8日、明治学院大学白金校舎(東京都港区)で第32回賀川豊彦記念講演会が行われた。今年度は明治学院学院長久世了(くぜ・さとる)氏が「今後の日本と歴史の教訓」と題して講演を行った。キリスト教主義教育を行う明治学院大学として、「見えないもの」に目を向け、短期的な視点やマスコミの誇大報道を鵜呑みにせず、長期的な視野で「文化大国」としての日本の発展を目指していくべきであると述べた。
国内マスコミでは、日本政府が震災による損害額は25兆円にも上ると見積もっており、復興費が莫大にかかるということを誇大に報じている。このことについて、久世氏は経済学的視点から、東日本大震災の損害額25兆円という規模について、「日本の国民総生産(GNP)のわずか5パーセントに過ぎず、毎年日本経済は500兆円くらいの所得を生んでおります。その中から毎年1パーセントづつ注ぎこんでいけば、5年で25兆円は完済することができる額です」と述べた。
マスコミが日々紙面で震災や多額の国債が積み重なっていることについて、「日本経済崩壊」、「日本が破産する」などと騒ぎ立てているが、これは日本政府が国債として借金をしている額を返済する際のわずかな金利を支払い、残金を清算しなければならないことへの危機感が政府内で現実として生じていることを過大に報じているだけであり、日本政府が発行する国債の大方の債権者はそもそも日本国民であるため、本質的な問題は、債権者の「投資先の問題である」と指摘した。日本政府は国債の返済が困難になることを防ぐため「復興税」なるものを付け加えようとしているが、これについては「大震災に託けて増税を行おうとしているのではないか?」と疑問を投げかけた。
東日本大震災に伴う今後の日本を考えるときに、「限られた角度からの議論に惑わされず、先の方を考えるべきである」と警告した。先の方を考えるためにも歴史の流れの中から将来を予想し、可能性を見出すにはどうするべきかを考える姿勢が大切であるという。
久世氏は「経済」というものについて、動物と人間を対比し、「人間は食べるだけを超える存在であり、食べる以上に得られることのできた利益が『経済余剰』となります。この経済余剰がどのくらい生み出され、誰が何の目的に使うのかを伝えているのが歴史であるといえるでしょう」と述べた。
その上で日本史を振り返り、「日本は弥生時代から経済余剰があり、弥生時代に生み出された経済余剰を用いて互いに戦争を起こすようになりました。その戦争が治まらないため、ひとりの女王卑弥呼を定めることで、ようやく国が治まるようになりました」と説明した。その後、平安時代、戦国時代、徳川時代と歴史が変遷していく中でも、相当の経済余剰が生じた。明治時代の新政権は徳川時代を「暗い時代」であったと宣伝したが、結局はそのように国民に伝えることで明治政府が今後の「富国強兵」策に経済余剰を国民の同意を得てふんだんに使用できるようにしたいという目的があっての宣伝であったと説明した。
明治時代となり、黒船来襲によって開国せざるを得なくなるまでの日本は、鎖国状態であり、その中で経済余剰が戦争に使われることよりも大衆文化に使われるようになったため、浮世絵や歌舞伎など日本の文化が高まるようになり、現代の日本の芸術・漫画文化を培う土台となったという。東日本大震災で世界各国が進んで日本に支援を行おうとするようになったのも、「日本文化が世界に広がって、日本という国に親しみ、あこがれて、愛情を持っている人がたくさんいることの表れである」と述べた。
また、経済学の視点から日本のマスコミ報道を振り返り、マスコミがバブルの崩壊や破産大国日本などと騒ぐのは、「金融資産の投資先がない」ことがその原因となっているだけであると説明した。結局経済システムの流れに滞りが生じ、これまでの投資先によるリターンが見込めなくなることで、投資先を他に変更しようとする動きが生じる。しかし投資先がどこにも見つからなければ、物が売れなくなり、物が売れなくなれば景気が悪くなることにつながる。今の日本は、国内での投資よりも中国など海外へ投資する方が、リターンが大きいため、海外に金融資産を投資しようとするようになっているという。その結果国内投資が減少するため、国内の学生の就職難が生じているのであり、その分日本企業の投資の結果、中国など海外の学生の就職状況が良くなってきているという。
