世界初 新旧約全巻そろった手話訳聖書、アメリカ手話で完成

2020年9月26日09時35分 記者 : 井手北斗 印刷
+世界初 新旧約全巻そろった手話訳聖書、アメリカ手話で完成
アメリカ手話訳聖書の最後の収録を記念して祝うスタジオ=6月21日(写真:デフ・ミッションズのフェイスブックより)

新旧約全巻がそろった手話訳聖書がこのほど、世界で初めて完成した。完成したのは、アメリカ手話(ASL)で訳された「American Sign Language Version=ASLV(アメリカ手話訳聖書)」。翻訳には38年を要したが、ASL話者が聖書全巻を読むことができるようになっただけでなく、貴重な参照資料として、世界に約400あるとされる他の手話言語による聖書翻訳も後押しすることになる。米国のろう者(聴覚障害者)宣教団体「デフ・ミッションズ」が22日、公式サイト(英語)で発表した。

デフ・ミッションズによると、ASLVはヘブライ語、アラム語、ギリシア語の原語で書かれた写本を底本にし、米国聖書協会、ろう聖書協会、デフ・ハーバー、ドア・インターナショナル、パイオニア聖書翻訳協会、シード・カンパニー、ウィクリフ聖書翻訳協会の支援を受けて翻訳された。デフ・ミッションズのフェイスブックには、38年にわたる翻訳の歴史をまとめた動画が投稿され、完成を喜び、神に感謝するコメントが相次いで寄せられた。

翻訳に携わったのは、自らもろう者である53人。翻訳した節数は全部で3万1103節に及び、1節の翻訳当たり実に195ドル(約2万円)もの費用がかかったという。これまで翻訳した聖書の各巻は、VHSやDVD、ウェブ、ストリーミング、アプリなどの形式で配布されており、アプリのダウンロード数は100万件を超えている。

米ギャローデット大学のロス・ミッチェル教授らの調べによると、米国では25万人のろう者がASLを使用しており、ろう者以外の話者を含めると50万人がASLを理解する。

日本ASL協会によると、ASLは主に米国やカナダで使用されている手話言語。手話は国ごとに異なるため、英語を公用語とする国すべてでASLが通じるわけではない。そのため「英語手話」は存在せず、英国には「イギリス手話」(BSL)、オーストラリアには「オーストラリア手話」(オースラン)というように、国別の手話が存在する。

これとは逆に、英語が公用語でない国にASLが持ち込まれ、ASLの派生言語としてその国の手話ができた例も多く、中南米やアフリカ、ギリシャ、東南アジアなどの一部の国の手話はASLの影響を受けている。そのため、これらの国の手話言語で聖書を翻訳する際には、今回完成したASLVが貴重な資料となる。

日本では、日本ろう福音協会が1993年から日本手話による聖書翻訳を行っており、現在、旧約の16・82パーセント、新約の74・67パーセント、聖書全体では31・59パーセントの翻訳が終わっている。同協会のウェブサイトによると、手話言語による翻訳には、歴史や原語を紙に描く事前研究、頭に想像した情景を手話化するイメージング、ギリシャ語やヘブライ語との比較をする原語対照、正確性を確認する手話チェック、ろう者に実際に見てもらい修正点を洗い出す理解評価チェックなどの過程をへて、初めて撮影や収録、デジタル化作業などを行うもので、多大な労力が必要とされる。

ろう者である村上幹夫牧師(東洋ローア・キリスト伝道教会前橋伝道所)は、「ついにASLによる聖書全巻が完成したことを心から喜んでいます。ASLによる聖書の翻訳は1980年代から始まったもので、手話といっても時代によって表現もニュアンスも変わることもあり、本当に大変だったろうと理解しています」と語った。

村上牧師によると、聴覚の障害は言語の習得に大きな影響を与える。視覚的に見える文字も、理解するにはまずそれが言語を表したものであると認識する必要がある。さらに日本のろう者が使う「日本手話」は、日本語とは別の独立した言語。そのため、日本手話を第一言語とするろう者にとって、日本語は外国語に近い認識。「日本語訳聖書も辞書なしで外国語の聖書を読むようなもの」だという。

「ASLVは、ろう者を主体としたろう者による翻訳であり、画期的なものだといえます。今まで手話による聖書全巻の翻訳がなかったということからも、極めて困難な作業であったことが分かると思います」

村上牧師によると、ASLと日本手話では「イエス(Jesus)」が共通している。これは、教会が「イエス」という手話単語を生み出したからで、香港手話やフィリピン手話、韓国手話、台湾手話でも同じだという。一方、「教会」や「神」「キリスト」という単語は、共通している手話言語もあれば異なる手話言語もある。

「ろう者にとって手話は不可欠なものです。マルコの福音書7章33~34節においてイエスが行われた行動は、その癒やされたろう者に対する『手話』であったといえると思います。今回の手話訳聖書の完成によって多くのろう者が、イエス様が『エパタ』と言われたように、霊的に開かれることを祈っています」

村上牧師が交流のある香港手話聖書翻訳協会では、昨年から翻訳が始まったばかり。「まだ始まったばかりでいろいろと大変そうです。日本手話や香港手話を含め、さまざまな手話で訳された聖書が、一つでも多く完成するよう祈っています」と語った。

デフ・ミッションズは、10月1日にオンラインで記念会を開催する予定。ASLVは、ウェブサイトアプリで、誰でも無料で利用することができる。

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