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聖書原語への招き

聖書原語への招き─霊に燃え、主に仕えるために(10)神の国の超重要性 白畑司

2026年6月4日21時57分 コラムニスト : 白畑司
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これらのことが起こるのを見たら、神の国は近いと知りなさい。(ルカ21:31)

1. 神の国の超重要性

よみがえった主イエスが40日間にわたって弟子たちに語ったテーマが「神の国のこと」(使徒1:3)でした。仮に、毎日10時間にわたってこの主題を語ったとすれば、400時間の講義になります。

文字通り最高の教師であり、しかもよみがえった主イエスが体験して語った内容ですから、まさしく比類なき内容です。このことが4つの福音書の編集に相当の影響を与えたのではないかと私は推測します。

主イエスの宣教の最初は「時が満ち、神の国は近くなった。悔い改めて福音を信じなさい」(マルコ1:15)でした。下線部には、ギリシャ語動詞の完了形が使われています。

ギリシャ語動詞の完了形は、最も注目されるテンス(時制)で、決定的動作がなされて、もはや撤回されることのない重大性を示しています。全人類を包含する旧約聖書で預言されていた神の国の到来は、決定的な意味で近づいたのです。

イエスの働きは神の国を宣(の)べ伝えることでした。「その後、イエスは、神の国を説き、その福音を宣べ伝えながら、町や村を次から次に旅をしておられた」(ルカ8:1)

主イエスが12使徒を派遣する目的も、こう書かれています。「それから、神の国を宣べ伝え、病気を直すために、彼らを遣わされた」(ルカ9:2、マタイ10:7も同様)

70人の弟子を派遣する際に命じられた言葉はこうでした。「神の国が、あなたがたに近づいた」(ルカ10:9)

宣教のテーマが神の国であることは、使徒の働きでも一貫しています。「しかし、ピリポが神の国とイエス・キリストの御名について宣べるのを信じた彼らは、男も女もバプテスマを受けた」(使徒8:12)。「それから、パウロは会堂に入って、三か月の間大胆に語り、神の国について論じて、彼らを説得しようと努めた」(使徒19:8、使徒28:28、31も同様)

「木の芽が出ると、それを見て夏の近いことがわかります。そのように、これらのことが起こるのを見たら、神の国は近いと知りなさい」(ルカ21:30、31)。この部分をインターリニアで以下に説明します。

聖書原語への招き─霊に燃え、主に仕えるために(10)神の国の超重要性 白畑司

31節でのギリシャ語原文から明らかなことは、次の通りです。

1)「あなたかた」が強調されています。「ὑμεῖς[ヒュメイス]」は2人称代名詞の主格です。代名詞の主格が文に出てくるときはいつも、著者によって強調されていることを示しています。

また、「ヒュメイス」は実質的に文頭に来ています。ですから、キリストご自身から、キリストの再臨と世の終末の預言を聞いて信じている「あなたがた」については、人類全体と区別され、強調されています。

2)「γινόμενα[ギノメナ]」は、動詞「γίνομαι[ギノマイ:起こる、もたらされる]」の現在分詞形の複数形対格中性、中動態または受動態です。「ギノメナ」が現在分詞形であることは、継続的、連続的に起こっている、あるいは、立て続けに起こされている、もたらされていることを示しており、一過性、単発の出来事とは明確に区別されています。

木々が芽を出していることで、既に夏が近いことが分かります。同じように「これらのこと」が起こり続けている、あるいは、次々に起こっているのを見ているなら、神の国の最終局面である「あなたがたの贖(あがな)い」(ルカ21:28)、「あなたがたのからだの贖い」(ローマ8:23)、「贖いの日」(エペソ4:30)、すなわち、キリストの再臨と世の終わりが近いことを知りなさいということです。

2.「神の国」のギリシャ語での意味合い

神の国は、ギリシャ語では「ἡ βασιλεία τοῦ θεοῦ[ヘー・バスレイア・トゥー・セウー]」です。英語では ① the royal reign of God、② the kingdom of God と訳されます。

「βασιλεία[バスレイア]」は王室の管理に関する用語で、バウワーのギリシャ語レキシコン(辞書)では、こう説明しています。

① 支配する行為 ⓐ 王権(kingship)、王権(royal power)、王政(royal rule)。王権を得る(自分のために)ルカ19:12;王家の支配 ルカ1:33;神の支配 ⓑ 特に神の王権(通常「神の王国」と表現され、王権領域と理解されることが多いが、統治活動の主要な要素が希薄になる)、主に終末論の概念で、預言者に現れ始め、終末論の箇所で詳述される ② 王が支配する領域、王国 マタイ12:25以下

