エジプトでは今も、黒魔術・呪術が民間信仰として残り、世代継承される地域がある。魔術の家系に生まれたラミー(仮名)は「力」と「生きる意味」を求めてさまよってきたが、彼の人生は孤独とむなしさで満ちていた。ある日、エジプト人キリスト者のユセフ(仮名)と食事を共にし、イエス・キリストの福音を初めて聞いた。彼の心に光が差し込んだのだ。(第1回から読む)
ラミーと食卓を共にしたユセフは、福音書の物語を最初から語った。幼子イエスがエジプトに避難した出来事、生涯にわたる御業、そして十字架と復活。ラミーは黙って聞き続け、やがてこうつぶやいた。「この方は力強い。でも同時に優しい。この方に従う者には、目的と計画があるように見える」。それは、彼が今まで信奉してきた闇の力とは全く違う光の力だった。
ユセフは、イエスの話に心引かれるかどうかをラミーに聞いてみた。「ああ、とても心引かれる話だ。とても素晴らしい。こんな話、聞いたことがない」。ユセフは決断を促して「ラミー、いま君は主イエスに従いたいか?」と言うと、ラミーは静かにうなずいた。「従いたい。もう闇の力はいらない」。そして、2人はその場で祈ったのだ。ラミーはイエスを救い主として受け入れ、口に出して闇との決別を表明した。祈り終えると、ラミーは驚いたように胸に手を当てた。「重さが取れた・・・息がしやすい」
彼らはイエスに従うことの意味について、さらに話し合った。そして、たった一度の簡単な食事と会話を通して、ラミーは悪魔の力を追い求める人生から、全能の神を信じ従う人生に変えられたのだ。
その夜、彼はまっすぐ家に帰ると、家に伝わる分厚い呪文書と護符を全て持ち出した。「終わらせよう」。そう言うと、彼は屋外でそれらを火にくべた。何世代も続いた闇への忠誠は、炎と共に過去へと葬り去られたのである。
翌日、ユセフは小さな信徒グループを紹介した。密やかな場で、ラミーは初めて賛美を歌い、短い聖句を声に出して読んだ。長年、真の神への「声」を持たなかった彼が、言葉を取り戻していくようであった。「新しい生き方は、宗教的な義務ではなく、関係だ」とユセフは語る。それは主と共に歩む関係なのである。
もちろん、全てが一夜で完全に変わるわけではない。だが、方向は決まった。闇から光へ、自己中心から従順へ、孤独から交わりへ。ラミーの再出発は、たった一度の食事の会話から始まったのである。(続く)
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