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政治と宗教の抑圧の中、パキスタンの音楽家がリンカーンセンターに挑む「ソング・オブ・ラホール」

2016年10月15日23時42分 記者 : 土門稔
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関連タグ:パキスタン

インド亜大陸の芸術の都ラホールの音楽家たち

パキスタンの都市ラホールは、かつては「インド亜大陸最高の芸術の都」として栄えた。伝統音楽の中心としても千年以上の歴史の中で、ムガル帝国時代は宮廷で、荘厳できらびやかな音楽が日夜奏でられたという。しかし1970年代末以降の軍事政権下のイスラム化政策により、音楽は禁止されて衰退し、音楽ファンも消えてしまった。

この映画は、ラホールの超一流の伝統音楽家たちが主人公だ。「国内に音楽ファンがいないなら、ジャズ界に打って出よう!」と、彼らは音楽スタジオに集う。ジャズアンサンブル「サッチャル・ジャズ・アンサンブル」を結成し、シタールやタブラなどの古典楽器による新たなジャズミュージックを作り上げていく。

一見不思議な組み合わせだが、誰でも耳にしたことがある「テイクファイブ」が、パキスタンの伝統楽器で奏でられるのは不思議な魅力がある。そして真剣に演奏する姿も、「女子十二楽坊パキスタン版」みたいでめちゃくちゃかっこいいのだ!

この演奏動画は、ユーチューブにアップされるとたちまち100万アクセスを超え、BBCでも放送されるなど、世界中で話題になる! さらには西洋音楽の殿堂、ニューヨークのリンカーンセンターに招待され、超一流のジャズビッグバンドと共演することになるのだ!

というわけで、筋書きを描いているだけでもワクワク胸が躍るようなドキュメンタリー映画だ。

NYで四苦八苦するメンバー、果たしてライブ当日は…

NYに渡ったメンバーは、リンカーンセンターの芸術監督を務めるトランペット奏者ウィントン・マルサリス(ちなみに彼は、これまでクラシック・モダンなどでグラミー賞を9回受賞している現代の世界のジャズ界のスーパースターだ!)率いるビッグバンドとコラボすることになるのだが、リハーサルでは、初めての本場のジャズバンドと全く音がかみ合わない。

シタール奏者はバンドから外され、急きょ新メンバーを入れ替えるはめに…。前日になってもさっぱり調子が合わずグダグダで、バンド一同みな険悪なムードになってきて、おもわず「おい!大丈夫のか!?」と、もはや見ているこちらは、子どもの学芸会を祈るように見守る父親の気分になってしまう(笑)

リハーサル後、とぼとぼホテルに戻る道すがら、バケツを叩いて演奏する黒人ストリートパフォーマーを見て、「俺らと同じ貧乏音楽家だな」と励まされるシーンも、NYの雰囲気がよく伝わってとってもいいシーンだ。

そして迎える演奏当日のセッションは果たして? この先はぜひ映画館でご覧になっていただきたい。パキスタンの伝統音楽とジャズが融合し、新たな泉となって吹き出し流れ出していくかのようで、ひたすら圧巻で豪快で素晴らしく、たぶん私と同じように思わず涙腺が緩むことをお約束する(笑)

中でも、見た目は冴えない(失礼!)中年の小太りでちょっと髪が薄い(これまた失礼!)タブラ(小太鼓)奏者のおじさん(バッルー・ハーン)が、もうほんとにめちゃくちゃかっこよくてかっこよくてたまらなく見えてきて、本当に素敵なのだ!

そのほかサッチャル・ジャズの映像はこちら。

ジャズとパキスタンの楽師たちをつなげる「虐げられた者の音楽」という共通点

ところでジャズは、黒人教会で歌われた霊歌(ブルース)やゴスペルと同じく、黒人文化の中から生まれ育っていった音楽だ。(関連記事:ファンクの帝王ジェームス・ブラウンの生涯に見る黒人音楽と信仰 「ミスター・ダイナマイト」)

リンカーンセンターの芸術監督の黒人トランペット奏者ウィンストン・マルサリスは、サッチャル・アンサンブルと共演したいと思った理由をこう述べている。

「ジャズは他者を受け入れてきた。虐げられた者の音楽だからだ」「そして彼らの伝統音楽の技術は素晴らしい」

政治と宗教の抑圧の中、パキスタンの音楽家がリンカーンセンターに挑む「ソング・オブ・ラホール」
「ソング・オブ・ラホール」©2015 Ravi Films, LLC

パキスタンの歴史の中でも、楽師たちはアウト・カーストとされる不可触選民階級で、のちにイスラム教の少数派シーア派に改宗したという。その子孫に当たる主人公たちも、社会的に差別され、1990年代に台頭したタリバン勢力に脅迫・襲撃されるなどの苦難や迫害に遭ってきたことが描かれる。

でも全く別ジャンルへの挑戦に四苦八苦しながらも「ジャズとわれわれの古典音楽は構造が似ている」「俺たちの即興演奏は欧米のジャズでやっていることと同じだ」と語る様は、国や文化が違えど、一流の音楽家としてのプライドを感じる。彼らもまた、パキスタンの「虐げられた者」たちなのだ。だからこそ、NYのリンカーンセンターの大舞台で、国境を越えて同じ「虐げられた者たちの音楽」である「ジャズ」に融合していく様は本当に感動的だ。

政治と宗教の抑圧の中、パキスタンの音楽家がリンカーンセンターに挑む「ソング・オブ・ラホール」
「ソング・オブ・ラホール」©2015 Ravi Films, LLC

ちなみに感動的なドキュメンタリーを作ったシャルミーン・ウベード=チナーイ監督は、30代の女性だ。パキスタンでの音楽や芸術への反発の中、伝統を守ろうとする音楽家たちの奮闘を記録したいと思い、この映画を撮り始めたのだという。「私はいつも社会から取り残された共同体の物語を明るみにすることを模索しています」「無視されてきた物語や伝えることさえできない声が、私の心に響きます」という言葉に、過酷な政治下の、クリエイターの決意と志が感じられる。

ちなみにサッチャル・ジャズはその後世界各地でライブツアーを開催しており、今年は東京でも、ライブを開催したとのこと。

感動的で元気をもらえるこの映画をきっかけに、ぜひ実際にその音楽を耳にしたいと思わされた。

■ 映画「ソング・オブ・ラホール」予告編

■ 映画「ソング・オブ・ラホール」公式サイト

関連タグ:パキスタン
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