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ジョージ・ミュラーの生涯

日ごとのパンを求めて―ジョージ・ミュラーの生涯(5)私は罪びとです!

2026年6月11日16時23分 コラムニスト : 栗栖ひろみ
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百人一読―偉人と聖書の出会いから(30)ジョージ・ミュラー 篠原元+
ジョージ・ミュラー(1805~98)

こうして誘われるまま、ミュラーはワグナー家で行われる家庭集会に顔を出すことにした。ワグナーというのは近くの商店街の雑貨屋の主人だが、家族そろって熱心なクリスチャンで、週に一度自分の家を集会のために提供していたのである。

そして12、3人の信徒がここに集まり、聖書研究と祈り会を持っていたのだった。

ミュラーは家族と共にルター派の教会に通ったことがあったが、その教会では、牧師が講壇から説教をするだけで、このように少人数の信徒だけで祈り会を行うなどということはなかったので少々奇異の念に打たれた。

「では集会を始める前に、聖書を読ませていただきます」。司会者がこう言うと、聖書を開いて朗読した。

医者を必要とするのは、丈夫な人ではなく病人です。「わたしが喜びとするのは真実の愛。いけにえではない」とはどういう意味か、行って学びなさい。わたしが来たのは、正しい人を招くためではなく、罪人を招くためです。(マタイの福音書9:12、13)

その時のことだった。一人のひげ面の男がその場にひざまずくと、両手を上げて祈り始めたのである。

「憐(あわ)れみ深く、愛に富める父なる神様。われらは全て罪びとです。どんなに立派なことを言っても、たくさんの献金をしても、やはりみんな罪びとです。兄弟をばか者と言ったり、意地悪をしたり、そして兄弟を愛することを知らない罪びとです。しかし、それにもかかわらず、イエス様は十字架の血潮をもってその罪を贖(あがな)い、しみも傷もない神の子どもにしてくださいました。そして、われらを兄弟としてくださいました。それ故、どうか私たちは互いにそれぞれのとがを赦(ゆる)し合い、熱い兄弟愛をもって支え合い、助け合っていけますように。主イエス・キリストの御名によって祈ります」

一同はそろってアーメンと和した。その瞬間、初めて氷が溶けるように、ミュラーの心の中から罪、とが、そして憎しみや恨み、その他が消え去っていくのを覚えた。気が付くと、彼自身も床にひざまずき、この祈りに心を合わせていた。

この人物は、ケイシャというアフリカから来た伝道者で、この集会を導くために招かれたのであった。

この後、ケイシャは短いメッセージを語り、最後に、この家の主人ワグナーの祈りによって、この家庭集会は終わった。

ミュラーは全身が痺れたようになり、この新しい体験によって打ち倒されたように感じた。その時、彼は不思議な体験をしたのである。急に全ての物音が消え、鎮まり返ると、この狭い部屋の中が、突然天井から差してくるまばゆい光に照らされ、そこにイエス・キリストが立っておられるような気がした。

「主イエス様」。彼は、思わず両膝をついて拝した。

「ジョージ・ミュラー」。イエスは手を差し伸べると、彼の髪の上に置いた。それは不思議な声だった。ささやくようでありながら、魂の奥まで届き、心身を覚醒させるような力があった。

「あなたの罪は赦された。安心して行きなさい。そして今後は、最も小さな兄弟に仕えなさい」

「はい……イエス様、仰せの通りに」。彼は、震えながら言った。

「最も小さな兄弟の一人にしたことは、私にしたのです」

「その最も小さな兄弟というのは、どこにいるのでしょうか」

すると、イエスはやや悲しげに微笑しつつ言った。「それは間もなく示されるでしょう」。そして、その姿は次第に濃くなる夕闇の中に溶けるように消えてしまった。

気が付くと、集会はまだ続けられており、ミュラーは他の信徒と同じように床にひれ伏すようにして祈っていた。

「先生、今初めて分かりました」。彼は皆に祝福を与えているケイシャに言った。

「イエス様が、私のように罪深い者をも今なお愛してくださっているということを。そして、私たちはそれだからこそ兄弟であって、互いに受け入れ合わなくてはいけないのだということを」

伝道者は、彼の頭に手を置いて祝福した。ジョージ・ミュラーが新しく生まれ変わった瞬間だった。

*

<あとがき>

ワグナーという人が家庭を開放して行った集会に初めて出席したミュラーは、そこで驚くべき体験をします。その集会を導いたのはケイシャというアフリカから来た伝道者でしたが、彼は床にひざまずくと「兄弟を愛することを知らない自分たち罪びとをお赦しください」と祈ったのです。

人が床にひざまずいて祈るという光景を初めて見たミュラーは心打たれ、いつの間にか自分も同じようにひざまずいて、同じ祈りをしたのでした。

その直後、彼は不思議な幻を見ます。それは、イエス・キリストが彼の前に立ち、罪の赦しを与えた上で、「最も小さな兄弟に仕えなさい」と告げられたのです。

この時、ミュラーは新しい人生と新しいビジョンを与えられたことを知りました。それこそ社会からないがしろにされていた孤児たちを引き取り、彼らのための家を作るという今まで誰も心に思い描いたことのない事業を始めるビジョンでした。

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◇

栗栖ひろみ(くりす・ひろみ)

1942年東京生まれ。早稲田大学夜間部卒業。80〜82年『少年少女信仰偉人伝・全8巻』(日本教会新報社)、82〜83年『信仰に生きた人たち・全8巻』(ニューライフ出版社)刊行。以後、伝記や評伝の執筆を続け、90年『医者ルカの物語』(ロバ通信社)刊行。また、猫のファンタジーを書き始め、2012年『猫おばさんのコーヒーショップ』で日本動物児童文学奨励賞を受賞。15年より、クリスチャントゥデイで中・高生向けの信仰偉人伝の連載を始める。20年『ジーザス ラブズ ミー 日本を愛したJ・ヘボンの生涯』(一粒社)刊行。現在もキリスト教書、伝記、ファンタジーの分野で執筆を続けている。

※ 本コラムの内容はコラムニストによる見解であり、本紙の見解を代表するものではありません。
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