キロあまり。5日後に飛行機を予約してある。3日の行程なので余裕はあるのだが、この日の午後から2人ともお腹がおかしくなった。僕は下痢、妻は嘔吐(おうと)を繰り返すようになった。

何がいけなかったか考えると、昼のレストランで飲んだ生ジュースではないかと思う。食事してこの店のトイレに入って流そうとすると、水が出ない。洗面も然り。というわけで、従業員もトイレの後で手を洗っているのか疑問だ。

この日は80キロ先の町までなので、余裕があると思っていたが、わずかの坂でも押して上らないといけないほどになり、夕方にはあと十数キロのところで動けなくなった。その後なんとか走って夜に町に着き、宿を教えてもらって転がり込むと、僕はそのままベッドに直行した。

夜中、雨が突然猛烈に降り出すことが何度かあり、その度に目が覚めた。雨期に入ったということだろう。幸い昼間走っているときに雨に降られることはなかったが、こんなのに出会ったら一瞬でびちゃびちゃになってしまう。

下痢になると、過去に南米で食中毒になって5日間入院し、その後も体力が戻らずほとんど走れないままに帰国する羽目になった悪夢を思い出す。朝になると少し良くなり、お昼まで寝ていて何とか走れそうなくらい体調は良くなった。

このシエンフエゴスという町も世界遺産になっており、軽く昼食を食べた後、町を見て回った。これなら次の町までは走れそうだと思って戻ってきたが、宿の主人にお願いしておいた次の町に宿があるかの答えはノーだった。80キロ先の海岸の町ならあるという。遠回りになるし既に3時になっていたが、体力も戻ってきたし走ることにした。

前回書いたように、貿易風が主に東から吹くので、西に向かえばだいたい追い風になるはずだが、思わぬ向かい風があったりして到着は夜9時になってしまった。

途上国では、夜は本当に真っ暗になり、道路に空いた穴、人や自転車、馬車などもよく見えなくて危ないので、できるだけ走りたくはない。だが、ここでは人がいなくて、すれ違った馬車は大音量で音楽をかけていたりして、危なくはなかったし、蛍も見られてよかった。

ハバナまであと2日。しかし、宿で聞いてみると残り210キロの真ん中あたりに宿はないそうで、最後の日に150キロ走らなければいけないことになった。

翌日僕の体調は戻ったが、妻の方が昼まで起きられず、その日の行程は60キロ程度だが、6時間以上かかることになった。この国の食事はおいしいのだが、油料理とかお腹に重たいものばかりで、お腹を壊したときに食べたいうどんのような軽い料理というのがないのには困った。

本当はシエンフエゴスから島の北側に出るつもりだったが、体調のおかげで予定外の南側の海沿いを走ることになった。どちらにしてもカリブの真珠と呼ばれるだけのことはあって、海はとてもきれいだ。

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この海沿いの道では小さなカニが見られて楽しかった。森に住むカニが海に産卵しに行くそうで、初めのうちは路面や道の両側に死骸しか見られなかったが、生きているのも見られるようになった。たくさん車にひかれているのがかわいそうだが、どうしようもないのか。

最後の日は予定外でひたすら高速道路を走る。初日に走ったのはこの島の高速道路の最も東側の部分だったが、最後に最も西側の部分を走ることになった。景色はあまりよくない。旅では体調が悪くなることも天候が悪くなることもあるのでギリギリの予定は組まないことにしているが、その余裕を使い切ってしまったので、仕方ない。

その初日と同じくここへ来てもあまり交通量はなく、3~4車線あるので穴だらけの路肩を避けても走りやすい。違うのは、首都の近くのためか、馬車はほとんど見かけなくなった。幸いイレギュラーな向かい風が吹くことなく、ほぼ平坦なので体調は悪いが12時間走り続ければ着くだろうというペースで走った。

最後は予定通り暗くなる頃にハバナに入り、初日にお世話になった宿の主人に再会した。

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隣の米国という超大国と比べるとあまりに違う。貧しい国であるが、医療費が高額なその米国から、逆に無料の医療を受けようと入国しようとする人がいたりして、どちらがいいとは言えない。わずかな滞在では見えてこないものはたくさんあるだろう。

ただ言えるのは、気持ちよく楽しく旅ができる場所に、そんなに悪いところはないだろうということだ。キューバもそんな国の1つである。

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木下滋雄

木下滋雄(きのした・しげお)

1964年横浜生まれ。フォト・サイクリスト。高校時代に自転車旅行と写真を開始し、30歳で五大陸走破を達成。これまでに60カ国延べ6万3千キロを走破している。現在はパラグライダーも楽しむ。ぺトラ建築設計一級建築士事務所主宰。

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