5日、6日の両日にかけて日本聖書協会主催の国際聖書フォーラムがホテルニューオータニ(東京都千代田区)で開催された。同フォーラムは2007年以来5年ぶりとなり、2日間の参加者述べ人数は1800人、各セミナーは平均260人が参加した。
国際聖書フォーラム開催の挨拶を行った同フォーラム理事長の大宮博氏は、「日本聖書協会が国際聖書フォーラム2012を企画いたしましたところ、世界的に優れた学問的貢献を果たしておられる聖書学専門の先生方のご協力をいただくことができ、聖書に深い関心を寄せられる多くの皆様のご参加を得ることができ、充実した研究会を開催出来る事を心から感謝するものでございます。1875年に基礎を据えられて、130年余りの歴史を通じて、明治時代の文語訳聖書、第2次大戦後の口語訳聖書、そして1987年にはカトリックとプロテスタント共同による新共同訳聖書を翻訳刊行してまいりました。今日人々が手にしている日本語訳聖書の約80パーセントは日本聖書協会刊行のものといわれております」と述べた。
日本聖書協会は2016年に新共同訳聖書の新翻訳を出版する予定である。新たな翻訳を試みていることに関して、大宮氏は、「社会で最も馴染み深い言葉は、40年で相当に変化するとも言われており、それぞれ独自の翻訳の歴史をもっているカトリックとプロテスタントが初めて着手した新共同訳は、言葉として更に深化させる必要を痛感し、このたび新翻訳を開始いたしました。この新翻訳が日本語訳聖書としては、標準訳、スタンダードバージョンとなる事を願っています。聖書の優れた翻訳が成し遂げられ、またそれが正しく理解されるためには、聖書各巻の歴史とことばが解明され、そこに学ばれた信仰が明らかにされて行くことが大切でございます。日本聖書協会はその事を願い、何回か国際聖書フォーラムを開催してまいりました。(今回のフォーラムが、)21世紀の我々が聖書の時代の歴史的地平を展望することができ、聖書の指針をリアルに聞く機会となるように心から願っております」と述べた。
第3回目となった今年の国際聖書フォーラムでは、海外からドイツボン大学旧約学名誉教授で、ドイツ旧約学を代表する重鎮の一人であるW.H.シュミット氏、英ハル大学宗教神学部名誉教授で、後期ユダヤ教の分野で卓越した業績を残しているレスター・L・グレイビー氏、ドイツアウクスブルク大学聖書神学教授で、図像学的なアプローチや古代の情動に関する心理学的なアプローチを開拓し、新約学の幅を方法論的に広げて注目されているぺトラ・フォン・ゲミュンデン氏、および国内からは主著「イエスという男」で知られる元仏ストラスブール大学新約学客員教授の田川健三氏が招かれ講演が行われた。
日本聖書協会総主事の渡部真氏は開催の挨拶で、「海外より3名の著名な講師をお招きして6つのセミナー、それに加え日本人講師による一つのセミナーを企画いたしました。日本聖書協会の中で進められている翻訳作業と連結して、旧約、中間時代、新約と3つの部分の専門家を厳選して、一人でも多くの方に一般公開することで皆様方に聖書をより良く学ぶ機会を提供いたしました」と述べた。
シュミット氏は「旧約聖書の信仰とキリスト教信仰」と題し、聖書的信仰に共通する基本構造について講演を行い、宗教の役割が分裂しているように思える現代において、旧約における諸々の洞察を指し示す試みを紹介した。2日目のセミナーでは、「試練の預言者エレミヤ」と題し、書物のレベルを超えて試練の中にある預言者エレミヤの宣教について、再び問い返し、エレミヤの宣教の中での一致あるいは内的調和をいかに感じることができるかについて講演を行った。
グレイビー氏は「第二神殿時代のユダヤ教文書」と題した講演を行い、およそ紀元100年頃までにユダヤ人によって書かれた宗教的作品について論及し、ユダヤ教とプロテスタント教会が「正典」と呼ぶものには触れず、正典という見地からは二次的と見なされるさまざまな文学ジャンルやタイプの諸作品を対象に、それぞれの作品に関する概説的な説明を行った。2日のセミナーでは、「マカバイ時代のユダヤ教」と題し、紀元前175年から164年のシリア=パレスチナに覇権を確立したセレウコス朝のアンティオコス四世の治世下におけるユダヤの宗教についての考察を発表した。
ゲミュンデン氏は「パウロが持っていた死への怖れ―ローマ書理解の鍵」と題し、使徒パウロがローマ人に宛てた神学的書簡の中で、パウロの個人的な状況が繁栄されている箇所で示されるパウロの内にある不安について、現代の読者へ暗示される事柄、ローマ書から、パウロが死に脅かされている中にあって、平安と守られている安心感に対する肯定的な発言がより一層際立てられていることについて説明した。2日目のセミナーでは「ヨハネ福音書における不安と攻撃への対処―原始キリスト教の心理学への寄与」と題し、攻撃と迫害の渦中にあったヨハネ共同体の構成員たちの状況に照らし合わせて、自分たちの不安と気後れに対処し、喜びと平安へと辿りつけるように助ける試みとしての書簡として書かれた福音書から、現代の心理学へ応用できる治癒効果について講演を行った。
田川健三氏は2日目のセミナーで「ヨハネ福音書とイエスの事実―ヨハネはなぜ史的事実を細かく性格に伝えようとしたか―」と題して講演を行い、「事実」を記した共観福音書に対して、すぐれた神学思想を記したと評価されているヨハネ福音書について、地理的歴史的事実が極めて微細な正確さにこだわって書かれてある一方、時間空間を超えた超越的真理が記されている同福音書のアプローチについて、ヨハネの姿勢を正確に理解するためにいかに考察すべきかについて講演を行った。
また1日目のレセプションでは東京大学名誉教授で自由学園最高学部長の大貫隆氏が「遅れてくる了解―死人たちには未来がある」と題して東日本大震災で多数の犠牲者が生じた惨事に対してキリスト教は何を語り得るのかに関する講演を行った。
今回の聖書フォーラムの各講義録は田川健三氏を除き各講演者の講義が収録され、12月15日に書籍「聖書を識る。国際聖書フォーラム2012講義録」として出版予定であるという。
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