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すみれ時計

すみれ時計(3)シロツメクサの冠 星野ひかり

2022年4月14日13時01分 コラムニスト : 星野ひかり
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すみれ時計(1)結婚前夜 星野ひかり+

カーテンを下ろさなかった窓から一斉に差し込んでいた朝日のまばゆさで、目を覚ましました。寝ぼけ眼でいたところにフロントから電話があり、ご丁寧に朝食の用意が運ばれてきました。私はガウンのまま、香ばしいクロワッサンとハムとチーズ、コーヒの軽い朝食を取りました。「なんてぜいたく」と、つい笑いがもれました。

間もなく朝の7時。ホテルの2階にある美容室で、髪の毛のセットとドレスの着付けをする時間です。軽くシャワーを浴びて着替えると、美容室のある2階へとエレベーターを降りていきました。ピンクとゴールドを基調とした、クラッシックなホテルです。美容室に入ると、以前打ち合わせをしたスタイリストさんが慌ただしく準備をしておりました。

大きな鏡の前の椅子に腰かけると、丹念にブラッシングしてくれます。打ち合わせていた髪型は、シンプルなレースのドレスと真珠のアクセサリーに合わせて、根元から編み込んで、後ろでまとめる清楚(せいそ)なヘアスタイルでした。スタイリストさんは、甘いジャスミンの香りのするスプレーを髪の毛に染み込ませ、丁寧に編んでくれました。

私は、鏡の中に映る自分を見つめ、信じられない思いでいました。まさか、自分のようなものがこんな日を迎えることができるとは、夢見たこともなかったのですから。

鏡の中に、大きなすみれ色のすみれ時計が現れます。私は酔ったようにくらくらと、すみれ時計の針の中に吸い込まれてゆきました。「イエス様・・・」。すみれ時計の中にはイエス様の後ろ姿が見えました。その後ろ姿は「わたしについてきなさい」とおっしゃっているかのようでした。

*

相変わらず引きこもりと呼ばれる生活をしていた私は、自分の成人式もテレビで知るほどでした。そんな私にも、真夜中の散歩道に大事な友達がおりました。「悲しい巨人」と名付けたその友達は、家のそばの古い団地群でありました。団地の窓は、無数の瞳のようでした。

何十年にわたって、多くの人たちの暮らしをその体の中に収め、空から降り注ぐ見えない炎から人々の暮らしを守るように、抱き込んで、背負い込んでいる、巨大な巨大な団地たち。団地たちは、窓という窓の無数の瞳から涙をぽろぽろと流しているようでした。私は団地の中にある広場の小さな丘の上に体育座りをして、悲しい巨人たちの涙を見つめ、団地たちと呼応するように歌を歌っておりました。

♪空の星たちがきらめいて
信号を送る
私も信号を送る
団地たちと、この地の巨人たちと共に
送ってる
それはただ一つの願い

センソウが終わりますように
センソウが終わりますように
センソウが終わりますように
センソウが終わりますように
と♪

そのとき、「この団地では犬や猫を飼ってはいけません。餌やり禁止!」の立て看板の真ん前で、猫たちに囲まれた一人の女性がいることに気付きました。不思議な光景でした。猫たちが何の警戒心もなく群がって、その女性の肩や背中に乗っています。女性はプラスチックの容器になみなみと猫たちのご飯をよそい、猫たちはそれを食べました。そのさまは、まるで猫を従えた預言者のようでありました。

その女性は私に気付くと、かすれた声を張り上げて「あんた、何してんの?」と聞いてきました。私は不思議と何の警戒心もなく「団地と一緒に歌ってる」と答えたのです。

「団地と歌うの?団地が歌うの?」その女性は面白そうな顔をして私に近づいてきて、丘の上の私の隣に腰かけました。猫たちもわらわらとついてきました。こんなにたくさんの猫を見たのも、囲まれたのも初めてでした。「そう、あの窓が目で、柵は涙。涙をためて今にもこぼれそう。悲しそうでしょ」

団地を指してそう言う私に驚きもせず、「へえ!」と声を上げました。不思議でした。ただ隣にいるだけなのに、幼い頃からの友達のような気がしていました。「団地とどんな歌を歌うの?」そう聞かれて私は、少し戸惑いました。

その女性はキャットフードをお菓子のようにカリカリと食べながら聞きました。「ねえ、どんな歌?」私もピルケースから薬を取り出し、それをカリカリとかじりながら、じっと空を仰ぎ、「センソウが終わりますように」とつぶやきました。すると、その女性は明るく「そっか」と言うと、私の肩を抱いてゆすってくれたのです。その手は分厚く、とても温かかったのです。

ほどなくして、私は精神病院に入院となりました。自分の意志ではなく、医師の判断と家族の同意によって入院したのです。

昼も夜も、家の中も外も構わず歌を歌う私を、手の付けられないほどに病態が悪化していると判断したのでしょうか。しかし、それの何がおかしいというのでしょう。がなり立てるような大声で近所迷惑になるような歌い方をしていたわけではありません。旋律を重視して強弱をつけ、私なりの美しさを心掛けて歌っていたはずでした。家ではエレクトーンを伴奏に、外では風の音を伴奏に、世界の救いを求めて一心に歌っている私は狂人なのでしょうか。そんな世の中のほうがよっぽどおかしいと思うのは私だけでしょうか。

