私たち人間の能力ではできない仕事を、あえてさせてくださる神(25)人が無価値と思うものを、多くの人々の益のために用いる神・その9 森正行

2016年1月30日07時51分 コラムニスト : 森正行 印刷
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私の体験 その2~4

「私たち人間の能力ではできない仕事を、あえてさせてくださる神」「人が無価値と思うものを、多くの人々の益のために用いる神」というテーマで、聖書のメッセージをお伝えしてまいりましたが、私自身がそのことを体験したことがありますので、このたびはその体験を、前回に続いてお伝えいたします。

「わたしの思いは、あなたがたの思いと異なり、わたしの道は、あなたがたの道と異なるからだ。――主の御告げ――天が地よりも高いように、わたしの道は、あなたがたの道よりも高く、わたしの思いは、あなたがたの思いよりも高い」(イザヤ55:8、9)

私の愚かさを用いる神の働き その2

そして、神のご計画はこれに留まりませんでした。教誨師(きょうかいし)の働きを続けて1年後、1通の手紙を受け取りました。「聖書を教えてください」という内容でした。差出人のお名前を調べて、驚きました。連続殺人事件の容疑者として一審で死刑を言い渡され、控訴中の青年でした。

宮崎刑務所の受刑者は、当時、窃盗、傷害、薬物使用による受刑者が多いと聞いていましたので、私もその方々の更生のためにお手伝いしたいと思いましたが、殺人犯については想定外でした。

「どうしよう?」と、真っ先に思ってしまいました。殺人を犯してしまった青年と、どう向き合えばよいのか分からず、日ごろ、凶悪な事件が起こると「あんな奴は死刑だ」と心の中ではつぶやいている自分だったからです。裁く心があっては、援助者として、自分には不適格だと思いました。けれども、この時もすぐに、あの祈りを思い出しました。

「神様、問題が解決していない私自身と、私の犯した事件を、同じように悩んでいる人たちのために、神様の御用のために使ってください」

そして、神のご計画と働きは、人間の力や知恵、人の愛情を超えた仕事や事業に就かせる、ということを思い出し、これも私の能力以上のことをさせようとする神のご計画なのかもしれないと思うようになり、私は彼と面会室で会い、彼への聖書の学びと相談相手になることを引き受けました。やがて彼は、キリストを自分の救い主と信じ始めました。

私の愚かさを用いる神の働き その3

それから半年後、また、1通の手紙が届きました。一人の婦人でした。彼女も連続殺人事件の容疑者として一審、二審で死刑判決を受けた方でした。私が宮崎に来てから起きた事件でしたから、テレビのニュースで見覚えのある名前でした。

封筒の裏に記された差出人名を見ただけで、私は「えっ、またか」と正直、驚きました。封を開け、文面を読むと「聖書を学びたい」という内容でした。一人を引き受けるだけでも大変なことだと思っていました。間もなく、彼女とも刑務所の面会室で聖書の学びと相談に乗ることになりました。

さらにその1カ月後、また1通の手紙が届きました。同じく、連続殺人事件の容疑で一審、二審で死刑判決を受けた青年からでした。彼とも、間もなく同じように面会を続けることになりました。

最初に聖書を学び始めた青年が、宮崎刑務所で拘留中の他の拘置者たちに「私は牧師から聖書を学んで、心に平安が与えられた。あなたも牧師に手紙を書いて、聖書を学ぶことを勧めます」という内容の手紙を送っていたのでした。私は、一人でも大変なことだ、と思っていましたので、他の人にも伝えるようになどとは一人目の青年に言ったことがありませんでした。

やがて、彼らとの面会、聖書の学び、祈りは、私だけではなく、教会のメンバーにも話し、有志の婦人たちにも協力してもらえるようになり、交流が深まり、お互いに聖書の言葉を信じ合うようになりました。

さらに、2人目の婦人と3人目の青年も、しばらくして後、他府県で拘置されている死刑判決を受けた方たちと文通を始め、東京、福岡で死刑判決を受けた方々に聖書の学びを勧め、合計6名の方々と、私、教会のメンバーは、面会、文通をしていくようになりました。

最初はどのように向き合い、接し、協力していけばよいのか、全く分わからなかったのですが、神に祈りつつ、彼らとコミュニケーションを持つ中で、彼らに必要なものが見えるようになり、死刑が確定するまでの間、続けました。

そうした中で、私自身が特に感じたことは、取り返しのつかない事件を犯してしまった彼らが、自分の身の振りように悩み、人からの評価、判決や刑の執行を恐れ、自分自身に向き合うことも、本来最も重要な関係にある被害者遺族に向き合うこともできないままでいる姿に触れ、かつて同じように悩んだ私が神と神の言葉の助けを受けて、向き合うようになれることが必要なことではないだろうかと思うようになっていきました。