また投資先としての選択肢が最終的にどこにもなくなると、行き先のない経済余剰が「軍事力」として投資されてしまう危険性に懸念を示した。久世氏は、経済学的視点で社会に生じる事象を読み、「金融資産の投資先」、「誰がどこに経済余剰を投資しようとしているのか」を見つめることで、歴史の流れがわかり、歴史を生み出す原因は経済余剰にあると指摘した。
久世氏はこれからの日本について、日本の歴史を振り返り、「過去の敗戦や日本国憲法から見ても、軍事力に投資することはできません。残るのは文化でしかありません」と述べた。江戸時代の日本の経済余剰が文化のために投資されたのと同様に、現在生み出されている経済余剰を日本の文化のために投資し、日本が「文化大国」となることがこれからの日本の進むべき道であるという。
次ページはこちら-「キリスト教教育はなぜ重要か?」
クリスチャントゥデイからのお願い
皆様のおかげで、クリスチャントゥデイは月間30~40万ページビュー(閲覧数)と、日本で最も多くの方に読まれるキリスト教オンラインメディアとして成長することができました。この日々の活動を支え、より充実した報道を実現するため、月額1000円からのサポーターを募集しています。お申し込みいただいた方には、もれなく全員に聖句をあしらったオリジナルエコバッグをプレゼントします。お支払いはクレジット決済で可能です。クレジットカード以外のお支払い方法、サポーターについての詳細はこちらをご覧ください。
人気記事ランキング
-
「信教の自由を脅かす」 旧統一協会の解散命令巡り特別集会、西岡力氏らが登壇
-
牧師を辞めた理由は? 元牧師730人を対象に調査 現役牧師や信徒へのアドバイスも
-
「苦しみ」と「苦しみ」の解決(11)「苦しみ」が始まるまでの経緯(後半)救いの計画 三谷和司
-
ワールドミッションレポート(8月22日):コンゴのレンドゥ族のために祈ろう
-
「苦しみ」と「苦しみ」の解決(11)「苦しみ」が始まるまでの経緯(前半)悪魔の起源 三谷和司
-
進藤龍也氏×山崎純二氏対談イベント「神様との出会いで人生が変わった」 埼玉・川口市で8月30日
-
米福音派の重鎮、ジェームス・ドブソン氏死去 フォーカス・オン・ザ・ファミリー創設者
-
ワールドミッションレポート(8月27日):リビア 砂浜に響く殉教者たちの祈り(2)
-
花嫁(31)神に従う者の道 星野ひかり
-
「森は海の恋人」の畠山重篤さん、気仙沼市の名誉市民に
-
牧師を辞めた理由は? 元牧師730人を対象に調査 現役牧師や信徒へのアドバイスも
-
「信教の自由を脅かす」 旧統一協会の解散命令巡り特別集会、西岡力氏らが登壇
-
花嫁(31)神に従う者の道 星野ひかり
-
米福音派の重鎮、ジェームス・ドブソン氏死去 フォーカス・オン・ザ・ファミリー創設者
-
進藤龍也氏×山崎純二氏対談イベント「神様との出会いで人生が変わった」 埼玉・川口市で8月30日
-
「森は海の恋人」の畠山重篤さん、気仙沼市の名誉市民に
-
日本人に寄り添う福音宣教の扉(229)コロナ禍による信仰生活への影響 広田信也
-
主キリストの大きな力で癒やされよう 万代栄嗣
-
篠原元のミニコラム・聖書をもっと!深く!!(241)聖書と考える「大追跡~警視庁SSBC強行犯係~」
-
幸せな人生とは 菅野直基
-
牧師を辞めた理由は? 元牧師730人を対象に調査 現役牧師や信徒へのアドバイスも
-
新約聖書学者の田川建三氏死去、89歳 新約聖書の個人全訳を出版
-
キリスト教徒が人口の過半数を占める国・地域、この10年で減少 米ピュー研究所
-
N・T・ライト著『わたしの聖書物語』が大賞 キリスト教書店大賞2025
-
「20世紀のフランシスコ・ザビエル」 聖心女子大学で岩下壮一神父の特別展
-
「苦しみ」と「苦しみ」の解決(10)「苦しみ」から「苦しみ」へ 三谷和司
-
日本キリスト教協議会、戦後80年の平和メッセージ キリスト者の戦争加担にも言及
-
日本基督教団、戦後80年で「平和を求める祈り」 在日大韓基督教会と平和メッセージも
-
コンゴで教会襲撃、子ども含む43人死亡 徹夜の祈祷会中に
-
福音派増えるベネズエラ、大統領が「マーチ・フォー・ジーザスの日」制定 全国で行進