英語お宝情報(7)言葉の2重構造とその比重 木下和好

2017年4月4日20時53分 コラムニスト : 木下和好 印刷
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英語お宝情報(1):スピーキング脳とリスニング脳

By Dr. K. Kinoshita(木下和好)
YouCanSpeak 開発者・同時通訳者
元NHK TV・ラジオ 英語教授

<新しい言葉を覚えることは重労働ではない>

英語、日本語、中国語などの世界中の言語は、それぞれ独立的に存在しているので、外国語を覚えるためには、母国語習得の時と同じ量の学びをする必要があると思っている人が多い。それだけの理由で、最初から英語学習を諦めてしまう人もいる。この考え方をパソコン用語で説明すると、次のようになる。

英語お宝情報(7)言葉の2重構造とその比重 木下和好

日本語を母国語とする人の脳内の日本語容量が例えば5テラバイト(仮想数字)だとすると、他の言語を話す人たちも、言葉のレベルが同じならその言語容量も5テラバイトということになる。言葉が2重構造になっていることに気付いていない場合、当然このような発想に陥る。

この考え方によると、日本語を自由に話すためには5テラバイトが必要なので、外国語を自由に話すようになるためにはさらに5テラバイトの情報蓄積が必要となり、語学習得はかなり困難な作業ということになる。

モノリンガル、すなわち1つの言語だけ話す人は、言葉の2重構造に気付きにくいので、バイリンガルな人、あるいはマルティリンガルな人を見て「神業」と思ってしまう。しかし実際は、言葉の2重構造のおかげで、他の言語習得は5テラバイトの追加作業ではなく、はるかに軽い情報蓄積で済む。

<言葉が2重構造になっていることに気付いた瞬間>

私が言葉の2重構造に気付いたのは、大学生の物理の授業中だった。私は小6の後半から独学で英語を学び始めたが、中2になった頃には日常会話に不自由を感じなくなった。それに目をつけたアメリカ人宣教師は、中3の時から私のために通訳準備の個人レッスンを開始し、高校1年になると英語の礼拝メッセージの通訳をさせるようになった。最初は下手だったが少しずつ慣れ、高校を卒業する頃には通訳のプレッシャーが薄れていった。

大学入学後、物理が好きだった私はためらうことなく物理を選択した。教授は米国人で、それまでは外から通訳を連れて来ていた。でも、私のことを聞いた教授は、それまでの通訳を断り、受講生である私に2年間も通訳させた。別に苦ではなく通訳するのが楽しかった。

でも、ある時不思議なことに気付いた。それは通訳する前に通訳が終わっていたことだ。すなわち「英語から日本語に訳す」というプロセスが存在しないことに気付いた。通訳なのに通訳していないという不思議な現象が起こっていたのだ。

私は英語の音声を聞いてはいたが、実際は英語音声がもたらす意味(イメージ)に神経を集中させていて、脳内に記憶されていったのは英語ではなくイメージ(意味)だった。そして、教授が通訳を促すタイミングで、間髪を入れずに記憶に残っているイメージを日本語音声という媒体を使って再生させていたにすぎなかった。この時、言葉は脳内言語(中枢言語)と音声言語(外的言語)の2重構造になっていることに気付いた。

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脳内言語(中枢言語)は、人が人として生きていくためのあらゆる要素、すなわち、理論的発想、思い、理解、概念、思考、意志、感情、入力情報の整理、記憶などの全ての精神機能・精神活動を包括している。そして、人は膨大な潜在的思惟の中から他人に伝えたい具体的思い(イメージ)を音声言語(外的言語)に変換し、言葉として話すことになる。私はさらに、音声言語自体には意味がなく、一種の記号にすぎないということも分かった。

<言葉が2重構造になっていることの証拠>

言葉は脳内言語(中枢言語)と音声記号(外的言語)の2重構造になっているが、脳内言語は脳にダメージを受けない限り失われることはない。でも、音声言語は完璧に失われたり、別の音声言語に入れ替わったりすることがある。もちろん、音声言語を複数所有することも可能だ。

言語が2重構造になっていることの証拠として、次のような例がある。例えば、日本人の子どもが親の都合で米国に移住すると、9歳以下であれば、ほんの2~3カ月で英語をほぼ完璧に習得してしまう。幼稚園や小学校に入学しても、言葉の壁を感じることなく友達と遊び、授業内容も十分理解する。

