クリスチャン憲法学者・深瀬忠一氏、安倍政権の「積極的平和主義」は「破滅的軍拡主義」に 時代は「国家の安全保障」から「人間の安全保障」へ(3)

2014年5月30日19時00分 インタビュアー : 行本尚史 印刷

■「積極的平和主義」は「破滅軍拡主義」に

政府がいろいろ政府見解ということで、内閣法制局の法務官僚、法務の専門家たちが知恵を集めて「集団的自衛権は持っているんだけども、行使はできない。行使は違憲だ」という判断がずっと政府の判断になってきていたんです。ところが第二次安倍内閣になってはっきりと集団的自衛権の行使に向けて政府の解釈を変えようという動きが強くなってきた。経済の成長をうまくやって、世界に広がった日本の不況、デフレを脱却すれば平和憲法は軽々しく乗りこえられるというような調子で、この集団的自衛権行使を容認する。

けさの新聞を見ると、6条件をつけるとか書いてありましたけど、条件を付けてもやっちゃえばもう集団的自衛権の行使で切り抜けられるので、究極的には、ベトナム戦争みたいな戦争にも、あるいはアフガンやイラクの戦争にも参加できるように変えようとしている。それを安倍さんは「積極的平和主義」という言葉でまとめて言っておりますが、私は「積極的平和主義」というのはとんでもない間違った言い方であるという強い批判をもっております。というのは、何をやっているかということを見ると、再稼働(原爆の潜在的開発)、それから原子力の輸出なんかにもみられるように、いざとなれば、あるいはテロになっても原子爆弾を使うぞということを容認する。そうするといったいどういう結果になるかということは、普通の頭で、あるいは学者ははっきりとわかります。それを容認することになります。

それがどうして積極的平和主義にはまりこんでしまうかというと、とんでもないことで、そうなってもやむを得ないという、いわば究極的にズルズルと破滅軍拡主義になってしまう。日本の軍事力はどんどん増やした方が国際協力になるというので積極的な“平和”主義などと言っているのですが、積極的というのは戦争に参加できる、それから“平和”主義というのは究極的には人類が破滅してもやむを得ない、しょうがないよという破滅を認めるような、事実上、――今は隠してます(特定秘密保護法案も可決)けれども――軍事力を拡張する軍拡主義、「破滅的軍拡主義」と呼ぶべきだと、私は今ではそう考えざるを得ない。これが私の基本的な見解です。あとは、明文改憲、そして明文改憲ができなければ同じような内容を実質的に改変解釈を政府の閣議決定でやり過ごせる。そして世界中の景気を、日本の景気を、「経済大国」を取り戻す。いったん大失敗をした「軍事大国」の破滅を繰り返す、違った形で繰り返してもやむを得ないような明文改憲および実質改憲の動きを進めているのが安倍政権であると思っております。

■ 決して侵されてはいけない「平和的生存権」

最後に一言。恵庭事件で無罪判決が出た。上告もしなかった。これはもう「確定」ということですから、―裁判の独立という観点から言えば、福島さんが最後までがんばって裁判の独立を主張したあの「裁判の独立」の原則と同じように、今も生きている。国民の基本的人権、とりわけ生命・自由・幸福の追求の権利。このうちの生命の権利、生存権という言葉を前文は使っていますが――これはドイツのワイマール憲法の影響ですけれども――、生命権がアメリカの独立宣言のトマス・ジェファーソンの書いた言葉の生命(life)という言葉が今や日本国民に当然のこととして保障されている。万一これを破った場合には、400人、600人、1000人の弁護団があちこちで起こってそれを防ぐぞという、生きた平和憲法がなお働いているぞということが、恵庭事件の確定の意味です。

というのは、どこの裁判所であれ、確定判決というのは裁判の独立と同様に重要です。司法権の独立とは違うんですね。司法権の独立というのは、司法官僚制の独立、つまり大津事件の児島惟謙が建てた原則は一応確立している。大逆事件の弊害なんかもありますけど、司法権の独立を一歩越えて、裁判所、司法権の内部においても裁判が独立の見解・判断をすると、そして国民の基本的人権、これを私は「平和に生きる権利」、「平和的生存権」と呼んでおりますが、平和的生存権は侵されてはならない。平和憲法がある以上、そして恵庭判決が確定した以上、今日も生きている。

