安保法制法をめぐって―戦争する国づくりに抗議する―(1) 宮本栄三

2015年10月14日18時29分 執筆者 : 宮本栄三 印刷
+宮本栄三氏
宇都宮大学名誉教授(憲法学)で「九条の会・栃木」共同代表のクリスチャン憲法学者・宮本栄三氏(日本基督教団四條町教会員)=6月29日、栃木県内にある宮本氏の自宅で

はじめに

この夏は本当に異常な夏でした。気候の上では記録的な暑さ、そしてあの豪雨による鬼怒川の氾濫です。政治の上では、安保法案をめぐる国会審議です。この法案に反対するデモが国会前や全国各地で行われました。そして9月17、18日に、参議院で強行採決されてしまいました。私はその時の様子をテレビで見て、これはもうこの国の立憲主義を否定し、議会政治を根本から壊そうとしているという危機感を覚えました。法案を予定の日(9月19日)までに通そうという安倍政権の暴挙です。皆さんも既に新聞やテレビでよくご存じのことです。反対デモに参加された方もおられるでしょう。

私は思うのです。戦後70年、わが国が平和国家として歩んできた道を、また逆戻りし始めたということです。私はこの1年の間に既に2回、安保法について講演を頼まれました。その時、「戦後から戦前への流れを止めよう」という題をつけました。今年は、戦後70年の節目の年です。戦後から戦前へというと、時間の逆流です。私が「戦後」と言うとき意味しているのは、憲法です。「戦前」と言うとき意味しているのは、この憲法の平和主義を壊そうとしている今の政治です。特に安保法のことです。戦争を放棄した戦後の日本が、また戦争への道をたどり始めたということです。そうです今、新しい「戦前」が始まろうとしています。

私はクリスチャンとして今、言っておかねばなりません。戦争を、殺し合いをしてはならぬ、と。私は今85歳、昭和5年(1930年)生まれの戦中派です。あの悲惨な戦争のことは忘れられません。ですから今、新しい「戦前」が来つつあるという危機感を強く持つのです。そのことをこれからお話しします。安保法については、分からないことがたくさんあると思います。皆さんもいろいろ質問や意見をお持ちでしょう。

1. 日本国憲法の平和主義

まず、戦後の「原点」から話を始めます。日本国憲法は、国民主権、人権尊重、そして戦争放棄の平和主義を原則にしています。憲法の「前文」に3つの基本原則がうたわれています。その終わりのところで、平和主義をうたっています。「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と言って、「平和的生存権」をうたっています。平和的生存権は大切な基本的人権です。

次に、平和主義の中心になる規定は憲法9条です。9条は1項で、戦争と国際紛争を解決するための手段としての武力による威嚇またはその行使を放棄する、としています。2項で、戦力を持たない、国の交戦権を認めない、としています。戦争をしない、戦力を持たない、交戦権も認めない。ここまで徹底した平和主義を定めた憲法は、世界中他にはありません。これは、70年前に終わったあの悲惨な戦争の反省として生まれたのです。

2. 安保法の問題点とは?

この平和主義を正面から否定するのが安保法です。批判勢力はこれを「戦争法」と呼んでいます。この安保法の何が問題なのでしょうか。結論を先に言いますと、安保法の問題点は、①憲法違反の法律である、②これまでの歴代政府が取ってきた憲法解釈とそれに基づく安全保障政策を根っこから覆す、③このような法律がつくられると、この国の立憲主義が壊され、法的安定性が失われる――この3点がポイントです。

1)安保法問題のプロセス

それでは、この安保法問題がどのようなプロセスで起こってきたのかを先に見ておきましょう。第1次安倍内閣が2006年に組閣したとき、真っ先に言ったのが「戦後レジームからの脱却」でした。それはすなわち、憲法を改正するということです。教育基本法を改め、憲法改正国民投票法をつくり、憲法改正への準備を始めました。そして2012年12月、第2次安倍内閣になって具体的に改憲工作を始めたのです。

まず、憲法96条が定める改憲の手続きを緩めようとしました。しかし、これはまるで裏口入学のようなことだと批判され、中止しました。そして考えたのが閣議決定です。内閣だけで簡単にやれることはないか、そうだ閣議決定だ、閣議決定で憲法の解釈を変えよう、と考えたのです。その準備のために「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)という安倍晋三首相の私的諮問機関をつくり、そこで検討させました。

