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すみれ時計

すみれ時計(2)苦役 星野ひかり

2022年3月31日21時02分 コラムニスト : 星野ひかり
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すみれ時計(1)結婚前夜 星野ひかり+

ホテルの大きな窓から、ネオンに染まった街の光を見つめました。街はまるで、見えない炎に包まれているようでありました。この世界はもはや愛に冷えきって、真偽の分からぬ情報にまみれ、人の心を惑わし、焦がす炎が降り注いでいるようです。「しかり、わたしはすぐに来る」(黙示録22:20)と言い残された、イエス様の王としての再臨のときに思いはいざなわれます。空を包む暗い雲の上から天のラッパの音が響き渡り、栄光なる唯一の王が来られる日へと、心は吸い込まれてゆくのです。

夫となる人からメールの着信があり、はたとわれに返りました。「明日は早いのだから、そろそろ休みなさい」。そう私を気遣ってくれていました。明日の結婚式が済んだら、その足で役所に婚姻届けを出しにゆきます。そして、私は明日から1人ではなく、2人で1つの夫婦の歩みが始まるというのです。

もうよい時間になっていましたが、なかなかベッドに入る気になれません。独身最後のこの夜を、噛みしめ覚えておきたかったのです。

「もう一人ではなくなるなんて、考えられないわ。ずっと1人だったのだもの」。そう言う私にイエス様はうなずきました。すると、みるみると大きなすみれ色をしたすみれ時計が現れて、その針がさかのぼってゆくのを見つめました。私はイエス様と共に、すみれ時計の針がまわり、時間がさかのぼってゆく旅にいざなわれてゆきました。

*

私は暗い部屋で、鍵盤をたたいておりました。いつからか、居間にあったエレクトーンは私の部屋に運び入れられ、私のものになっていました。鍵盤をカタカタと鳴らすごとに甘い音色が広がって、その広がりは小さな宇宙を形づくるようでありました。小さな宇宙は私を蜜のように包み、守るようでありました。

学校にもゆかなくなってこの部屋にほとんど引きこもり、夕方にそろそろと起き出して、朝日が昇ると眠るような生活を送って、もう3年がたっていました。

部屋は世界と私を隔てました。この中にいる限り、部屋は私を守ってくれました。しかし一歩外に出ると、そこは刃の嵐でした。私はできるだけこの部屋から出ないように過ごしていましたが、なかなかそうはいきません。今夜も喉が渇き、お腹はグゥと鳴りました。1階にある台所に、不審者のように忍び込み、飲み物や食べ物を漁りましたが、冷えたみそ汁がわずかにとパサパサの鯖がラップもかけられずに置かれてあり、食べる気にはなれませんでした。

この夕食のように、家庭は私の存在を疎んじるように、冷えていました。将来に希望を持てない一人娘の存在は、父と母の心に重石のようにのしかかって、家はいつもどんよりと曇っていました。

私はパジャマの上にズボンをはき、ダウンを羽織り、玄関を出て自転車にまたがりました。いつの間にか、冬が世界に押し寄せてきておりました。道路のわきの植え込みの花たちも一斉に枯れ、木々も葉を落として細い枝を震わせるように凍えた世界が広がっています。

自転車をこぎながら空を仰ぐと、月星が冬の冷気に冴えた白い輝きを放っていました。どこかからサイレンの音が聞こえてくるような気がしました。私はサイレンの音から逃げるようにペダルの上に立ち上がり、車輪を早く回しました。冷気までも、細かい刃のように私の心を傷つけます。遠くにコンビニの明かりが見えました。もう少しです。しかし、コンビニの前に若い男女が座り込んで、談笑しているのが見えました。全員がいつかのクラスメートたちのような気がしました。その笑い声はまるで、私を笑いものにしているようです。自転車を倒してコンビニの中に逃げ込みました。

‘引きこもり’
‘この先どうするんだろうね’
‘かわいそう’

そんなささやきが背中を伝って体の中に入ってきます。私はせわしなくコンビニの中を歩いて、パンやジュースを大量に買いました。

倒れた自転車を立て直し、パンパンの袋をかごに詰め、ペダルを漕いで帰ります。私を笑いものにする、けたたましい笑い声が背中に響いておりました。‘生きられない’ そんな思いが心をびりびりと引き裂くようでありました。

私を守る小さな宇宙――自分の部屋に戻って、私は声を殺して泣きました。怖かったのです。この壁の向こうには、恐ろしい世界が広がっており、私はそこで生きるすべを何一つ持っていないのです。この小さな宇宙は、私を完全に守ってくれていました。しかし、出口はありませんでした。

震える手で、ピルケースをまさぐりました。お医者さんが出してくれている「不安なときに飲む薬」を口に放り、早く全身にめぐるようにかみ砕きます。苦みが口いっぱいに広がり、買ってきたお茶を飲み干しました。薬を見つめると、心は軽くなりました。そこには、「眠りたいときに飲む薬」「不安なときに飲む薬」「そわそわとしたときに飲む薬」「考えたくないときに飲む薬」「怖いときに飲む薬」「ウキウキしたいときに飲む薬」・・・さまざまな要求に応えてくれる素晴らしい薬のオンパレードでありました。‘精神科’ その優しい響き。私の心の欠けを許してくれる、私の唯一無二の存在でした。しかしどうしてでしょう。薬を飲むごとに、薬はどんどん増えていき、治療をするごとに、心の病がひどくなってゆく気がするのは気のせいなのでしょうか。私はもう、外の世界で ‘精神科’ 以外に、安心してゆけるところはなくなっていたのです。

