宗教者による性虐待・性暴力被害のトラウマの深刻さ 精神科医の白川美也子さんが講演

2020年7月28日14時35分 印刷
+宗教者による性虐待・性暴力被害のトラウマの深刻さ 精神科医の白川美也子さんが講演
※ 写真はイメージです。(写真:Masaharu Fujikawa / CC BY 2.0 / 一部加工)

「カトリック神父による性虐待を許さない会」が主催する集会が26日午後、オンライン会議システム「Zoom(ズーム)」を利用して開催された。当初は横浜市内の会場で開催を予定していたが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、オンライン集会に変更。約60人が参加し、性暴力被害に詳しい精神科医・臨床心理士の白川美也子さんが講演したほか、同会の会員で神父による性虐待被害者の男女2人が自らの体験を語った。また、6月に長崎で開催した集会の報告も行われ、そこで初めて公の場で語った長崎大司教区の被害女性信徒の声も紹介された(関連記事:カトリック神父の性虐待被害者3人が体験語る 「悲しみと怒りで全身が震えた」)。

白川さんはこの日、性暴力によって発生するトラウマや心的外傷後ストレス障害(PTSD)、日本における性虐待の現状、宗教者による性暴力被害がもたらすトラウマの深刻さなどについて語った。

性虐待は「社会的なパンデミック」

トラウマとは、非日常的な恐怖体験(トラウマ体験)によって起こされる心的外傷。地震や火災、事故、親しい人の突然の死、性暴力などがトラウマ体験となり得る。白川さんによると、「①突然の予期しない、②自分や親密な他者の、③死やけがの恐怖を伴う、④コントロール不能な体験」と定義することができる。

トラウマ体験となり得る被害のうち、子どもへの性暴力(性虐待)は非常に頻繁に発生している。性虐待(痴漢含む)を経験したことのある子どもは、女児が4~6人に1人、男児が8人に1人に及ぶとされている。児童相談所に寄せられる性虐待の相談件数は年間1500件ほどだが、実態はその数倍あると考えられている。一方、児童養護施設における児童間の性的問題行動は2017年に初めて調査が行われ、約700件も存在することが分かった。さらに宗教者による性虐待も次々と明らかになっており、白川さんは、性虐待が「社会的なパンデミック」の状態にあるとその深刻さを訴えた。

性暴力による被害は、他の被害に比べてさまざまな特徴がある。女性であれば妊娠の可能性があるなど、被害後に対応が必要な事柄が多く、「なぜ、あんなところにいたの?」と、被害者が非難されたり、被害者自身が自責の念にかられたりするケースも非常に多い。また被害を伝える際には、性行為に類似した表現を使用しなければならず、それ自体が苦痛を伴う。PTSDの発症率も高く、被害を自覚するのに時間がかかるケースも多い。被害を公にすることに家族から圧力があることもあり、日本では警察に被害を申告する人は15パーセント弱しかおらず、米国でも強姦(ごうかん)被害者の36パーセントしか被害を申告していない。

トラウマ体験がもたらすストレスは、通常のストレスと違い、体験後もその記憶が冷凍保存されたように鮮明に残ってしまう(トラウマ記憶)。そしてPTSDになると、このトラウマ記憶が、あるきっかけ(トリガー)によってよみがえり、トラウマをもたらした出来事が「今、ここ」で起こっているように「再体験」(フラッシュバック)することがある。また逆に、そうしたトリガーとなり得るものを「回避」したり、さらには感じることそのものを切り離す「麻痺」が起こったりする。この他、不眠や驚愕反射など、「過覚醒」の状態にもなりやすくなる。

宗教者による性暴力

宗教者からの性暴力については、性というデリケートな領域における暴力という特質に加え、被害を訴えても「信じられない」「あり得ない」と否認されやすく、被害が認知されにくい問題がある。また、被害者自身も社会的な偏見やバイアスから、「被害を口に出すことは教会への冒とく」と、自分自身に内的なプレッシャーをかけてしまうことがあり、宗教共同体に対する思い入れや加害者に対するそれ以前の尊敬や愛着が開示を妨げてしまうこともある。

さらに開示したとしても、さまざまな力格差から再被害が続くことがある。被害者は、加害者個人だけでなく、宗教共同体、場合によっては神からも裏切られたような主観的体験をし、非常に大きなダメージを受けることになる。

祈るだけではダメ、必要なのは正しい対応

白川さんは、こうした性暴力による被害の深刻さを伝えた上で、トラウマを抱える人たちへのアプローチとして、米薬物乱用・精神衛生管理庁(SAMHSA)が作成した「3つのE」や「4つのR」を紹介した。

このうち「4つのR」とは、トラウマが及ぼす影響、回復への道筋を「理解(Realize)」し、被害者を中心としたすべての関係者のトラウマによる症状や反応を「認識(Recognize)」し、トラウマに関する知識をあらゆる支援プロセスや支援システムに統合して「対応(Response)」し、「再トラウマ体験を防ぐ(Re-Traumatization)」こと。

特に2つ目の「認識」については、トラウマをもたらす出来事は、加害者や被害者だけでなく、教会など関係するすべての人、組織が否定したくなる出来事であり、否認や隠蔽が生じてしまうことがあることを認識する必要があると説明。そして再トラウマ体験を防ぐには、専門家が被害者のケアに当たれば済むことではなく、組織ぐるみの変革が必要だと強調した。また、3つ目の「対応」については、宗教における祈りの重要さを認めつつも、「ここにおいて必要なのは正しい対応」と指摘。正しい対応を取らずに祈るだけではだめだと語った。

性虐待・性暴力のない社会のために伴走を

白川さんの講演後、昨年日本で初めて神父による性虐待被害を実名告発した竹中勝美さんと、カトリック聖職者による性虐待被害者の世界的ネットワーク「SNAP(スナップ)」で活動している鈴木ハルミさんが体験を語った。また、6月の長崎での集会で被害を訴えた50代の女性信徒の声も録音で流され、長崎大司教区内での一連の動きなどが概説された。一方、この日は、横浜教区の神父から性暴力を受けたと訴えている女性信徒も語る予定だったが、体調が優れずこの日は欠席した。後日、別の集会を開催し、機会を設ける予定だという。

集会最後には参加者からの質問に応じる時間も持たれた。「周囲からどのような支援を必要としているか」。鈴木さんは「(被害者のことを)受け入れてもらいたい」と言い、被害について語ると、謝罪や慰めの言葉をかけられることがある一方、「何十年も前のことなのに、なぜ今頃になって言うの?」など、被害者を責め立てるような声もあると説明。「(性暴力は)ショッキングなことで聞きたくないかもしれませんが、こういうことがたくさんあるというのも現実。こういうことがない社会のために伴走してほしい」と語った。

フラッシュバックが起きたときの対処法について尋ねる質問では、アルコール依存症も経験した鈴木さんは、依存症の自助グループの女性スタッフの元に行きハグしてもらったと明かした。SNAPの代表者に相談したことも多く、「同じ痛みを経験した人、仲間に話すのが一番」と勧めた。一方、竹中さんは「傷を負ったオオカミが、傷が癒えるまで巣穴の中でこもっている」というイメージを自身に重ねるようにしたという。また、とてもつらいときは、10~20キロ程度ランニングするなどして、体がくたくたになるまで運動したと話した。

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