世界自転車旅行記(11)レバノン、ヨルダン 木下滋雄

2015年7月3日14時08分 コラムニスト : 木下滋雄 印刷
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前回の続きで2006年5月、シリアのホムズからレバノンの国境に向かった。レバノンは48時間以内の滞在なら国境で通過ビザがもらえるため、ダマスカスへ行く途中寄っていくことにした。レバノンは1970年代から内戦をしていたので、その名を聞くと子どもの頃に埋め込まれた危険な場所という感覚があるが、実際はどんなところであろうか。

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レバノン山脈をバックに

国境を越えて町に入ると、道の脇に大きな教会があった。それは日曜日の朝であったのでちょうど礼拝のためにたくさんの人が来ていた。中東はイスラム圏なので教会はほとんどないと勝手に思い込んでいたが、知識不足であった。この地にはもともとクリスチャンが多く、第一次大戦後にも集まってきたそうで、特にマロン派と呼ばれるクリスチャンが多い。言葉は分からないものの、礼拝に顔を出してみた。

48時間以内に出国しなければならないので、あまりゆっくりはしていられない。この日はバールベックという世界遺産の遺跡を見た。レバノンの国旗にも描かれているレバノン杉は、かつてはレバノン山脈に広がっていたが、今は一角にわずかに残るのみだという。ノアの箱舟の材料だったという説もある。平原の中を、道は山脈を右手に見て南下しながら、少しずつ高度を上げていく。

飲み物を買おうと寄ったお店で、「お茶飲んでいかない?」と誘われた。思った以上にペースよく走ってこられたので、ちょうど裏庭でやっていたお茶会に入れてもらった。

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町の八百屋さん
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招待された裏庭でのお茶会

バールベックの街に着いて遺跡を見る。この名は、旧約聖書にも出てくるバアルの神を祭ったことが由来だという。遺跡の中でも、大部分は損壊してしまっているが、神殿跡に残る「6本大列柱」は、バールベック遺跡の象徴となっている。残る柱から、元々この神殿がかなり巨大だったと想像できる。

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バールベック遺跡の神殿
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レバノン山脈をバックにアンジャール遺跡

遺跡を見終わって街を回ってみる。先ほどのお茶会もそうだったが、レバノンの人はかなりフレンドリーだ。商店街で呼び止められて、水たばこを吸わせてもらったり、コーラを頂いたり、抱いていた危険な場所というイメージとはかなり違う。

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バールベックの街の中で
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バールベックの市場にて
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バールベックの市場で水タバコを頂いた

でも話をする中で、「ある日家に軍人が入ってきて、今日からこの土地は俺たちのものだから出ていけと言われたらどう思うか」と聞かれて詰まった。イスラエル建国はそうしてそこにいた人たちを追い出してできたもの。イスラエルのこと以外にも最近のイラク戦争など、この地は欧米の都合で振り回されてきた歴史があるのだと思う。

ここの宿で面白いと思ったのは、バスルームに便器が2つ、洋式とアジア式とあることだ。いろんな民族の人が出入りしているのだろうということが、そんな所からも見て取れる。

翌日もパンを買ったお店の前で食べていると、店員の女性が食べ物をくれた。レバノンの印象さらにアップ。しかし帰宅後1カ月した頃、イスラエルとの紛争が再び起こり、この町もバールベックも爆撃を受けた。

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バールベックの朝

峠を越えて再びシリアに入り、ダマスカスへ寄ってヨルダンへ入る。ここまで峠以外は大体フラットな土地だったが、ヨルダンの西側は山がちの土地となる。山といってもここは上るのではなく海面下400メートルにある地球の最も低い地である死海を目指して降りていくのであるが。

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ヨルダン・ジェラシュ遺跡の劇場跡

ヨルダン川に下りていく途中、石を投げられた。また谷底で南下する道を走っていると、横にトラックが付いてのろのろ走っていて、なんだかいやな感じだと思ったら、背中に石を当てられた。いったい何なんだ? ヨルダンはもう走りたくない。