でも、英語が母国語レベルに達したとしても、10歳未満(子どもによっては多少の年齢のばらつきがある)の時に帰国し、英語に触れずにいると、その子どもはほんの2~3カ月で英語を完璧に忘れ、日本語しか使えなくなってしまう。

でも、英語を完璧に忘れてしまった子どもは、米国で友達と英語で話した会話の内容や、英語で習った授業内容を忘れてしまうことはなく、日本の友達にそれらの体験や習得内容を日本語で説明することができる。もし言葉が2重構造になっていなければ、英語を忘れたとき、英語で習得した全ての記憶や体験も失うことになる。

でも、英語音声は記号にすぎず、全てのことが脳内言語として記憶されるので、英語を忘れてしまっても記憶に関しては何の影響もない。唯一の問題は、体験談や学習した内容を日本語でしか表現できないことだ。

もう1つの興味深い例がある。当然のことながら、私は日本人とは日本語で話し、日本語を知らない人とは英語で話す。いずれにせよ、話が盛り上がり、会話内容が脳裏に鮮明に刻まれることがある。何年か後に過去の会話の内容を思い出し、別の人に伝えることがある。

でも、過去の会話が英語で行われたのか、あるいは日本語だったのか思い出せないときがある。内容は鮮明に覚えていて、日本語でも英語でも再現できる。同じようなことを言った人が私以外に何人もいる。言葉が2重構造になっていなければ、こういう体験はあり得ない。

英語お宝情報(7)言葉の2重構造とその比重 木下和好

内容は覚えているのに、何語で話したかは覚えていない 。

<外国語を覚えるときの脳への追加負荷量>

言葉の2重構造が分からない人は、外国語を習得するとき、5テラバイトの追加作業になると考えがちだが、実際は思ったよりずっと軽い。

世界中の全ての人が生まれたときから保有している脳内言語(中枢言語)は、体が成長するように成長していく。言語能力の総容量が例えば5テラバイトだった場合、脳内言語の容量は4・5テラバトで、そこに0・5テラバイトの音声言語が張り付き、全体として5テラバイトになると考えるのは合理的である。

もちろん、数字や比率は仮想にすぎないが、脳内言語(中枢言語)の比重が高いことだけは確かである。そして音声言語(外的言語)の容量が少ないのは、音声言語自体に意味は無く、記号にすぎないからだ。

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以上の理由から、日本人が英語を習得するとき、人類共通の脳内言語はすでに備わっているので、5テラバイトの追加作業ではなく、0・5テラバイトの追加作業となる。なので、英語を習得するのは、人が想像するよりかなり軽い作業ということになる。

<言葉の2重構造を理解すると多くの道が開かれる>

私は大学生の時に言葉の2重構造に気付いたが、それがベースとなり、多くの道が開けてきた。

  1. 言葉の2重構造理解は、同時通訳メカニズムを明らかにし、また技術向上に貢献する。(通訳メカニズムに関しては、別の記事で扱う)
  2. 言葉の2重構造理解は、人間のコミュニケーションで生じる誤解の原因を解明し、また解決することができる。(別の記事で詳しく述べる)
  3. 言葉の2重構造理解は、語学習得メカニズムを明らかにし、何をしたら効果的学習となるかが分かる。(YouCanSpeak は言葉の2重構造から語学習得メカニズムを突き止め、開発されたスピーキング教材)

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木下和好

木下和好(きのした・かずよし)

1946年、静岡県生まれ。文学博士。東京基督教大学、ゴードン・コーウェル、カリフォルニア大学院に学ぶ。英会話学校、英語圏留学センター経営。逐次・同時両方向通訳者、同時通訳セミナー講師。NHKラジオ・TV「Dr. Kinoshitaのおもしろ英語塾」教授。民放ラジオ番組「Dr. Kinoshitaの英語おもしろ豆辞典」担当。民放各局のTV番組にゲスト出演し、「Dr. Kinoshitaの究極英語習得法」を担当する。1991年1月「米国大統領朝食会」に招待される。雑誌等に英語関連記事を連載、著書20冊余り。

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