より詳しい説明をしているキッテル神学辞典の項目で、シュミット氏は、こう述べています。

通常「王国」と訳される「バスレイア」の一般的な用法に関連して、まず注目すべきは、それが王の「存在」「性質」「状態」を意味することである。王を指しているのだから、まず王の「威厳」や「力」について語るのが一番である。

「ヘー・バスレイア・トゥー・セウー」は極めて重要なので、私たちの主イエスの言葉「神の国とその義とをまず第一に求めなさい」(マタイ6:33)の勧めは、この「バスレイア」の意味を調べることにおいても真実です。最大限の努力をして理解を深め、畑に隠された宝を発見した農夫(マタイ13:44)、高価な真珠を探す豪商(マタイ13:45、46)の喜びを自分たちのものとしていきましょう。

3. AD1世紀(第二神殿期)のユダヤ人にとっての「神の国」

イエス時代のユダヤ教各派の神の国理解は、複雑で多岐にわたりますが、福音書における「神の国」理解の背景となっています。AIの助けを借りて整理すると、以下のようになります。

A)神の国の中心概念:神の主権

第二神殿期ユダヤ教では、宇宙の秩序と社会的・道徳的秩序の背後に神の統治があるという理解が強調されていました。これは「創造主としての神の支配」が世界全体に及ぶという普遍的視点です。神は唯一の王(申命記6章、詩篇93〜99篇)であり、神の律法(トーラー)は宇宙秩序と一致します。ですから、神の国とは「神の支配が完全に現れる状態」を意味します。

B)AD1世紀ユダヤ人の神の国理解に三層構造があった

① 現在的支配。神は既にイスラエルの王であり、律法を通して支配しているとの理解がありました。そのため、シナゴーグでの律法順守、神殿での礼拝(第二神殿)を実践し、日常生活での戒律(パリサイ派の強調)を守りました。

② 歴史的・政治的回復。ローマ支配下のユダヤ人は、神の国を「イスラエルの回復」と結び付け(参考:使徒1:6)、ダビデ王国の再興、異邦人支配の終わり、神殿の純化、メシア(王)の到来を期待していました。

③ 終末的完成。黙示文学(ダニエル書、エノク書、第四エズラ書など)では、神の国は、終末における神の決定的介入として描かれています。悪の勢力の滅び、義人の復活、神の支配が全地に及ぶことが預言されていました。

C)ユダヤ教各派ごとに「神の国」理解に違いがあった

パリサイ派は「神の国=律法順守を通して現れる神の支配」を強調し、終末の復活を信じていました。サドカイ派は神殿中心の秩序維持に励み、復活を否定し、神の国は神殿儀礼の秩序の中に現れる支配としました。エッセネ派(クムラン)は「神の国=終末における光の子の勝利」と信じ、神殿は汚れていると考え、独自の共同体を形成しました。民衆的メシア期待には、ローマからの解放、ダビデ的王の出現、社会的・政治的回復がありました。

D)神の国の「普遍性」:異邦人も含む秩序

第二神殿期文献には「神の創造秩序は異邦人にも及ぶ」という普遍的視点が見られます。「神を恐れる」概念は普遍的であり、自然界の秩序は神の律法の反映であると捉えます。これは、後のキリスト教における「異邦人受容」の基盤にもなったと考えられます。

E)AD1世紀の歴史状況が与えた影響

AD1世紀のユダヤはローマの支配下にあり、ユダヤ人は政治的・宗教的緊張の中で神の国を期待していました。ローマの重税と圧政、神殿の腐敗、党派間の対立(パリサイ派・サドカイ派・エッセネ派)、政治的メシア運動の頻発。この状況が「神の国=神の介入による回復」という終末的期待を強めました。

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※ 本コラムでは、特に断りのない限り、聖書の引用は新改訳(第3版)を使用しています。

◇

白畑司

白畑司

(しらはた・つかさ)

1949年山形県生まれ。同県米沢市の福田町キリスト教会(現恵泉キリスト教会米沢チャペル)で信仰を決心。山形大学大学院でレーザーのコヒーレント効果を研究。日本電信電話公社(現NTT)電気通信研究所に在籍する。召命の御言葉で献身し、聖書神学舎(現聖書宣教会)で学ぶ。御徒町キリスト教会牧師を経て、84年から市ヶ尾キリスト教会の開拓伝道に従事。現在同教会主任牧師。カルバリー聖書学院(大川従道院長)で20年余り、新約聖書とギリシャ語の科目を担当。著書に『インターリニア新約聖書』(全32巻、2001〜04年、ポーロス会)。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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