そして、いくら三矢研究の新しい形の有事法制がいくら整備強化されても、その有事法制法を適用して国民の基本的人権を奪ったりあるいは制限を強行すると大変なことになるぞと。それは裁判の独立があるから、そして裁判の独立の典型例として、2008年4月17日の名古屋高裁の判断が――ああいう司法判断が出るとは私も想定しなかったんですけれども――、結論的には裁判所の判決のシステム上棄却になりましたけれど、その判断内容において自衛隊の違憲問題を否定的に解釈し、また平和的生存権という権利を憲法上の基底的権利であり、平和的生存権を裁判で認める場合があると判断し、「確定」したのである。例えば、徴兵・徴用制の強制をしたり、精神的自由や表現の自由を侵したり、私有財産の収用・立木の伐採とかを、国防・安全保障の軍事目的のため強行したような場合には、平和的生存権を侵したことになって、裁判所が救済するぞという、そういう判断が確定した。

そういう今の裁判の状況の中で、現行憲法および前文・9条が最高法規として生きている。つまり法的規範として、および政治的な規範として生きているということを、はっきり国民が自覚したうえで、それを実質的に、とりわけ明文的に改変したら、一番損をするのは日本国民・人民である。そして日本の近隣のアジア諸国のみならず全世界の国民の平和的生存権にとって大打撃になり、日本が平和国家でなくなるという選択をしてはならないと思う。

■「国家の安全保障」から「人間の安全保障へ」

日本国民によくよく考え、知っていただきたいと思うことがあります。今や世界の核・地球時代の趨勢は、「国家の安全保障」から人民の平和的生存権の安全保障、「人間の安全保障」へ。国家の安全保障ではなくて人間の安全保障へ。それが核兵器によろうとテロによる軽火器によろうと、平和的生存権を侵すことは許されないということは、もはや核・地球時代には常識となりつつある。

私が初めてパリで勉強を始めたあの1957年に深い感銘を受けたのは、あのパリの大学都市の脇の公園にトマス・ペインの「コモンセンス」という銅像が立っている。トマス・ペインの言葉に「私の宗教は善をなすことである(My religion is to do good)」という言葉が忘れられない。そのコモンセンスが崩れるか崩れないかは、日本の明文憲法・実質憲法を守っていくことができる時に初めて胸を張って言うことができる。

平和憲法が制定されてちょうど100年になるまであと33年先となった。67年も日本国民に愛されて平和憲法が続いてきたというのは、よほどよくできた憲法であるということを示していることを、世界の国民に胸を張って言える――今では矛盾している現実があるから胸は張れないが――、胸を張って言えるように、今後、平和憲法の法的規範性だけではなくて政治的な規範性――国会、内閣、行政府、地方行政府――に少しでも近づくように、平和的生存権を実行できることに近づけるように、努力を、あと100年の3分の1(制憲時「預言」(幣原)のとおり、※6)頑張れば、私はできないことはないと思って、体力は衰えても、「大志」は若く高い。必ずコモンセンスになると信じ望んで、努めているわけであります。

深瀬忠一(ふかせ・ただかず):北海道大学名誉教授(憲法学)。1927年高知県出身。陸軍士官学校、第一高等学校、東京大学法学部卒。戦後日本憲法学の第一人者である宮沢俊義・東大法学部教授の下で研究に従事。1964年から1990年まで北海道大学法学部教授を務めたほか、1977年から78年までパリ大学客員教授として日本国憲法に関する講義を行った。札幌独立キリスト教会執事。恵庭事件や長沼事件の裁判にも関わった。編著書に『平和憲法の確保と新生』(北海道大学出版会、2008年)、『平和憲法の創造的展開―総合的平和保障の憲法学的研究』(学陽書房、1987年)、『恒久世界平和のために―日本国憲法からの提言』など多数。著書『戦争放棄と平和的生存権』(岩波書店、1987年)は、日本平和学会編『平和を考えるための100冊+α』(法律文化社、2014年1月)で、その100冊のうちの1冊に選ばれた。また、樋口陽一・東北大学名誉教授とのフランス語による共著書『Le Constitutionalisme et ses Problèmes au Japon: une approche comparative』などもある。キリスト教に関するものでは『平和憲法を守りひろめる―北海道キリスト者平和の会の証し』(新教出版社、2001年)、『平和の憲法と福音』(新教出版社、1990年)、『平和憲法を守るキリスト者―恵庭事件における証し』(新教出版社、1968年)などがある。

■ クリスチャン憲法学者・深瀬忠一氏インタビュー:(1)(2)(3)

※6 ダグラス・マッカーサー著『マッカーサー回想記』下巻(朝日新聞社、1964年)の165ページによると、1946年1月24日、当時の幣原喜重郎首相が、「『世界は私たちを非現実的な夢想家と笑いあざけるかもしれない。しかし、百年後には私たちは予言者と呼ばれますよ』といった」と書かれている。しかし、この本の英語原書には、“but a hundred years from now we will be called prophets”とある(Douglas MacArthur, Reminiscences, Naval Institute Press, 2012, p.303)。そのため、本紙では深瀬氏の同意を得て「予言」ではなく「預言」と訳した。

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