その夜、ホテルが見つからない。死海まで行けばリゾートホテルがあると思うが、高いし僕には似合わない。一応現地人の使うドミトリーがあって、そこには泊まれるという。「宿」に行くと英語は全く通じない。こちらの片言のアラビア語で通じはするものの、向こうの言っていることはかなり方言があってさっぱり分からない。

お世辞にもきれいと言えない部屋の中のベッドを1つあてがわれて、宿泊者の食べていたものを分けてもいただけたが、ほぼ雑魚寝で満足な食事でもないのに料金はしっかり取られた。それでも屋根と食べ物があるのは感謝である。

翌日は死海へ。反対側はイスラエルである。死海の南端まで走ったところで東側の山を登って頂上のカラクという町を目指す。しかし海面下の盆地は5月とはいえ、熱がこもってかなり暑く、ペースが上がらない。日没までに着くか怪しくなってきた。そんな時にトラックが止まって乗っていくかと言うので、渡りに船、数日前のシリアの時と同じく、またも乗せてもらうことにした。

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死海湖畔からイスラエル方向を望む

カラクの町に早く着いたので、ゆっくり見て回ることにした。ここは十字軍が砦を築いたところである。町を歩いていると呼び止められて、水タバコとコーヒーを頂いた。いやな思いをすることがあっても、いい人もいるのだ。当たり前だけれども。

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ヨルダン・カラクの街のお土産屋さんにて
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ヨルダンの町の子どもたち

そこから南下する道は「王の道」。モーセがエジプトからカナンへ行く時に通ったといわれている。聖書を読んで漠然と平らな砂漠を歩いていったと思っていたが、カラクは標高1千メートル、谷底は海面下400メートルで、相当な起伏がある土地だ。谷底に降りて再び暑さの中あえぎながら登っていると、またも車が止まってくれた。今回はかなり軟弱な自転車旅行である・・・。

登りをショートカットしたので、今回の目的地であるぺトラ遺跡では丸一日ゆっくり見て回る時間ができた。自分の建築事務所をぺトラと名付けているし(それはマタイ7:24の岩(ギリシャ語でぺトラ)から取ったのであるが)、映画や小説の舞台としても取り上げられるこの遺跡には、以前から来てみたかった。シークという入り口の細い谷底の道を行った先に、エルハズネと呼ばれる岩に彫られた巨大な宝物殿が現れた時は感動であった。どんなものがあると知っていてもこれだけの思いになるなら、初めてこれを見つけた人はどれほど感動したことだろう。

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『インディ・ジョーンズ最後の聖戦』のラストシーンに使われたペトラ遺跡のエルハズネ

宿泊はワディムーサ(モーセの谷の意)という町のホテル。隣の建物の中には、モーセが杖でたたいて水が出たといわれる岩があった。

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ヨルダンの首都アンマンの街の夕景

帰りはアンマンから飛行機に乗るが、その前にアンマンからモーセの最期の地であるネボ山へと走ってみた。山といっても、東側から行けば台地が死海の谷に落ち込む縁である。彼方にはエルサレム、眼下には死海とヨルダン川を望む。

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モーセ最期の地ネボ山からイスラエル方向を望む
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ネボ山にある教会の中で

この旅は旧約聖書の舞台に初めて踏み込んだ旅であった。自分の足でこの土地を回ってみて、聖書の書かれた背景がどんなであったかもう少し具体的にイメージできそうだと思った。

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木下滋雄

木下滋雄(きのした・しげお)

1964年横浜生まれ。フォト・サイクリスト。高校時代に自転車旅行と写真を開始し、30歳で五大陸走破を達成。これまでに60カ国延べ6万3千キロを走破している。現在はパラグライダーも楽しむ。ぺトラ建築設計一級建築士事務所主宰。

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