死別の悲しみに寄り添う「グリーフケア」とは? ルーテル学院大で講演会

2015年7月22日16時07分 記者 : 坂本直子 印刷
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大柴譲治氏は冒頭に、北海道開拓村でのエピソードを取り上げ、逆境を耐え抜くためには、自分の外に何か「自分を支えるもの」を持っていることが大切だと指摘。悲嘆者の悲しみや怒りの中に降りていって、そこに寄り添っていくためには自分を支える「何か」が必要であると語った=11日、ルーテル学院大学(東京都三鷹市)で

日本ルーテル神学校デール・パストラル・センターのグリーフサポート研究会が主催する講演会が11日、ルーテル学院大学(東京都三鷹市)で開催された。講演会では、日本福音ルーテルむさしの教会・スオミ教会牧師で、20年前から臨床牧会という視点で理論と実践の両方からグリーフケアとスピリチュアルケアに取り組み、PCCAJ認定臨床パストラル・カウンセラー、パストラル・スーパーバイザーの資格を持つ大柴譲治氏が、「死別を体験した子どもと大人と共に―グリーフを知り、そのサポートの在り方を考える」と題し、グリーフの意味や、グリーフケアについて語った。

「グリーフ」とは、「悲嘆」を意味し、死別などで大切な人を失ったときに起こる身体・精神上の変化のこと。人間は誰もが生まれるときに、母親からの分離不安と悲嘆を体験することから、喪失から生じる悲嘆は、先天的で本能的なものでもあるという。ただ、人間は成長するにつれ感情が複雑になり、悲嘆の感情も、怒り、悲しみ、悔い、懺悔(ざんげ)、恐れ、戸惑い、安堵(あんど)などの複雑で重層的なものとなる。こうした感情から起こる話を傾聴し、さりげなく寄り添いサポートすることが「グリーフケア」だという。

大柴氏は、愛する人を亡くすことは、自分のアイデンティティーの一部を失うことだと言い、喪失感がいかに大きいものであるかを語った。評論家の若松英輔氏の著書『魂にふれる―大震災と、生きている死者』を紹介し、その中で若松氏が「悲しみ」を「生きている死者との協同の営み」と捉えていることから、悲嘆は乗り越えるものではなく、死の向こう側で今も生きている者たちと共に深めていくものだと大柴氏は語り、愛する人を失ったことで止まってしまった時計を無理やり動かす必要はないと話した。

さらに大柴氏は、もし悲嘆に突破口があるとすれば、悲嘆の一番奥底にあるのではないかと言い、もし誰かが傍らにいて、その人の悲嘆を受け止め理解してくれれば、たとえ状況は変わらなくても、傍らに寄り添っていてくれる人の存在により、その人は支えられると話した。違う楽器でも傍らで奏でれば共鳴するように、別個の人間であっても傍らにいれば人間の「魂」は共鳴していくことができると伝えた。

ただ、これにはふさわしい「距離」があり、その距離を測りながらその人自身の自立自助をサポートするのがグリーフケアだと思っている、と大柴氏は話した。目の前にいる人をありのままに受け入れ、初対面でも「この先生なら安心だ」と信頼してもらえることが牧師としての課題だと述べ、現在行っている緩和ケア病棟訪問について「一期一会の気持ちを持って、祈るような気持ちで訪問している」と語った。

また、グリーフケアの基本姿勢として、上智大学グリーフケア研究所の名誉所長である日野原重明氏の「か・え・な・い・心」という言葉を紹介した。これは、「かざらず」「えらぶらず」「なぐさめず」「いっしょにいる」の頭文字を取ったもので、感じていることをそのまま表し、患者に学ぶという姿勢。沈黙の中でも一緒にいるという姿勢で悲しむ人に寄り添うことが求められていると大柴氏は言う。特に「なぐさめず」については、ケアする側はその人の沈黙にいたたまれなくなり、慰めの言葉を発してしまいがちだが、それは相手を慰めているのではなく、自分を安心させているだけだと指摘。沈黙がいかにつらいことであっても、そこに踏みとどまる覚悟がグリーフケアには必要だと語った。

死別の悲しみに寄り添う「グリーフケア」とは? ルーテル学院大で講演会
この日の講演会には、ルーテル学院大学内外から35人が集まり、参加者はメモを取りながら大柴氏の話を熱心に聞いていた。

また、グリーフケアで最も大切で難しいのは、「聴く」ことだという。大柴氏はこの「聴く」ということを、旧字体の「聽」から、「耳と目と心を十全に用いて王の声を聞け。頭の中の声を黙らせて、大いなる沈黙の声を聞け」ということだと説明し、沈黙の豊かさと、「ただ、キリストの声に従ってその底に降り立っていればいい」と、相手の声を通して向こう側から神の声が聞こえてくるまで、相手にひたすら傾聴する姿勢を語った。そして、現代のキリスト教会は、悲しんでいる人に本当に寄り添うことができているかと問い掛け、教会でのグリーフケアの在り方について問いを投げ掛けた。

今回の講演会で大柴氏は、若松氏の著書の他にも、C・S・ルイスの『悲しみをみつめて』や岡安大仁(まさひと)氏の『ターミナルケアの原点』なども紹介した。両書とも愛する妻を失った経験から書かれたもので、本を読むということで、他の人の体験を共有し、他の人と悲しみを分かち合うこともできると伝えた。

大柴氏の講演の後、主催者であるグリーフサポート研究会から、「子どもサポートグループ」と「大人サポートグループ」の活動報告が行われた。同研究会は、デール・パストラル・センターのプログラムの3つの働きのうちの1つとなっている。今回報告のあったサポート活動は、1996年から、米国にある喪失体験をした子どもと家族を支援する施設「ダギーセンター」のスタッフによる研修会を機に行ってきたという。今回の報告会では、長年にわたる活動の中で、守られてきたルールや参加者の声などが報告された。

講演会に参加したルーテル学院大学で心理学を学んでいるという学生は、「人間が持つ感情について捉え方がとても参考になった」と話した。また、終末期のスピリチュアルケアを勉強中だという女性は「傾聴することの大切さと難しさをあらためて感じた。クリスチャンとして神様の声にもっと耳を傾けたい」と感想を語った。

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