英語お宝情報(12)「クレーム」は「苦情」を意味しない! 木下和好

2017年6月25日18時58分 コラムニスト : 木下和好 印刷
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英語お宝情報(1):スピーキング脳とリスニング脳

By Dr. K. Kinoshita(木下和好)
YouCanSpeak 開発者・同時通訳者
元NHK TV・ラジオ 英語教授

<クレームの日本での使われ方>

ほとんどの日本人が和製英語と気付かずに使っている英単語が幾つかあるが、その1つが「クレーム(claim)」である。“claim” という単語は英語の世界で日常的に使われているので、それ自体が和製英語というわけではない。でも、日本人が「クレーム」という言葉を使うとき、英語の “claim” の本来の意味からかけ離れている。

日本では「クレーム」が「損害賠償請求」とか、「異議」「苦情」「文句」という意味で使われている。「クレームをつける」「クレームに対処する」「クレームの原因」「クレームを受け付ける」「~に対するクレーム」と、いろいろな言い方をするが、どの表現も「クレーム=苦情」として使われている。でも、英語の “claim” 自体には「賠償請求」「苦情」あるいは「賠償請求をする」「苦情を言う」という意味がない。

“claim” という英語の本当の意味は「主張する」「要求する」「求める」などなので、以上のような「クレーム」を使った表現を英語で言いたい場合、「クレーム」をそのまま “claim” で表現すると、意味がまったく通じなくなってしまう。“make a claim about~” は「~にクレームをつける」の意味にはならず、英語としては不自然だが「~について主張する」という意味になってしまう。

“respond to a claim” は「クレームに対処する」ではなく、「主張に返答する」という意味になる。同じように “the cause of a claim” は「クレームの原因」はではなく、“to take claims” は「クレームを受け付ける」という意味にはならない。「~に対するクレーム」を “a claim raised against ~” と表現することもできない。

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英語の “claim” は「主張(する)」「要求(する)」「求める」などを意味し、その単語自体に「苦情」という意味は含まれていない。英語で「苦情」とか「賠償」について語りたい場合は、”claim” という動詞の後に適切な目的語を加える必要がある。

例えば、“damage(損害)”という目的語を付け “to claim $1,000 damages” のように表現すると、「千ドルの損害賠償を要求する」という意味になり、“to claim a refund” と言えば、「払い戻しを要求する」という意味になる。前置詞を用いて “to claim against damage(損害賠償を要求する)” と表現することもできる。いずれの場合も「損害賠償」とか「苦情」という意味は、“claim” 自体にあるのではなく、その動詞の後に使われる名詞で表現されている。

英語お宝情報(12)「クレーム」は「苦情」を意味しない! 木下和好

では、なぜ日本では「クレーム(claim)」が「苦情」という意味で使われるようになったのだろうか? おそらく日本人の影響力のある誰か(放送関係者、作家、評論家など)が、“to claim against damage(損害賠償を要求する)” というような英語の表現の “against damages” を切り捨て、“claim” 自体に「損害賠償」とか「苦情」という意味があるかのごとくに使い始めたのが原因で、やがて日本中に広まったと考えられる。

日本では本来の英語の表現の一部だけを使って、日本でしか通じない表現にしてしまうことがよくある。例えば、「温室」は英語では “a greenhouse” なのに “green” の部分を切り捨てて「ハウス」だけにしてしまう。「ハウス栽培」とか「ハウス野菜」という表現をよく使うが、英語で “growing in a house” と言うと「家の中での栽培」という意味になり、“vegetables grown in a house” と表現すれば、「家の中で育った野菜」になってしまう。でも、日本では「ハウス」が “greenhouse” と同じ意味であるかのように使われている。

英語お宝情報(12)「クレーム」は「苦情」を意味しない! 木下和好

“claim” が「損害賠償」とか「苦情」という意味になってしまったのも、日本独自の省略表現がその背景にあるだろう。すなわち「損害賠償を要求する」は “to claim against damage” であり、“against damage” がなければそのような意味にはならないのに、“claim” の部分だけを使うようになり、しかも “claim” に「損害賠償」とか「苦情」という意味が含まれているかのように使われ始めたようだ。

これと似たような現象は日本以外でも起き、世界中に広まった例がある。典型的な楽器 “piano” がその1例だ。“piano” は最初 “Gravicembalo col piano e forte(ピアノもフォルテも出せるグラヴィチェンバロ)” と呼ばれていたようだが、いつの間にか「弱音」を意味する “piano” の部分だけが残り、“piano” という楽器名になってしまった。これは “claim” が「苦情」という意味になってしまったのと同じ現象のようだ。

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“claim” の正しい使い方に話を戻すが、日本で使われている「クレーム」を英語で表現する場合は次のようになる。

「クレームに対応する」→“respond to a complaint(不満)”
「クレームをつける」→“complain / raise an objection(異議)”
「クレームの原因」→“grounds for complaint”
「~に対するクレーム」→“complaint raised against ~”
「クレーム係」→“a person in charge of taking complaints”

以上の例からも分かるように、日本的な「クレーム」を英語で表現したい場合、“claim” ではなく “complaint(不満)” を使えば、ほぼ間違いない。

ところで、“claim” には「主張する」「要求する」「求める」という意味だけでなく、「奪う」という意味もある。例えば、“The tsunami claimed over 20,000 lives.” という英語表現は、「津波は2万人以上の命を奪った」という意味になる。

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木下和好

木下和好(きのした・かずよし)

1946年、静岡県生まれ。文学博士。東京基督教大学、ゴードン・コーウェル、カリフォルニア大学院に学ぶ。英会話学校、英語圏留学センター経営。逐次・同時両方向通訳者、同時通訳セミナー講師。NHKラジオ・TV「Dr. Kinoshitaのおもしろ英語塾」教授。民放ラジオ番組「Dr. Kinoshitaの英語おもしろ豆辞典」担当。民放各局のTV番組にゲスト出演し、「Dr. Kinoshitaの究極英語習得法」を担当する。1991年1月「米国大統領朝食会」に招待される。雑誌等に英語関連記事を連載、著書20冊余り。

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