中村哲医師が講演 「アフガニスタンの歴史、決してひとごとではない」

2016年6月30日13時45分 記者 : 守田早生里 印刷
+中村哲医師が講演 「アフガンの歴史、決してひとごとではない」
講演を行う中村哲氏。「医師は、命を救うのが仕事。アフガニスタンにおいて、命を救うことは水の確保が大きな仕事だ」と訴えた=10日、練馬文化センター(東京都練馬区)(写真:「市民の声ねりま」提供)

ペシャワール会医療サービス(PMS)総院長のクリスチャン医師、中村哲氏(69)が10日、練馬文化センターで講演を行った。テーマは、「アフガンからのメッセージ〜命をささえ、平和をつむぐ」。約1500人収容の大ホールは、中村氏の話を聞きに来た参加者でいっぱいになった。

「市民の声ねりま」主催で行われた今回の講演会。中村氏が講演を行うのは2003年に初めて練馬を訪れて以来、今回で6回目。アフガニスタンでは「100の診療所よりも1本の水路を!」と、中村氏自ら工事現場に入り、作業車のハンドルを握っている。

中村氏は1984年から、当時のソ連と紛争状態にあったパキスタンに医療支援を行っていた。しかし、同じく戦火と干ばつに悩まされる隣国アフガニスタンには、医師のいない小さな村が存在することを聞き、89年に戦乱のアフガニスタンに支援に入った。

91年には、アフガニスタンの山岳地帯に初の診療所を設立。次々と国内の小さな村に診療所を作っていった。2000年の夏、大干ばつによって、子どもたちが次々と亡くなっていくのを目の当たりにした。当時、1200万人が被災し、400万人が飢餓に苦しんだ。

飲み水の確保もままならないこの土地での診療は、困難を極めた。日本では簡単に治るような皮膚炎でも、清潔な水が手に入らないために、治療には限界があった。

中村氏は、飢えと渇きは医療では治せないことを痛感し、「100の診療所よりも1本の水路を!」と活動を始めた。

戦乱と干ばつで、年々被災する国民が増えていった。「アフガニスタンは、貧富の差が激しい国。病気になったら、東京、ニューヨーク、ロンドンに飛行機を飛ばして治療してもらうことができるような富豪がいるかと思えば、一方で、数十円も支払うことのできない国民は人口の99・9パーセントだ。満足な医療も受けられないまま死んでいく人は数知れない」と中村氏は話す。

そして、この世紀の大干ばつは、現在もなお進行中だというのだ。中村氏の話によると、00年当時、400万人が飢餓線上にあるとされていたが、15年以上たった今、760万人とさらに増加しているという。

政治的な理由から、この国を救う国際援助は今もない。00年当時、診療所の周りから村という村が消えていった。今もなお、その状態は変わらない。犠牲になるのは、幼い子どもが多く、その多くが胃腸の病気のために、激しい下痢に見舞われ、命を落としていくのだ。

こうした状況から水を確保したいと思い、水源を求めて00年8月ごろから枯れた井戸の再生を始めた。そして、4、5年後には、国内に1600カ所の水源を確保することに成功し、数十万人の村人が現地で生活することが可能になった。

01年9月11日には、ニューヨークで同時多発テロが発生。翌日から米国内の世論はアフガニスタンへの報復攻撃を支持した。中村氏らは「今、アフガニスタンに必要なのは爆弾ではなく、水と食料だ」と主張したが、大きな声にはならず、今に至っているという。

報道では「対テロ戦争」が大きく取り上げられ、まるでサッカーか野球の試合でも見るかのように、戦況をテレビで見守る世界の人々を、中村氏は決して良くは思わなかったと話す。

「ピンポイント攻撃で、一般の市民には決して迷惑をかけない攻撃だと、米軍は説明したが、その攻撃の様子は、まるで無差別攻撃。一発の爆弾で村一つ吹き飛ぶような激しい空爆が続いた」という。

やがて、タリバン政権が崩壊。反タリバン組織と米軍が正義のヒーローのような報道があったが、米軍が進駐してきた後、アフガニスタンの大地ではケシ栽培が横行した。そして、瞬く間にアフガニスタンは麻薬大国になっていったというのだ。

医師中村哲医師が講演 「アフガンの歴史、決してひとごとではない」
会場いっぱいに集まった約1500人の参加者に、「アフガニスタンの歴史は、決してひとごとではない」と訴えた。

中村氏らが03年に建設を始めた用水路は、現在では27キロに及び、3500ヘクタールの土地がその恩恵を受けている。用水路が引かれた村では、「これで、われわれは生きていける」と皆が喜んで話すという。

用水路が引かれた地域では、その周りに樹木や果物、野菜を植え、食料を確保することができる。乾いた砂漠だった土地は遊牧民が避けて通っていたが、現在では、彼らにとってもオアシスになっている。

アフガニスタンに住む人々は、水、食料を確保し、生活するだけのお金を得る仕事もない。貧困から抜け出すために雇い兵になる人も多い。

「こうした状況に陥ったのは、誰の責任なのか。少なくとも、武力でそれらを解決し、お金さえあれば何をしてもよいという幻想がそうさせているのでは。消費と生産を繰り返す世界は、もう終わりを迎えようとしている。私たちは、今、大きな時代の曲がり角に来ていると言ってよい。次の世界をどのように築いていくのかを考えるとき、私たちは、少なくとも武力で身を守るといった信仰からは自由だということ。また、アフガニスタンの歴史は、決してひとごとではないということを覚えておきたい」と講演を結んだ。

講演の最後には、「中村医師にとって、『医師』とは?」といった参加者からの質問があり、「医師は、命を救うのが仕事。アフガニスタンにおいて、命を救うことは水の確保が大きな仕事だ」と話した。

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