その報告書が昨年5月15日に出され、そこに書かれていたのは、アジアの現在の情勢から見ると、日本の安全保障の仕組みを変える必要があるということでした。この提案に基づいて安倍内閣は、昨年7月1日、集団的自衛権を憲法上使えるということを閣議決定で決めたのです。これは、内閣が憲法9条の意味を読み替えて、日本を戦争のできる国につくりかえるということです。これが昨年7月1日の閣議決定です。

そして昨年12月、消費税とアベノミックスの是非を問うあの衆議院解散と総選挙で、自民・公明の与党は大勝利し、衆議院議席の3分の2を占めました。これで安倍内閣は一挙に改憲政策を動かし始めたのです。それは、集団的自衛権を公に使えるようにすることです。今までの内閣は、集団的自衛権は憲法違反だとして認めてきませんでした。

2)集団的自衛権とは何か

まず、集団的自衛権とは何でしょうか。これは国連憲章51条が定める自衛権の一つです。第2次世界大戦の後、国連憲章がつくられ、そこでは武力の行使、つまり戦争を原則として禁止しています。その例外を認めているのが51条です。「加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない」としています。

つまり、自衛権には2つあります。1つは個別的自衛権です。これは自国が外国から攻められたとき、自国を守るため反撃する権利です。これは固有の意味の自衛権です。もう1つの集団的自衛権は、自国と密接な関係にある外国が武力攻撃を受けたとき、その外国を守るため武力を使って反撃する権利とされています。もっと分かりやすく言うと、個別的自衛権はどの国も持っている固有の自衛権です。これに対して集団的自衛権は、国際法上の権利で、同盟国を守るための権利なのです。本来の自衛権ではありません。他の国を守る他衛権です。自衛権ではなく他衛権です。

こんな集団的自衛権が、なぜ国連憲章に入っているのかというと、1945年、まだ太平洋戦争が続いている6月にこの憲章がつくられたのですが、米国は戦後の世界でソ連と敵対関係になっていくことを恐れ、同盟国と共に戦う用意をしたのです。つまり、戦争への準備のためにつくり出されたのがこの集団的自衛権なのです。この権利に基づいて、米国は北大西洋条約機構(NATO)をつくり、各国と軍事同盟を結び、対ソ連戦略機構をつくったのです。ソ連も負けてはいません。それに対抗する戦略機構をつくり、こうして続いたのがあの冷戦です。わが国と米国は日米安全保障条約による同盟国です。それでは米国が攻撃されたとき、わが国は集団的自衛権を使えるか。ここが問題点です。米国は執拗にそれを求めています。

3)従来の政府見解はどうだったのか

それでは、これまでのわが国の政府の考えはどうだったのでしょうか。田中内閣以降の歴代内閣は、それはできないと言い続けてきたのです。なぜか。集団的自衛権は国際法上の権利であって、わが国もそれを持っているが、憲法による制限があるから使えないというのです。憲法上の制限というのは憲法9条のことです。

これまでの政府の憲法9条の解釈は、自衛隊は軍隊ではない、自衛のための専守防衛の実力装置である、この自衛隊ができるのは、わが国が攻撃されたとき必要最小限の武力によるわが国の防衛である、ということです。これを「専守防衛」といいます。この解釈は、1972年の田中内閣以降、歴代の内閣がずっと言い続けてきた憲法9条の解釈です。これによってわが国の安全保障政策が立てられてきました。40年以上もの間、この安全保障政策が守られてきたのです。もちろんこの政府の憲法解釈と政策に対して、社会党や共産党は違憲だ、解釈改憲だと批判してきました。憲法学者や国民大衆からも批判されました。しかし、歴代の政府はこの政策を続けてきたのです。

ここで一つ例えを話します。あのベトナム戦争の時、自衛隊はベトナムへ行かなかった。はっきり断った。憲法上、それはできませんと断った。韓国は米国と同盟国ですから断れない。1964年から9年の間に韓国は延べ30万の軍隊を派遣し、激しい戦闘をした。ベトナム人をたくさん殺した。韓国軍も約4700人が戦死しています。今度、集団的自衛権を認める安保法ができたので、韓国のようなことが起こる可能性があります。(続く

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