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自分の弱さ隠さなくてもよい場所を 札幌・ススキノの「平成駆け込み寺」

2015年7月31日17時29分
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関連タグ:シロアムキリスト教会鈴木啓之自殺・自死平成駆け込み寺
自分の弱さ隠さなくてもよい場所を 札幌・ススキノの「平成駆け込み寺」+
昨年4月に札幌市中央区にある繁華街すすきのに、悩みを抱えた人々を受け入れる「平成駆け込み寺」を開設したシロアムキリスト教会(千葉県柏市)の鈴木啓之牧師(写真: ハンド・ワークデザイン提供)

昨年4月、札幌市中央区にある繁華街すすきのに、悩みを抱えた人々を受け入れる「平成駆け込み寺」が開設された。立ち上げたのは、ヤクザ時代に生死の極限まで追い詰められた中で、イエス・キリストとの劇的な出会いによって救われたシロアムキリスト教会(千葉県柏市)の鈴木啓之牧師。開設から1年余り、その働きについて、平成駆け込み寺の施設長でもある鈴木牧師に聞いた。

開口一番、鈴木牧師は一人の男性から電話を受けたことを話した。「生活保護を打ち切られ、もう生きていけない。役所の冷たさへの仕返しのために自殺する。その前に先生の声が聞きたかった」。そう言ったきり、名前も居所も告げずに電話は切られてしまった。鈴木牧師は、「役所は、窓口に来る人についてこれまで生きてきた過程を知らない。だから、助けを求めてくる人に対しても事務的な冷たい対応になってしまう。国民の小さな声に耳を傾けていれば、自殺を食い止めることができたのではないか」と話す。

「北海道は、自然に恵まれ、実り豊かな地でありながら、人々の心はひどく傷ついている」と鈴木牧師。すすきのは日本有数の繁華街で、そこには、自分を見失い、自身をコントロールできなくなってしまった若者が大勢いるという。観光客が北海道の大自然に癒やされるといくら思っても、実際にそこで暮らす人々にとっては、低賃金や失業といった暗たんとしたものがあるという。そういった状況の中、地元の企業から「若者の命を助けてほしい」という要請を受け、平成駆け込み寺を立ち上げた。

キリスト教の教会ではあるが、名前はお寺。この不思議なネーミングについて尋ねると、鈴木牧師は、「まず、何だろう?」という興味を持ってもらおうと思って付けたと理由を説明する。「平成駆け込み寺 あなたの人生のやり直しをお手伝いさせていただきます」と表紙に書かれたパンフレットは、表紙だけでは教会だとは気付かないが、中を見ると、前後を十字架で囲んだ「Siloam Christ Church」の文字が目に入る。この目を引くパンフレットが、すすきの飲食店やカラオケ店などに置かれている。

自分の弱さ隠さなくてもよい場所を 「平成駆け込み寺」立ち上げから1年
開設から1年余り、鈴木牧師は、毎週日曜に千葉の教会で礼拝を終えた後、その足で札幌に行き、その日の夜に平成駆け込み寺で礼拝を行っている。(写真:ハンド・ワークデザイン提供)

鈴木牧師は「教会は、誰でも駆け込める場所でなければいけない」と話す。実際、平成駆け込み寺には、家庭内での問題を抱える人や借金で困り果てている人、さらには薬物など犯罪に手を染めてしまった人など、さまざまな悩みを持った人たちがいる。「どんな人でも、どんな悩みでも、手を差し伸べ、愛と赦(ゆる)しの神様を体験させることができる場所が教会。そのことを知ってもらうために、日本語としてしっくりする『駆け込み寺』という名称を使った。まずは、悩みに耳を傾けてくれる場所があるということを広めたかった」と言う。

悩みを打ち明けられる場所作りに鈴木牧師がこだわるのは、一つの体験があるからだ。東京での生活に行き詰まりを感じ、札幌に死に場所を求めてやって来たある男性が、なかなか死にきれず自暴自棄になり、インターネットカフェで救済を求めてネットで検索する中、平成駆け込み寺を見付けて駆け込んできたのだ。その時、男性はカバンに自殺するための包丁を忍ばせており、鈴木牧師は「もし、彼がこの教会を知らないまま、その包丁を使っていたらと思うとゾッとする」と振り返る。

自分の弱さ隠さなくてもよい場所を 「平成駆け込み寺」立ち上げから1年
(写真: ハンド・ワークデザイン提供)

豊かさの一方で生み出される格差社会の中で行き詰まり、多くの人が悩みを抱えているが、自分の弱さをさらけ出すことはなかなかできない。一方、わがままと自分らしく生きることは違う、と鈴木牧師は話す。教会だけど名前はお寺というそのネーミングが示す通り、平成駆け込み寺は、宗教にとらわれず誰でも気軽に行くことができる。キリスト教の考えを押し付けるのではなく、「自分の罪」を知り、そこにイエス・キリストの愛と赦しがあることに気付かせ、新しく人生をやり直す手伝いをする場所だ。

開設から1年余り、鈴木牧師は、毎週日曜日に千葉の教会で礼拝を終えた後、その足で札幌に行き、その日の夜に平成駆け込み寺で礼拝を行っている。月・火曜日は電話や面談でさまざまな相談をし、週3日を北海道で過ごす。ボランティアによる協力・支援体制も整ってきており、北海道新聞など地元メディアでも取り上げられ、地域とのつながりもできてきた。しかし、その働きが本来の目的を達成するには3年はかかるだろうと、鈴木牧師は先を見る。

「キリストと結ばれる人はだれでも、新しく創造された者なのです。古いものは過ぎ去り、新しいものが生じた」(Ⅱコリント5:17)。平成駆け込み寺が支えられている聖書の御言葉だ。「人は弱い。だからこそ人々の悩みに耳を傾けていきたい。自分の弱さをさらけ出したときに、出会うべき神様と出会え、人生のやり直しができる」という言葉は、ヤクザの世界で死ぬより他に選択肢がないところまで追い込まれ、救われた鈴木牧師のものだからこそ、より一層強く心に響く。

関連タグ:シロアムキリスト教会鈴木啓之自殺・自死平成駆け込み寺
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