また、本当に被害者遺族と向き合えるようになるためには、人との温かな触れ合いを体験して、人との関わりの大切さを実感してこそ、被害者遺族の悲しみも共有していくことに近づいていくものではないか、と思うようになり、お互いに悩み事を話し合ったり、誕生日をお祝いしたり、クリスマスプレゼントを交換したりするようになりました。

もともと、親からの愛情を受けずに育った青年や人間関係の希薄な方もいましたから、最も難しい被害者遺族の方々と向き合うようなことは、到底できない状態だと思いました。ですから、聖書に記されているように、血縁関係によらない「神の家族」(エペソ2:19)の交流・関係を築いていくことを大切にしました。

私の愚かさを用いる神の働き その4

死刑確定後は、生涯、拘置所の塀の外から出られず、他の方々との交流もほぼできなくなることから、私は彼らに何度も伝えたメッセージがあります。

「生涯出られない拘置所に入ったからといって、何もできなくなるわけではありません。聖書の神は、全知全能をもって、どんなことでもできる方です。初代教会で、パウロは、伝道旅行を重ね、誰よりも大勢の人々に福音を伝えましたが、彼が最も福音・神の言葉を伝えたのは伝道旅行ではありませんでした。彼が最も大勢の人たちに神の言葉を伝えたのは、彼が牢屋のような所に入れられ、拘束された中で彼が諸教会に宛てて書いた手紙でした。その手紙は、コリントやガラテヤ、エペソ、ピリピの教会にそれぞれ送られ、教会の信徒たちが読み、それだけで留まらず、神は、パウロの手紙を新約聖書の中に組み入れ、全世界の人々に、2千年前から現代に至るまで、伝え続けるために用いられています」

「パウロは自分の書いた手紙が聖書として組み込まれることなど知りませんでした。けれども、神は自由に出歩ける人ではなく、出歩く自由を奪われた人を用いて、全世界に福音を広めたのです。あなたも出歩く自由はありませんし、手紙を書くことさえ制限されます。けれども、それで何もできないのではなく、私たちには分かりませんが、神様は人知を超えた方法で、あなたを必ず用います。ですから、神様に『こんな私を神様の御用のために使ってください』と祈り続けてください」と伝え続けました。面会室で彼らはこの祈りを神様にささげました。手紙にも「神様、私を用いてください」と書きつづっていました。

昨年、市内の弁護士の先生から相談を受けました。「死刑」をテーマとしたシンポジウムを開催するから、パネラーとして参加協力してほしいとの依頼でした。理由を尋ねると、約10年前、私たちが深く関わった死刑囚の一人の青年が、まだ裁判で係争中の時、彼の担当の弁護士に、私たち教会員との交流をよくうれしそうに話していたそうでした。

弁護士の先生たちがシンポジウムの実行委員会を立ち上げ、そのプログラムを協議しているとき、彼を担当された弁護士の先生は、「死刑判決を受けているのに、どうしてこんなにうれしそうにしていられるのか」、不思議に思われたことを話され、私が死刑判決を受けた方々に取り組んできたことの話を聞いてみよう、ということになったそうです。

そして、8月1日に、県内のホールでシンポジウムが開かれ、私や私たちの教会の婦人たちの取り組みを、聖書の言葉を紹介しながら、九州各県の弁護士の先生たちや一般市民の方々に、私は彼らのことも自分のことも正直に伝えることになりました。このチャンスは、彼がかつて担当の弁護士の先生に話した体験を用いて、神がセットされました。

その青年は、今から約4年前、刑が執行され、世を去っていました。神様は、やはり「私を用いてください」と祈った彼を用いて、多くの人たちに福音を伝えるチャンスを提供してくださったのです。

これまでお伝えした一つ一つのことは、私はどれも想像さえしたこともないものでした。また、これらの働きの出発点は、私の愚かな窃盗事件と臆病さでした。あらためて、神はすごいお方だと思います。

「わたしを呼べ。そうすれば、わたしは、あなたに答え、あなたの知らない、理解の越えた大いなる事を、あなたに告げよう」(エレミヤ33:3)

長文になりましたが、最後までお読みくださり、ありがとうございました。

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森正行

森正行(もり・まさゆき)

1961年兵庫県西宮市出身。建設専門学校卒。不動産会社、構造建築事務所にて土木・建築構造設計部門を5年間勤務。1985年受洗。関西聖書神学校卒。岡山・岡南教会にて伝道師・副牧師3年間奉仕。1995年より現在、日本イエス・キリスト教団宮崎希望教会牧師。

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