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愛による全面受容と心の癒やしへの道

愛による全面受容と心の癒やしへの道(23) 峯野龍弘牧師

2013年6月19日08時17分
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峯野龍弘牧師+

第3章 ウルトラ良い子の抑圧の最大要因
Ⅰ.世俗的価値観
B.世俗的価値観を構成する恐るべき諸要素
4)欲望充足主義、名誉出世主義

さて次は、欲望充足主義、名誉出世主義という、これまた典型的な世俗的価値観を構成している恐るべき要素について、解説することにいたしましょう。

非打算的献身的志向性や他者貢献的、かつ他者受容的感性を持った純粋志向性に富んだウルトラ良い子たちは、この欲望充足的な両親や世の人々に強い嫌悪感を持っています。自己の名誉や出世を求め、それを自分に強要する両親や他の人々に、当然ながらこのウルトラ良い子たちは、厭らしいと思うほど、生理的にさえ拒絶感を抱きます。とりわけそれが両親、更には最も信頼し大好きな母親が、このような考え方を持つ人間であることを知るようになった時のウルトラ良い子たちのショックと悲しみ、そしてその戸惑いは、並大抵のものではありません。

もちろん中にはそれほど強い衝撃を感ぜず、戸惑うこともなくこの時期を過ごしてしまうウルトラ良い子もないわけではありません。なぜなら、小さい内から母親から徐々に徐々に欲望充足主義や名誉出世主義の毒を盛られ、彼らの純粋感性が麻痺し、また彼らの考え方が知らず知らずの内に毒され、あるいは洗脳されてしまっているため、悲しいかな強い衝撃を受けられなくなってしまっていたからです。

しかし、そのような場合であっても、彼らの心の中のどこかでは、これはおかしい、これは真実な人間の生き方ではないとの疑問や問い返しが湧き起こってくるのです。そして、それにもかかわらず、相も変わらず母親たちがこうした考え方や価値観を強要し続けると、遂には彼らの心に大きなストレスをもたらし、その継続的な世俗的考え方の抑圧のゆえにそれがたまってトラウマとなり、その果てには遂に対人関係不全症候群を引き起こし、先にも述べてきた者たちと同様に、異常心理、異常行動を呈するようになってしまうのです。

そこで一つの実例を紹介しましょう。

ある時、ウルトラ良い子であったOLのA子さんが、職場からの帰り道に、某駅の構内で電車に飛び込み、自殺を図ろうとしました。幸いその不審な行動に気付いた駅員さんが、駅ホームに入車中の電車に今まさに飛び込もうとしていたA子さんを取り押さえて、九死に一生を得ることが出来ました。気力を失ってぐったりとしていたA子さんは、そのまま救急車で病院に運ばれ、その回復を待ちました。

その際、彼女が心理カウンセラーに打ち明けたことは、自分は小さい頃から母親から事あるごとに、「あなたは自分のことだけをしっかりと考え、他人のことなど後回しにしなさい。自分のこともろくすっぽ出来ないで、他人のことなど考える暇など、あなたにはないのよ」と叱られ続けてきたこと、まただんだん大きくなるに従って、「あなたは何でそんなことも良く出来ないの。全く仕方のない人間ね。そんなことをしていたら、将来良い大学にも、仕事にも、そして結婚にもありつけないわよ! そうしたあなたが惨めになるのを、見てなんかいられないわ」とたしなめられ続けてきたというのです。

心の優しいA子さんは、もとより大好きであった母親から、このような自己充足的かつ欲望充足主義的などぎつい言葉や、また名誉出世主義的な考え方を聞かされ続け、すっかり母親に失望し、のみならずやがて嫌悪感から憎悪感をさえ抱くようになりました。そんな母親からの強烈なインプットに曝され続けてきた彼女は、母親を見る度にまたこう言われるのではないかと常に緊張し、自由な対話が出来なくなりました。のみならず自分の最愛の母から、このように欲望充足的で、かつ名誉出世主義的な世俗人間であることを見せつけられることは、彼女には耐え難いことでした。そして、自分がこのような汚れた世俗的な考えを持つ母の胎内から生まれてきたのかとを思うと、悲しくなって一層のこと生れて来なければ良かった、死んでしまいたいとさえ思いつめるようになりました。

そんな彼女が、その日職場に行き、昼休みに友人たちと食事を共にしていた時、いつもながらのことではありましたが、その場の話題が勢い相互の内にある欲望充足的な考えや名誉出世主義的感情を丸出しにするような場面展開となり、その雰囲気に彼女は居たたまれなくなり、その場を飛び出しました。そして職場からの帰り道、遂に彼女はもはやどこに行っても、この欲望充足主義的で、かつ名誉出世主義的な人間社会でしかないことを思い、もはやこの世での生きる張り合いを見出せず、自殺を図ろうとしたということでした。

小僕も後日、本人からこの事を直接聞かされて、如何にウルトラ良い子たちが、純粋志向性を持った、物事の本質や絶対価値を追求してやまない超鋭敏な感性を持った人々であるのかを、あらためて痛感させられました。(続く)

◇


峯野龍弘(みねの・たつひろ)

1939年横浜市に生れる。日本大学法学部、東京聖書学校卒業後、65年~68年日本基督教団桜ヶ丘教会で牧会、68年淀橋教会に就任、72年より同教会主任牧師をつとめて現在に至る。また、ウェスレアン・ホーリネス教団淀橋教会および同教会の各地ブランチ教会を司る主管牧師でもある。

この間、特定非営利活動法人ワールド・ビジョン・ジャパン総裁(現名誉会長)、東京大聖書展実務委員長、日本福音同盟(JEA)理事長等を歴任。現在、日本ケズィック・コンベンション中央委員長、日本プロテスタント宣教150周年実行委員長などの任にある。名誉神学博士(米国アズベリー神学校、韓国トーチ・トリニティー神学大学)。

主な著書に、自伝「愛ひとすじに」(いのちのことば社)、「聖なる生涯を慕い求めて―ケズィックとその精神―」(教文館)、「真のキリスト者への道」(いのちのことば社)など。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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