母の胎の中のような、この小さな部屋を出たくない思いと、ここに居続けてはいけない思いが交互にやってきては自分を責め立てておりました。

それでも、分厚いクッションの効いたヘッドホンを耳に当て、鍵盤をたたくと、気持ちは楽になりました。EmとAmの悲しみのコードを基軸に、心を表す悲しい音色を響かせました。その音色に細い声を重ね、歌を歌いました。

‘きっとどこかで聞いている誰か’ の存在を信じていました。それは、広い空のどこかに住む、私の本当の家族――私のすべてを知っている誰か――私はその存在に向けて、歌いました。

いつか、この歌をいつも聞いてくれている ‘存在’ が、救いのないこの世界から私を助け出してくれる。私を迎えに来てくれる・・・。そんな思いは、通販で買ったいくつかの本がより確かなものにしてくれました。それは、この世界の神秘や不思議について書いてあるもので、未知の生命体の存在や、人間を超越した何かの存在、それらの力が宿っているパワースポットの紹介などが、ぎっしり記されていました。

目に見えない力を信じて、すがっていました。高価なローズクォーツのパワーストーンも買って、お守りにしていました。宙や土、石、水、風に、花や木々に宿る、言葉に尽くしようのない神秘の力を感じていました。目には見えない、大いなる力、私はそれを「神様」と呼び、「神様」への歌を歌って、この出口のない世界からの助けを待ち望んでいたのです。私を助けられるのは「神様」しかいないと思っていました。

そして神様に発する信号のように、私はエレクトーンをカタカタ鳴らし、歌を歌っていたのです。

♪いつかほほ笑んだ夢は
まぼろしのなかでとけて消えた
それでもなお、人生は続き
暗い鎖でつながれた
苦役のように、まぶたがひらく
いつか終われる日を
待ち望む日々よ
夢は
朽ちて、地に落ち、
屍たちと夢を見る♪

あくる日も、午後の3時すぎに目覚めました。薬で頭がぼんやりして、手足も重く、動きません。そのまま布団にくるまって、回らない頭でカーテンの隙間から差し込む光を憎々しく思っていました。夕方の4時を回った頃に空腹を覚えて、そろそろと手すりを伝って1階に降りていきました。台所には母がおりましたが、私はあいさつもせず、鍋の中を漁りました。

母は終始うつむき、私と目を合わせないようにしておりましたが、ふと、ため息が聞こえたのです。

「なんか文句があるのかよ?」

私は茶碗によそったばかりの味噌汁をひっくり返して叫びました。母の怯えた顔が一層しゃくに障り、「お前のせいだからな、ぜんぶお前のせいだからな!」そう叫んで母の肩を突き飛ばしました。

母は、私のひっくり返した味噌汁を台ふきで拭きながら、すすり泣いておりました。そのすすり泣きはカミソリのように、私の心に刺さっては、血がにじんでゆきました。大きな音を立てて自室のドアを閉めると、私は泣き崩れました。ハートが血まみれで、ドクドクと熱い血が噴き出して止まらないのです。みじめでした。

私はもうすぐ18歳になろうとしていました。

「普通だったら」進学のために、勉強を一生懸命している頃でした。
「普通だったら」好きな人もできていたかもしれません。
「普通だったら」将来の夢もあったことでしょう。
「普通だったら」週末は友達との約束があり、「普通だったら」親孝行もできていたかもしれません。「普通だったら」・・・

そうです、私は「普通」じゃないのです。まるで、自分が怪物のように思えていました。このどう猛で、悲しい怪物は、自分の力でも制御できず、私自身が手なずけられずにいたのです。私は声を上げて泣いていました。胸が絞られ悲鳴となって、部屋を、家を震わせるほどの大声で泣き叫んでいたのです。

すみれ時計の中で、私はイエス様に問いかけました。「イエス様、聞こえていましたか? 母の泣き声・・・私の嗚咽(おえつ)、聞こえていましたか?」じっと私を見つめるイエス様の瞳の深みから、聖書のみ言葉が聞こえてくるようでした。荘厳な音楽のような調べで、み言葉が心の深くに響きました。

「シオンは言う。主はわたしを見捨てられた。わたしの主はわたしを忘れられた、と。・・・女が自分の乳飲み子を忘れるであろうか。・・・たとえ、女たちが忘れようともわたしがあなたを忘れることは決してない。見よ、わたしはあなたを私の手のひらに刻み付ける」(イザヤ書49:14~)

イエス様の手のひらに刻まれた釘の痕を見つめました。この釘の痕こそ、私なのでした。この言い尽くせない痛みを負って、私の名を手のひらに刻み付けてくださったのが、私の主であり、王であり、神でありました。私はひざまずいて、主の足元にすがったのです。

「あなた様しかおりません」

(つづく)

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◇

星野ひかり(ほしの・ひかり)

千葉県在住。2013年、友人の導きで信仰を持つ。2018年4月1日イースターにバプテスマを受け、バプテスト教会に通っている。

■ 星野ひかりフェイスブックページ

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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