殉教から2年後の2017年10月、リビアの海岸で奇跡的な発見があった。リビア当局は、シルト東部の海岸で21人の遺体を発見したと発表したのである。DNA鑑定の結果、それらは確かに2015年に殉教した21人のものと確認された。遺体にはオレンジ色の囚人服の断片が残されており、手は後ろ手に縛られたままだった。(第1回から読む)
エジプト政府は直ちに遺体の引き取りを申し出、2018年5月、21人の遺体は軍用機でカイロに移送された。空港では、タワドロス2世教皇自らが出迎え、棺に聖水を振りかけて祈りをささげた。その後、遺体はミニヤ県に建設された「信仰と祖国の殉教者聖堂」に安置された。
この悲劇的な出来事を単なる「恐怖の物語」で終わらせないために、短編アニメーション「The 21」が制作された。監督のトッド・ポルソン氏は、この作品に5年の歳月を注いだ。制作には世界24カ国から70人を超えるアーティストが無償で参加した。
制作チームは、まずエジプトを訪れ、コプト正教会の聖職者たちと面会した。そして何より重要だったのは、21人の遺族たちへの丁寧な聞き取りだった。母親たち、妻たち、子どもたちが語る殉教者たちの日常の姿、信仰生活、最後の別れの記憶。これらの証言が、作品の土台となった。
「The 21」は、全編がネオ・コプト風のイコン様式で統一され、正教会の伝統的な聖画美術を現代アニメーションに融合させた。血なまぐさいリアリズムを避け、代わりに光と色彩、象徴的な表現で殉教の意味を語りかける。
音楽を担当した Ayoub Sisters は、古代コプト聖歌の旋律を基調に、現代的な弦楽アレンジを加えた。その結果、画面全体が祈りの空気で包まれる。
わずか13分という短い作品の中には、教会が2千年の歴史の中で経験してきた殉教者の信仰が凝縮されている。死は敗北ではなく勝利であり、憎しみに対する答えは赦(ゆる)しであり、暴力に対する応答は愛であるという、逆説的な福音の真理が視覚化されているのだ。
作品は2024年に完成し、世界各地の映画祭で上映された。ユーチューブで無料公開されると、数週間で100万回を超える視聴を記録した。現在動画は200万回近い再生回数となっている。
アートが殉教の記憶を後世に語り続け、悲劇は希望の力に変容され得ることを「The 21」は見事に証明したのだ。テロリズムが生み出した闇を、作品は創造的な光で照らし出したのである。(続く)
■ リビアの宗教人口
イスラム 97・0%
プロテスタント 0・2%
カトリック 1・2%
正教 1・2%
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