世界自転車旅行記(16)中央アジア 木下滋雄

2015年12月14日12時25分 コラムニスト : 木下滋雄 印刷
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世界自転車旅行記(16)中央アジア 木下滋雄

旅先のジョージアで知り合い、翌年自国に招待してくれたアイスランドのサイクリストの方が、次は中央アジアを走りたいと何度も言っていた。それで次の目的地をここに決めた。しかし、広い地域を短期で走るには、ポイントを絞らなければならない。そこで日本から行きやすいタシケントと、景色のいいキルギスを結んで走ることにした。

2009年6月の夜にタシケント着、ホテルで自転車を組み立て翌朝出発。この町の道路は、広くて驚くほど車が少なく、がらんとしている。首都は、どこの国でも車であふれ、自転車で走るには危険を感じることも多いが、こんな所は初めてだ。ここからカザフスタンの国境まではわずか20キロ。市内見物をしてからでも、昼には国境を越えているだろうと思っていた。

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ウズベキスタンの首都タシケントの街の風景
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ところが、出入国検査所があるはずの幹線道路にそれはなく、20キロほど北東に行かなくてはならないという。「俺が送ってやる」と言う白タクに乗り(この国では違法でないらしい)その場所に着くと、今度は、外国人は逆の南西に100キロも離れたポイントまで行かねばならないという。

10日しかない旅程で国境越えに2日もかけてはいられない。再びタクシーに何十ドルも払って2時間かかりヤラマという場所に着いたものの、なかなかゲートを開けてくれない。並んでいる間、日陰はなく、大陸内部の強烈な日差しは強く、とても暑い。門が開いてからも、荷物チェックなどの手続きは驚くほどのスローペース、十数人しか並んでいないのにいったい何時間かかるのだ・・・。

やっと国境を通過したときは、すでに夕方になっていた。夜9時ごろまで明るく、時間的には余裕があったが、飲まず食わずの状況が続いたせいもあり、50キロ離れた最初の町に着く頃にはへとへとに疲れてしまった。宿はどこかと聞いた人によると、ホテルはないという。だが、ここに泊まっていいと言ってくれた。こういう親切は本当にうれしい。夕食を頂いた上、銭湯のような所(といってもシャワーだが)にも連れて行ってくれた。

翌日の昼、タシケントまで25キロの標識。やっと昨日越えられなかった国境の反対側に出た。丸1日のロス。その上、暑さも誤算だ。気温は30度そこそこだが、そのわりに日差しは強い。途中道ばたにスイカ売りがいて、丸ごと一つを買った。外にあったわりには冷えていて、その場で半分食べ、残りは袋に入れて後で食べることにした。これで少し元気になった。

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カザフスタンで泊めてくれた方に夕食も頂いた。
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暑さの中、スイカ売りがいてくれて助かった。
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カザフスタンの風景
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このコースは中国北端の天山山脈から続く山塊と、シベリアへ続く大平原との境目にあり、シルクロードの最北ルートに当たる。地形に伴い民族もおおむねここを境に分かれているので、中国人風の人もいれば、白人もいるという感じだ。

翌日も暑く、へとへとになって坂を上っているとき、ザバグリー村8キロの看板を見つけた。ロシア語はよく分からないが、ガイドブックで見たアクス・ザバグリー自然保護区と同じつづりだ。幹線をはずれ山脈の端に近づいていく。村の入り口で流暢(りゅうちょう)な英語を話す民宿の娘さんに呼び止められ、泊まることに。この保護区は、春に花がきれいだそうだが、この季節でも夕立の合間に雪山の麓を散策してみると気持ち良かった。

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ザバグリー村の民宿の娘さん
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天山山脈の端にあたるアクス・ザバグリー自然保護区の山々
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天候は炎天から曇りがちとなり、体の調子も良くなってきた。翌夕、またもこの町には宿がないと言われたが、ここでも泊まっていいと言ってくれた人たちがいた。それは食堂の従業員用のユルト(中国のパオと同じ)で、さあ寝ようという頃になって、ここに寝る人がいるからやっぱり泊めてあげられないという。そんなの最初から分かっていなかったのだろうか。100キロ先の町にホテルがあるからとトラックに乗せられ、夜の道を行く。ところが、夜中1時に着いた町はずれの分岐で「俺たちはここで別れるから、降りてホテルを探せ」と言う。言葉も分からん人を真っ暗な中によく放り出せるものだと思ったが、せめて宿まで連れて行ってくれと頼んで、宿を見つけてもらった。汚く何もない所だが贅沢(ぜいたく)は言えない。親切なのかそうでないのか分からない人たちだった。

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夕食を頂いたユルトの中。ここに泊めてくれると言われたのだが。

再び、次の国境越えが近づく。先日のことがあるので不安だったが、何のことはない。今度は10分後にはキルギスの人となっていた。この国は山がきれいで、イシュククルという大きな湖もある。残り5日の日程を考え、400キロ離れた湖の東側の山麓にバスで出て、乗機地ビシュケクへ戻って来ることにした。この国はミニバスが網の目のように頻繁に走っている。夕方ビシュケクを出発するバスに乗り、自転車はもう一人分の料金を払って通路に乗せた。湖の東側カラコルの町に未明に着き、バスの運転手の知り合いという真っ暗な宿に入れてもらった。

その朝のうちに南側に30キロ離れた山小屋へミニバンを使って行き、帰りに自転車で下りて来ることにしたが、着いたのは何もかものんびりしたもので3時過ぎ。早く着いてハイキングをしたかったのだが、これでは自転車を持って登っても同じような時間ではなかったか。ここからは氷河も近いが、この時間からでは日没までに戻れない。諦めて近くの散策へ。キルギス族の遊牧民の人たちが所々にいて、ヨーグルトとパンのもてなしを受けたりした。山小屋のそばを流れる川沿いには温泉があり、宿の主人が作った露天風呂があった。なかなか良い雰囲気だ。

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キルギス、天山山脈の麓に住む民族の方たち
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ビシュケクへ向かうイシュククル湖畔は、両側に雪に覆われた山脈を望みながら色とりどりの花畑の中を走るとても景色のいいコースだ。途中、自転車仲間である日本アドベンチャーサイクリストクラブの方に教えていただいていた脇道に入ってみると、ユルトに泊れる宿があった。

電気もない宿だが、その代わり、天の川をはじめとした星空がとてもきれいだった。

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イシュククルの東側にて
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ユルトの宿から見上げた天の川

その先の峠道からは山を間近に望むことができた。このイシュククル湖畔のコースは今まで走った中でも最高ランクの景色の良さだった。湖から離れてビシュケクへ向かう道沿いにもシルクロードの遺跡がある。あいにくそれを見に行こうとした最終日は雨で、途中パンクしてしまった。雨よけもない所でのパンク修理はかなり憂鬱(ゆううつ)な作業だ。

その後、天気は好転し、夕方空港に着く頃には青空になり、出発地タシケントへ飛ぶ飛行機からは、走って来たコースがよく見えた。

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イシュククルの湖畔にて
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湖畔から山の方へ寄り道してみた。
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木下滋雄

木下滋雄(きのした・しげお)

1964年横浜生まれ。フォト・サイクリスト。高校時代に自転車旅行と写真を開始し、30歳で五大陸走破を達成。これまでに60カ国延べ6万3千キロを走破している。現在はパラグライダーも楽しむ。ぺトラ建築設計一級建築士事務所主宰。

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