用心深いミリアムは、リスクを回避するために、シェルターとして利用していたアパートではなく、自分の家に改宗した有力者の娘を受け入れることにした。しかし、それが裏目に出たのだ。彼女のことが警察に知られてしまった。牧師は突然国外に逃れ、教会の仲間たちも去り、ミリアムは孤独の中で子どもたちと共に信仰を守り続けていた。だが、ついにその信仰が最も厳しい試練に立たされたのだ。(第1回から読む)(人物の本名は伏せて変えてある)
ある日、ミリアムの家の扉が何度も激しくノックされた。警察が彼女の改宗を正式に突き止め、ついに家宅捜索に踏み切ったのだ。聖書が見つかり、その場でミリアムは逮捕されることとなった。
「子どもたちに最後の言葉を伝える時間を与えてください!」とミリアムは懇願した。泣きじゃくる子どもたちを抱きしめ、ミリアムは「怖がらなくても大丈夫よ。信仰を失わず、神様に全てを委ねてね」と語りかけたという。
拘束されたミリアムは、尋問とともに、身体的・精神的な拷問を受けることになる。「うそはつきませんでした。もちろん、恐れはありました。でもそれ以上に、主の臨在と力を感じていました」
その後、ミリアムは別の刑務所に移送されることとなった。そこでは55人もの女性が一室に押し込められており、劣悪を極める環境だった。そして、その収監されている人のほとんどが犯罪者なのだ。そこでの4日間は「まさに地獄のようだった」と彼女は振り返る。
だがそんな中でも、ミリアムは信仰を手放さなかった。ミリアムは、共にいた女性たちに福音を語り、祈り続けた。
やがてミリアムには、強制送還の決定が下された。父が、少女時代のミリアムと家族を連れて離れて以来、長年土を踏むことがなかった祖国へと、彼女1人が強制送還されることとなったのだ。
「それを聞いた瞬間、頭に浮かんだのは、子どもたちのことだけでした。どうしても彼らを守らなければならない。連れて行かなければいけない。私の胸は張り裂けそうでした」
出国当日、子どもたちがミリアムを見送りに駆けつけた。すでに車に乗せられていたミリアムを見つけると、移送の警官の制止を振り切って、子どもたちはミリアムを乗せた車に走り寄ってきた。
「お願いです! 母親として、子どもたちを最後にもう一度だけ抱きしめさせてください! どうかお願いします!」ミリアムが叫ぶように懇願すると、警官は無言でうなずいた。
「信仰を捨てちゃダメよ。お母さんは必ず戻ってくるから! お母さんとはしばらく離れていても、神様はいつも一緒だからね!」と伝える母親の最後の言葉を胸に、子どもたちは、走り出したミリアムの車をいつまでも見つめていた。しかし無情にも車は、子どもたちの泣き叫ぶ声が響く中、遠ざかっていったのだった。(続く)
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