私は病室でも歌をやめませんでした。風の伴奏がない代わりに、天井からかすかに聞こえる空調の音が伴奏となってくれました。すると隔離室に入れられ、手足を押さえつけられて、注射を打たれました。私はとても悔しくて、泣きながら歌いました。

♪夢を見てた
蒼(あお)い蒼い夢を
見てたけど こわれた
夢の泡は はじけて
冷たい床と壁のなか

もう夢も 私を守りはしない
夢は 遠く
遠くで 今も誰かを
守るのでしょう♪

昼も真夜中も隔離室で、歌い続けておりました。四方がコンクリートの壁に囲まれて、トイレも隔たれておりません。天井からは監視カメラが角度をゆっくり変えながら、私を見つめていてくれました。

ある真夜中のことでした。巡回の看護師さんが扉を開けて、珍しく入ってきてくれました。そして、歌い続ける私の横にそっと座り、ただ歌を聞いていてくれたのです。なぜでしょう。それだけで十分でした。無機質な室内が甘く優しい香りで満ちていきました。看護師さんは何曲も歌を聞き終わると、「ゆっくり休むんだよ」と優しく言って部屋を出ていきました。

それから何日か後に、私は隔離室から出されました。隔離室から出ると、鉢植えの植物のうっそうと茂る、小さな楽園のような共有スペースが広がっておりました。大きな木の机で、私たちは作業療法と称して手芸を楽しみました。針と糸を使って、何枚もの端切れをつなぎ合わせ、好きな柄の布を作り、それを輪にしてゴムを通してシュシュを作りました。また、革細工に挑戦した日もありました。星や月や花の押し型を使って、花畑の上に昇る月と星を描いた皮のバレッタを作ったのです。

3度出される食事も、それはおいしくて、体にいいものばかりが並びました。鯖の南蛮漬けに切り干し大根、高野豆腐に炊き込みご飯。こんなにおいしくぜいたくな食事を、安心して食べたことなどなかったような気がしました。ここはまるで、戦いのない世界のようであったのです。いつも隣に座ってくれる眼鏡の女の子は、それは優しく、自分のものを何でも分けてくれました。紅茶のティーバックにコーヒースティック、私の吸えないたばこまで。

私は突如降って湧いた夏休みを楽しむように、そこでの暮らしを満喫しました。ここにいる人は皆優しく、看護師さんたちも家族のように労わってくれました。私は幸せでありました。突然、世界に陽光が差し、野花咲き誇る草原で花を摘んで戯れる幼子のような日々を過ごしたのです。

*

ドレスの着付けも終わりました。頭にはシルクのベールをシロツメクサの冠が縁取っておりました。鏡の中に映る自分を見つめていると、同じく準備が整った夫となる人がやってきて、携帯のカメラを開いて一生懸命私を撮影し始めたのです。それがあまりに必死なもので、この平和な光景を、どこか心ここにあらず見ている自分がおりました。

父も柄にもなくタキシードに身を包み、緊張で石のようになっていました。私はそっとピルケースを取り出すと、薬を取ってかじりました。そして大きく深呼吸をすると、先導する介添人さんの後に続き、父の手を取り、バージンロードを歩きました。たくさんの人たちの顔が見えます。皆拍手をして、涙ぐんでいる人たちも。なぜでしょう。その中に、いつかの猫のお姉さんや、閉鎖病棟のお友達たち、看護師さん・・・いるはずのない人たちの顔も見えるようでありました。

牧師先生が司式をし、聖歌を歌い、指輪の交換・・・式は緊張の中であっという間に終わりました。そして披露宴会場へと移動して、料理を楽しみながら歌や祝辞を頂きました。

半年もかけて準備をした結婚式は、あれよあれよという間に終わりました。気付けばへとへとで、ほとんど食事も食べていませんでした。

一切が終わり、花嫁の控室に通されると、ささやかな食事が準備されておりました。私はベールを留めていたシロツメクサの冠を胸に抱き、イエス様へと小さく歌をささげました。

♪花嫁の夢を 少女たちは誰もが見て
野花を摘んで 冠を作った

神様は私たちをご自身の花嫁という
自分の瞳をまぶたが守るように
私たちを愛し守るというの

その方は 命に代えて 私たちを花嫁と迎える
命を捨てて愛してくださる 唯一の方よ

神様は私たちにシロツメクサの冠を
編んでくれるの

ご自身はいばらの冠に 額に血をにじませながら
私たちにはシロツメクサの白い花の冠を編んでくださる
お優しい方なの♪

イエス様は私の歌を聞き、ほほ笑んでくださいました。そして、静寂の響きでささやきました。

「わが愛する者が娘たちの間にいるのは、茨の中の百合の花のようだ」(雅歌2:2)

・・・私も告白しましょう。イエス様。「私はシャロンのばら、谷間の百合」(雅歌2:1)あなたを愛するものです、と。(つづく)

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◇

星野ひかり(ほしの・ひかり)

千葉県在住。2013年、友人の導きで信仰を持つ。2018年4月1日イースターにバプテスマを受け、バプテスト教会に通っている。

■ 星野ひかりフェイスブックページ

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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