台湾少数民族・タオ族のキリスト教とは? 桜美林大学キリスト教研究所が研究会

2016年1月2日16時07分 記者 : 坂本直子 印刷
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台湾少数民族・タオ族のキリスト教について話す桜美林大学の中生勝美教授=12月16日、桜美林大学明々館(東京都町田市)で

桜美林大学キリスト教研究所の第1回目の研究会が12月16日、桜美林大学明々館(東京都町田市)で開催された。「台湾少数民族のキリスト教」をテーマに、同大の中生勝美教授が、23年前から調査してきた台湾の原住民タオ族のキリスト教について、その受け入れの社会的背景と受容のプロセス、さらに教会の社会活動などについて報告した。

中生教授が台湾少数民族のキリスト教に注目したのは1993年、台湾本島の南東沖にある蘭嶼(らんしょ)島について取り上げたNHKのドキュメンタリー番組を授業の教材として使ったことがきっかけだった。日本における人類学の草分け的存在である鳥居龍蔵をはじめ、文化人類学や民族学の研究者たちが調査研究を行っている蘭嶼島に自分も入ってみたいと思い、訪れたのだという。実際に行ってみると、全てのことが面白く、その中の一つが島の原住民に根付いているキリスト教だった。

蘭嶼島に住むタオ族は約3000人で、フィリピン・バタン諸島から黒潮に乗って船で来たといわれている。台湾先住民族の中でもさらに少数派とされる。中生教授は、台湾長老会の協力を得ながら23年間、年に1、2回の割合で現地に行き、フィールドワークを行ってきた。当初驚いたのは、島における教会の数の多さだ。島の中には6つの集落があるが、どの集落にもプロテスタントとカトリックの教会が基本的に一つずつ存在している。しかも、それぞれの教会と集落の生活とが、非常に密着した関係にあるという。

台湾宣教史をたどると、戦前からイギリスやオランダの長老派教会を中心に台湾本島で布教活動が進められ、特に長老派教会が多くの信徒を獲得していった。蘭嶼島には、1949年の中華人民共和国成立後、国外追放された欧米の宣教師たちが、中国語で布教でき、なおかつ宣教未開拓地だった台湾少数民族の住む地域に次々とやってきた。しかし、タオ族の人たちは当時、日本語と現地語しか話せなかったため、中国語ではなく、日本語の聖書を使って宣教が行われた。ただ、日本語も読み書きは片仮名しかできなかったため、当時全て片仮名で書かれた日本語聖書を使っていた。

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蘭嶼島のタオ族が使っている聖書と賛美歌。賛美歌の歌詞は現地語となっている。

賛美歌も、日本で慣れ親しんでいる賛美歌と、タオ族独自の賛美歌があるという。実際にタオ族が歌う賛美歌を流しながら中生教授は、「あれだけ人数の少ない少数民族が、自分たちの賛美歌を持っているというのはすごいことだ」と語った。

戦後には、タオ族から受洗者が続々と起こされた。台湾最大の教派である長老派教会では、これを「長老教会の奇跡」と呼んでいる。中生教授は、このように急速にキリスト教が広まった背景の一つとして、日本統治時代の同化政策の厳しさと、その後の敗戦による精神的空虚を埋めるためにキリスト教信仰が求められていたことを挙げた。

タオ族の人たちが宣教師の説教でもっとも感銘を受けたのは、新約聖書の四福音書で、中でも、キリストの悪魔払いの場面に関心を示したという。このことについて中生教授は、タオ族の伝統的儀礼である船の進水式・家屋の落成式・葬儀などに出てくる「アニト」と呼ばれる悪霊が関係していると述べた。アニトが体に巣食うために、病気・けが・争い・不幸・老い・死に遭遇するという考えが伝統的な宗教体系の中にあるため、悪魔払いを行うキリストは、アニトを払う強力な「神」としてあがめられ、洗礼を受けるきっかけとなったと説明した。

一方で、船や畑に十字架を魔よけとして使うなど、タオ族のキリスト教信仰には、在来信仰が色濃く混在する面もあると指摘した。クリスチャンになっても、タオ族にとってアニトの存在は大きい。老化現象さえもアニトのせいにする老人たちが、自分の中にいるアニトが子どもたちにうつってはいけないと引きこもり、そのまま餓死してしまうことが、社会的な問題になっているほどだという。

文化による変容によって、信仰がどこから異端となるのか、キリスト教の受容と伝統的儀礼との相関関係についてはまだ十分に調べきれていないとしながらも、今後も調査の興味は尽きないと話した。

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この日は、他大学の関係者も含め14人が参加し、質疑応答では活発に意見を交わしていた。

中生教授は、クリスチャンで島の保健センターの看護師として働く張淑蘭氏の活動も紹介した。張氏は、仕事を通じて島の老人たちの悲惨な状況を知ってショックを受け、老人にお弁当を配る活動などを始めたという。

張氏の活動はやがてNGOとなり、現在では信徒を中心としたボランティアを組織して、デイサービスなどの支援も行っている。さらに、高齢者の最期を看取る施設も建設中だという。中生教授は、こういったボランティア活動がキリスト教から始まっていることも、伝統的な文化を考える上では重要なことだと語った。

さらに中生教授は、蘭嶼島の核廃棄物貯蔵施設にも言及した。中国の原爆実験に対抗して、台湾が原子力計画を秘密裏に始めたのが1964年。その後、原子力研究が原発推進政策として進められ、74年には、蘭嶼龍門地区が低レベル放射性廃棄物貯蔵場に決定した。蘭嶼島にもいきなり廃棄物貯蔵所が作られ、82年より可動している。87年に戒厳令が解除されて民主化が進み、96年に島で激しい反対運動が起き、固形化廃棄物は搬入禁止となった。貯蔵施設では、日本では考えられない状態で島の人たちが放射性物質の入れ替え作業を行い、すでに作業していた30人のうち6人はがんで亡くなっているという。

島では、奇形の魚が現れるなど、生態系がおかしくなってきており、現在でも貯蔵施設に対する反対運動は続いている。その運動は教会が中心となって行われており、あくまでも平和的思想にのっとっているという。中生教授は、台湾においてキリスト教は、社会をまとめる上で重要な役割を担っていると話した。

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記念撮影におさまる参加者たち

桜美林大学キリスト教研究所は2013年4月、学内のキリスト教研究者に研究の便宜と発表の機会を提供することによって、それぞれの研究活動を支援、促進することを目的として設立された。これまでは主に講演会やコンサートなどを行ってきたが、今回の研究会を皮切りに、今後も主にアジアにおけるキリスト教を中心に、個々の研究成果を分かち合える研究会を定期的に開催していきたいという。

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