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エイブラハム・リンカーンの生涯

奴隷解放の父―エイブラハム・リンカーンの生涯(18)国会議員となって

2024年5月1日18時35分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
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関連タグ:エイブラハム・リンカーン
奴隷解放の父―エイブラハム・リンカーンの生涯(1)プロローグ―荒野を旅して+
エイブラハム・リンカーン(1863年撮影)

1847年。リンカーンは38歳で国会議員となった。国会内では「奴隷問題」が最大の議題となっており、奴隷制度を巡って賛否両論が渦巻いていた。リンカーンの胸には「奴隷制度廃止」への熱情が火のように燃えていた。彼は国会における弁論では、変わらずにこう訴えていた。

「この奴隷制度という人道上決して許されるものでない問題に対して、今こそわれわれが立ち向かう時が来たのではないでしょうか。皮膚の色が違うからという理由でアフリカの奥地で平和に暮らしていたこの兄弟たちを搾取し、売買し、酷使して死に至らしめているこの事実を、神は許されるはずがありません。自由と平和をうたうアメリカ合衆国の歴史にこの奴隷制度は長く汚点となって残されるでありましょう・・・」

リンカーンの演説に、一部の議員は耳を傾けたが、多くは妙な顔をし、そっぽを向く者もいた。しかし、リンカーンは非難されようと、軽蔑されようと少しも気にかけていなかった。あのニューオーリンズの町で初めて「奴隷市」を見た日から、そして神の前にいつの日か、この呪わしい制度を必ずやなくしますと誓ったあの時から、「奴隷制度廃止運動」は一生の課題となっていたのだった。

リンカーンは父の家を出ても、月々わずかな仕送りをすることを忘れなかった。そして、トーマスが70歳になった今、ジェーンズヴィル村にこぢんまりとした家を買って両親を住まわせたのだった。今2人は夕食後、しきりにエイブの話をしていた。トーマスは、暖炉のそばの安楽椅子に身をうずめて、火を見つめていた。

「あなた、今日もあの子から手紙が来て、お金を送ってきましたよ」。サリーがこう言って手紙を見せた。

「エイブはやさしい子だったからなあ。今も変わりなくてうれしいよ」。「ねえ、あなた。今日の手紙を読んだら、あの子議会で奴隷廃止の演説をしたんですって」

「そうか。偉くなったんだなあ。でも、エイブもあんまり奴隷廃止だなんて演説をしていると、反対派に憎まれるぞ」。「私もそれが心配なの。この間、金物屋のデニスさんが新聞を見せてくれたんですけれど、南部の人や『民主党』の人たちはエイブに大反対なんですって。でも、手紙の中であの子は、全世界を敵としても、最後まで戦いますと書いてきたわ。デニスさんいわくは、『共和党』の人たちは次の大統領候補にエイブを立てると言っているんですって」。「そうか。ありがたいことだなあ。あの子が大統領になるまで生きていたいものだ」

しかし不運にも、トーマスはこの翌年1851年の冬、楽しみにしていたエイブの大統領になる日を待つことなく、亡くなったのであった。

それは1852年のことだった。奴隷制度の賛否で揺れ動くアメリカ合衆国に、雷が落ちたような出来事が起こった。ハリエット・ビーチャー・ストウという平凡な一人の主婦が『アンクル・トムス・ケビン(アンクル・トムの小屋)』という小説を出版し、ベストセラーとなったのである。

ケンタッキーの地主の奴隷小屋に、トムという忠実なクリスチャンの黒人奴隷がいて、売られていく先々でイエス・キリストの話をして皆を慰め、最後は冷酷な主人のためにむちで打ち殺されてしまうのだが、多くの人に愛の尊さを教えたのだった。

この小説は、ある人々の頬を涙で濡らし、ある人々の胸に人道の火を燃やし、そして北部、南部いずれにおいても多くの人々に「奴隷制度」に対する怒りと疑惑を投げつけることになったのだった。

リンカーンは、この小説を読んで驚嘆した。自分がニューオーリンズで見た「奴隷市」よりも、なお正確に虐げられる奴隷たちの姿を生々しく描写してあったからである。

(一人の名もない主婦が、何という作品を書いたのだろう)リンカーンはつぶやいた。そして、このストウ夫人にひと目会いたいと思ったが、この時は実現しなかった。

1860年。51歳のリンカーンは、「上院議員選挙」への出馬を決意した。彼が属する「共和党」では多数支持があったが、戦う相手の「民主党」にはダグラスという大政治家が党首となっていた。彼は、リンカーンと同じイリノイ州出身の州議会議員だったが、奴隷制度廃止には大反対であった。その学識も弁論もリンカーンより優れ、家も富み、リンカーンが弁護士を始めたとき、すでに「イリノイ州高等判事」の地位に就いていた。2人は選挙戦で激しく戦ったが、リンカーンは惜しくも敗れた。

*

<あとがき>

その頃、米国の国会では奴隷制度を巡って賛否両論が渦を巻いていました。38歳で国会議員となったリンカーンは、「奴隷制度廃止」の悲願を胸に、連日議会で演説をしていました。彼の胸には、忌まわしいこの制度を何とかなくしたいという火のような熱情が燃えていました。

このような多忙な生活を送っていても、彼は両親に仕送りするのを忘れず、ジェーンズヴィル村にこぢんまりした家を買って2人を住まわせていたのです。2人はリンカーンが議会で「奴隷制度廃止案」を堂々と述べたことを手紙で知って誇りを感じるとともに、彼には敵も多いことを知って身を案じるのでした。

そんな時、ハリエット・ビーチャー・ストウという平凡な一人の主婦が『アンクル・トムス・ケビン』という小説を書き、これがベストセラーとなって奴隷廃止運動を盛り上げたことをリンカーンは知りました。そして、何とかして彼女にひと目会いたいと願ったのですが、この時はかないませんでした。

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◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイに中・高生向けの信仰偉人伝のWeb連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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