中東のある国に住むミリアムは、イスラム教からキリスト教へと改宗したことにより、家族や自由、そして生活の基盤を失った女性である。彼女の安全のために、名前や居住国を明かすことはできない。今なお信仰故の迫害が続いているためだ。しかし、全てを失ってなお、彼女は主に従う道を選び続けている。(本名を伏せるため、登場する人物の名前は変えてある)
ミリアムは40代半ばの穏やかな表情をした女性で、小さなアパートに暮らしている。家具も少なく簡素な生活だが、その住まいには温もりがあり、もてなしの心に満ちている。訪問者にはすぐにお茶と自家製のお菓子を出してくれるその姿は、中東の伝統的なもてなしそのものだ。
敬虔なイスラム教徒の家庭に生まれたミリアムは、情勢の悪化を受けて、家族で他国に避難していたが、父親は新転地で安定した職を得て、家族の生活も安定していた。そんな家庭に育まれたミリアムは、中東では珍しくないことだが、10代のうちに結婚し、4人の子どもに恵まれた。そして、夫と子どもたちと共に平穏な生活を送っていたのだ。
しかし、そんな静かな日常は、夫のある変化によって揺らぎ始める。彼が、衛星放送で受信できるキリスト教のテレビ番組を見るようになったのだ。初めは「ただの好奇心だよ」と言っていた夫だったが、徐々に番組にのめり込み、心が変わっていったのだった。やがて夫はミリアムに、番組を通して、自分がキリスト教徒になったことを打ち明けたのだった。
「その時は衝撃で、言葉が出ませんでした」とミリアムは回想する。「『もう一緒に暮らすことはできません』と夫に告げると、彼は『仕方がない。どうしようもないんだ』と答えたのです」
離婚を求めたミリアムは、子どもたちを連れて血縁の叔父の家を訪ね、夫を離れてそこで暮らすことにした。しかし、そこから彼女の人生に思いがけない変化が訪れる。神は、ミリアムの心にも働きかけていたのだった。(続く)
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